常に話題のスポットを創出し続ける、トランジットジェネラルオフィス代表取締役社長の中村貞裕さん。台湾発の大人気かき氷店「ICE MONSTER」、世界で注目を集めるチョコレートブランド「MAX BRENNER」などの海外で人気の飲食店や商業施設のプロデュースの背景には、中村さんの"ミーハーを貫く姿勢"がありました。2018年9月12日(水)に行われた、講義の様子をお届けします。
「僕はすごくミーハーなんです」と自身を称する中村さん。講義は、自身のルーツを語ることから始まりました。
「学生時代から好奇心旺盛でした。バスケやギター、料理など、具体例を挙げたらキリがないほどに、いろいろなことをやってきたのですが、はじめは夢中になっていても、少し上達してきたところでやめてしまうんですよね。つまり、熱しやすくて冷めやすい(笑)。すると20歳を過ぎたあたりから、僕がやめてしまったことをずっと続けていた友人が、スキルを活かして活躍するようになってきました。そんな彼らを見て『もし、自分も同じように続けていれば......』と羨ましく思う気持ちが、だんだんとコンプレックスに変わっていったんです」
そんな中村さんが、"ミーハー"というアイデンティティを肯定的に捉えることができるようになったのは、新卒で入社した伊勢丹で働いていたときのこと。
「先輩や同期から"デート向きのお店"や"今話題のトピック"を聞かれることが多かったんです。そこで気づいたのが、なんでも広く浅く知っていれば、トレンドに詳しい人だと思われること。それからは、ミーハーであることに自信が持てるようになりました」
来場者に向けて、中村さんは自著『ミーハー仕事術』から「影響力のある仕事をするために、大切にすべきこと」を引用して話を進めます。
「自分の目指す到達点が"100"ならば、それを導くために、自分がストレスなく解ける数式を立てることが大切です。僕は、"1"を100個持っているので『1×100』。逆に、ひとつのことを極めている人は『100×1』の数式で、"100"を創造しているんです。
さらに二足のわらじを履いて『2×50』の人もいますし、正しい数式は存在しません。まずは自己分析をして、自分に合った数式を見つけることが大切です。僕の場合は、周りのミーハー仲間と『1×100×5=500』を創造して、さらにプロフェッショナルと組んで『1×100×5×100=10,000』を実現しているんですよね」
【クリエイティブディレクションのルール#1】
自己分析をして、ストレスのないやり方で100を目指す
話題の喚起に、まず必要となるのがマーケティングです。そこで、中村さんは、トランジット流のマーケティング術を明かしてくれました。
「僕たちがひたすら心がけているのは、情報を集めまくること。僕は、週に1〜2回は近所の本屋に行ってありとあらゆる雑誌に目を通し、最新のトレンドを探っています。SNSで気になるものはスクリーンショットを撮っていますし、ミーハー仲間と定期的に情報交換をしています。さらにお金と時間に余裕があれば、インプットした情報の中から気になる場所をピックアップして、国内外問わず視察もしています。すごく狭いと思っていたお店が実は巨大だったり、人気店かと思えば寂れていたりと、写真のイメージとまったく違う場合も多いんです。なので、なるべく自分の目で確かめるようにしています」
「何が話題になるのか」を見極めるためには、目利きにならなくてはいけません。中村さんは「アウトプットを大切にしている人が、目利きになる」と説きます。
「たとえば、Instagramにおいしいグルメ情報をアップし続けている人のもとには、おいしいお店の情報が入りやすくなります。良い情報を出せば出すほど、質の高い情報が入ってきやすくなるんですよね」
トランジットのプロデューサーチーム間では、常に「アウトプット合戦」が行われていて、彼らのLINEグループには「おいしいお店」や「気になる場所」の写真が飛び交っているのだとか。
「アウトプットは、筋トレと同じです。アウトプットを続けていると、質の高い情報に反応する筋肉が鍛えられる。アウトプットを日常的に続けることで、ジムに1年間通い続けたような達成感を味わえるので、おすすめです」
【クリエイティブディレクションのルール#2】
「インプットしたらとにかくアウトプットする」を繰り返して、目利きになる
中村さんが、独立後はじめて手がけたのは、かつて外苑前にあったカフェ「OFFICE」。このカフェの成功で17年前、中村さんは「カフェブームの火付け役」として、一躍有名になりましたが、当の本人である中村さんは違和感を覚えたといいます。
「"ブームの火付け役"として注目されることに、ずっと違和感があったんです。『OFFICE』は駒沢公園にあるカフェ『バワリー・キッチン』に影響を受けてつくりましたし、パンケーキもハワイやニューヨークでは日常的に食べられていましたから。僕はブームを0からつくったわけではなかったんですよね」
しかし、ブームは世間が決めること。1から10のものをつくっても、最終的には0から1をつくったように見えるのだと気づいた中村さんは「トランジット流のブーム」を定義していきました。
「僕たちは、1から10をつくることを『ブーム』と定義しています。ブームをつくるためには、1番手じゃなくてもいい。マラソンでたとえるところの"1位集団"に入ることができれば『ブームをつくった』といえますから。さらに、海外ですでにブームになっていたものだとしても、日本ではじめてブームになれば、ブームの火付け役になることができるんです」
「1→10」の思想は、会社の活性化にもつながっているのだそう。
「『1→10』を推奨することで、社員のみんなから意見が出やすくなっていますね。僕たちのように"話題をつくること"を目指す会社であれば、『0→1』の発想法よりも、みんながアウトプットしやすい状態をつくる方が大事だと思います」
【クリエイティブディレクションのルール#3】
0→1の発想より、1→10を目指す
カフェブームが巻き起こってから3年ほど経った頃、雑誌で「カフェブーム終了宣言」といった特集が組まれるなど、流行は終焉を迎えたかのように見えました。しかし、カフェの客足が途絶えることはなく、売り上げは好調だったそう。ちょうどその頃から、アパレルブランドなどの他業種もカフェ事業を始めるようになりました。これは「ブームがスタイルに昇華した瞬間だった」と中村さんは振り返ります。
「ブームは終わりますが、スタイルになればライフスタイルとして定着します。なので僕たちは、既にブームになっているものでかつ、スタイルに昇華しそうなものも常に探しているんです」
一時はムーブメントを形成したものの、スタイルまで至らず廃れてしまうものも存在します。それでも中村さんいわく、そうしたものは「必ずと言っていいほど、再ブームになる」のだそう。
「エンターテインメントでいえば、アイドルブーム。昔おニャン子クラブが一世風靡したのと同様、時を経た2000年代に、AKB48が再び大ブームになりました。80年代に人気だったサーフィンも、ロンハーマンの登場以降、再注目されましたよね。他にもいろいろありますが、過去に大ブームになったものは、アップデートされて再びブームになっています。だから僕たちは、常にブームとスタイルをリサーチしているんです」
【クリエイティブディレクションのルール#4】
「ブーム」と「スタイル」の動きに敏感になる