73 野田秀樹(演出家)前編

野田秀樹(演出家)

「NODA・MAP」を率い、数々の話題作を発表、国内外で活躍する劇作家であり演出家・役者の野田秀樹さん。「六本木アートナイト2016」に合わせて、多種多様なアーティストが出会い"文化混流"する新たなムーブメント「東京キャラバン in 六本木」を同時開催しました。東京キャラバンのリハーサル真っ只中の野田さんが語る未来の街、そして未来の文化のつくり方とは?

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update_2016.11.3 / photo_tsukao / text_kentaro inoue

文化的な街をつくるために必要なこと。

 日本の街って、どこも似ていますよね。旅公演をしていると、よくそう感じます。地方都市の駅前が全部一緒に見えるのは、そこにあるお店が一緒だから。海外にはチェーン店を入れるな、みたいに頑固な街づくりをしているところもあるように、いいか悪いかは別として、そういうやり方はひとつあるのかもしれません。

 一方で、アートみたいに文化的なもので街づくりをしたければ、突出すれば形にはなると思うけれど、やっぱり上っ面になってしまいがち。というのも、日本にはアートに理解を示す人も少ないし、とくに政治経済関係の上の人間には、まったく興味がないことが多いから。しかも、急にそういうポジションになった人に限って、海外の劇場を観に行って、すぐオペラ好きになっちゃう(笑)。「あんた、日本で何も見たことないだろう!」って。

 今も、2020年の東京オリンピックに向けた文化的な活動がいろいろあるけれど、みんなが本当にそれに興味があって、本気でやりたいと思っているのか、というのが一番大事なところで。って、これ、半分グチになっていますけど。

コンテンツの「数」から「質」に戻ったほうがいい。

 よく、いろんな街で「なんとかふれあいフェスティバル」みたいなイベントをやるでしょう? たしかにある程度ワクワクするかもしれないけれど、日本の場合、だいたいが子ども向け。ある年齢になって、ちょっと根性ひねくれてきた若いやつらが行くかっていうと行かない。どんなイベントにしても、コンテンツの取捨選択をする人の問題って、とても大きいと思うんです。

 たとえば僕は、東京芸術劇場の芸術監督をしていますが、就任当時、公共劇場なので稼働率がどのくらいとか、会議でそういうことばっかり気にして、内容は二の次になってしまっていた。芸術監督の仕事を一言でいうと、「こんな質の低いものはうちではやらないんだ」っていう頑固な姿勢かもしれない。最初にそう言ったら、公共の劇場でそんな例はないとか、なんで東京都のものを都民に自由に使わせないんだ、というクレームがくると。だったら「私が責任を取るっていうことで大丈夫ですか?」って説得した。つまり責任を被りたくない人が多いんです。

 今回の六本木アートナイトにも、同時開催する「東京キャラバン in 六本木」をはじめ多くのプログラムがありますが、公共事業的にたくさん参加アーティストがいれば盛り上がっている、という考え方はしないほうがいいと思っています。みんな数よりも、一度「質」に戻るべき。

「色」を見せることに臆病になると文化の意味がない。

東京キャラバン
「人と人が交わるところに『文化』が生まれる」をコンセプトに、多種多様なアーティストが集う文化ムーブメント。六本木アートナイト2016開催中、六本木ヒルズアリーナで行われた「東京キャラバン in 六本木」(写真上/撮影:篠山紀信)には東京スカパラダイスオーケストラ、宮沢りえ氏などが参加。写真下は、2016年8月にオリンピック開催中のリオで行われたワークショップの様子。

 企画をするということは、自分たちが考えている「色」を見せること。そこで臆病になってしまうと、文化の意味がない。これが、日本が同じような街ばかりになってしまう理由でもあるんじゃないかな。もちろんクオリティクオリティとばかり言う必要ないけれど、最低、自分はこういうものが好きだっていうのを、はっきり通すことが必要でしょう。

 ちなみに、東京キャラバンというのは簡単にいえば「文化サーカス」。最初は、東京オリンピックに向けた文化プログラムをつくろうという話からはじまったのですが、どうもそういう会議っていうのは抽象論が多くて。「日本という国は、伝統とモダンが溶け合っていてすばらしい」とか、ごもっともなんですけど、じゃあ何をやるのっていうと、何も出てこない。

 そこで週末、街角に突然ひょこっと文化サーカスみたいのが現れて、翌日の夜にはパフォーマンスを見せて夢のように消えた......なんて体験があったら楽しいんじゃないかって。サーカスに限らず、自分の街に何かがやってきたらうれしいでしょうし、わくわく感もあるでしょう? もちろんコンテンツも大事だけど、そのプロセスだけでもけっこういいな、と。