75 田川欣哉(デザインエンジニア)×ドミニク・チェン(ITアーキテクト)前編

田川欣哉(デザインエンジニア)×ドミニク・チェン(ITアーキテクト)

六本木の街なかで、イノベーションプロジェクトを。

デザインラボ
東京大学生産技術研究所の新たなデザイン拠点。英国 RCAと共同で、国内外の研究者とクリエイターが集う、開かれた産学協働拠点を目指す。その第一歩として、2016年12月、デザインとテクノロジーの未来を語り合うトークセッション「Design-Led X」が行われた。

田川今、イギリスの「ロイヤル・カレッジ・オブ・アート」で客員教授をしているんです。僕自身、東京でエンジニアリング、イギリスでデザインを勉強して両方に育てられた感覚があるから、この2つの都市に何か恩返し的なことができないかなと思って、「東京に世界最高峰のデザインラボをつくろう」って言いはじめたんです。そうしたら、東京大学の生産技術研究所が連携してくれることになって。

「テック・ドリブン・イノベーション」「デザイン・ドリブン・イノベーション」「インダストリー・ドリブン・イノベーション」という3ラインを持ったユニークなラボ。アカデミアだけに閉じずに、メンバーを街に連れ出して、いろんなものをつくって都市にまいたり、イベントやワークショップをやったりしたいと思っています。

ドミニク受講したいです(笑)。

田川教えにきてくださいよ。テクノロジーの要素もかなり入ってくるので、そこに六本木という街を掛け合わせたら面白いかも。

ドミニクたとえば、このテックショップとか東京ミッドタウンの裏の森とか、六本木のいろんな場所にデザインラボの人たちが自由にセンサーデバイスを取り付けて、今まで取ってなかった情報を取ったり。

田川それいいですね、やりますか! 未来会議さん、サポートしてください(笑)。

アイデアは「ペイン」から生まれる。

ドミニク僕は大学の授業などで、その人が苦痛に思っていることをあげていくワークショップをやるんです。そうすると、隠れた苦痛に対して「その痛みわかる!」とか「そのストレスわかる?」みたいに共感が生まれて、アイデアにつながる。いわば「ペイン・ドリブン・デザイン」、PDD。今適当に言いましたけど(笑)。

 最初から「30年後の六本木をどうしたいですか?」と聞くと、みんな当たり障りのないアイデアになっちゃう。でも、さっきの田川さんの「空気が少ない」って、ペインですよね。そのペインから欲しい未来のための創造が生まれるので。

 重要なのは、どういう未来にしていきたいか、だと思うんですよね。テクノロジーだけを追求していると、そもそもの動機がどんどん置き去りにされて、「速くて便利だからすごいでしょう」みたいなことになっちゃう。よりお金が儲かるとか、より効率性が上がるということではない、違う評価の軸を入れていかなくちゃいけないと思っていて。

田川テクノロジーは手段で目的ではない。

ドミニク今、アメリカの株式取引の50~60%は高頻度取引アルゴリズムによって行われていて、それを設計する証券会社の天才的エンジニアですら、いろんな会社のプログラム同士がどう相互作用しているのか理解できない、みたいな状態になっている。そんなよくわからないものを走らせて、人間側がダメージを食らったりストレスを受けるのはナンセンスでしょう。

 だから、こういうふうにしていきたいというビジョンを、あらためてもう1回考えようよ、って思うんです。テクノロジーが人間の解像度であったり感受性といったものを追い越すレベルに来ている今、業界全体で議論しないといけない、と。

人類史上もっとも視覚に依存した時代が到来する。

ドミニクちなみに、田川さんの考えるテクノロジーの未来って?

田川ここ20年くらいの話でいうと、スマートフォンが登場して、さらにVRだなんだと、おそらく人類史上もっとも視覚に依存した時代が到来するだろうというのをひしひしと感じてます。人間の五感って、生物として感覚器を得た順番があるんですけど、視覚が一番遅いんですよ。

 で、遅いほどだましやすい。視覚・聴覚はだましやすくて、触覚・嗅覚・味覚あたりはだましにくい。たとえば、ものすごい高精細のVRを見ていると、それが現実のものかどうかわからなくなるし、ヘッドホンで聴いていたらコンサートホールに行かなくても、ある程度その気になりますよね。

ドミニクたしかに、味覚はだましにくいかも。

田川今も食の3Dプリンターはあるけど、全然おいしくないじゃないですか。この順番って人間の親密さとも比例しているなと思って。見るのも嫌だとか、話を聞くのが嫌だとか、付き合ったりしない限りは手なんて握らないし、最後にようやくキスをするみたいな。

 歴史上、技術はその防壁を破壊していく流れだろうと思っているんですよ。まず一番ハックしやすい視覚を攻めるのは当然で、これから触覚・嗅覚・味覚に進むんだけど、最後のほうはかなり難しい。だとすると、料理人の価値は当分残るんじゃないかと思うんです。

 いつでもどこでも現実よりすばらしいものが見られるデジタル体験がバーっと広がる一方で、この人しかない、この食べ物でしかないみたいな一回性の価値がけっこう残る。それらが極端に二分化していくというのが、僕のなんとなくの未来観なんです。

後編はこちら

田川欣哉
Takram代表・デザインエンジニア
ハードウェア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広い分野に精通するデザインエンジニア。主なプロジェクトに、トヨタ自動車「NS4」のUI設計、日本政府のビッグデータビジュアライゼーションシステム「RESAS -地域経済分析システム-」のプロトタイピング、NHK Eテレ「ミミクリーズ」のアートディレクションなどがある。日本語入力機器「tagtype」はニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションに選定されている。グッドデザイン金賞、iF Design Award、Red DotDesignAwardなど受賞多数。未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエータ認定。東京大学機械情報工学科卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートにて修士課程(Industrial Design Engineering)修了。LEADING EDGE DESIGNを経てTakramを共同設立。内閣府クールジャパン戦略推進会議委員。2015年より英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートにて客員教授を兼務。

ドミニク・チェン
株式会社ディヴィデュアル共同創業者/NPOコモンスフィア理事
1981年生まれ。博士(学際情報学)。NTT InterCommunication Center[ICC]研究員/キュレーターを経て、NPOコモンスフィア(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)理事/株式会社ディヴィデュアル共同創業者。IPA未踏IT人材育成プログラム・スーパークリエイター認定。NHK NEWSWEB第四期ネットナビゲーター(2015年4月〜2016年3月)。2016年度グッドデザイン賞・審査員「技術と情報」フォーカスイシューディレクター。著書に『電脳のレリギオ』(NTT出版)、『インターネットを生命化する プロクロニズムの思想と実践』(青土社)、『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社)等。訳書に『シンギュラリティ:人工知能から超知能まで』、『みんなのビッグデータ:リアリティマイニングから見える世界』(共にNTT出版)