椿昇さんと長嶋りかこさんのクリエイターインタビューから生まれたアイデア実現プロジェクト「森の学校」。自然とのフィジカルな触れ合いを通して感受性を育む場として、これまで多くの人に気づきとアートやデザインの面白さを伝えてきました。2年ぶりに復活となった今回は、「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2019」の一環として、デザイナー・三澤遥さんが先生となり青空教室を行いました。子どもの頃から自然に触れてきたという三澤さんが、今回考えたオリジナル授業のテーマは「視点」。普段のデザインワークで培ってきた世界の見方を伝えます。いつも見ている風景が、ほんの少しのきっかけで180度変わる、そんな気づきを得られる内容となりました。2019年10月19日(土)に行われた教室の模様をお伝えします。
授業は残り30分。最後に1チームずつ、どんな作業をしたのか、どんな視点で編集したのか、その中でどんな発見があったのか、などを発表していきました。
質感チームの机のまわりに全員が集まり、触感でわけられた植物を実際に触っていきます。中には「ゴジ肌(=ゴジラの肌のような触感)」などユニークな仕分けも。そして、チームのリーダーが「実際に触って、触感、質感を"言葉"にするという作業をしたのですが、私たちが日常で使っている他の素材に言い換えられることは、とても面白い発見でした。また、同じ植物でもそのまま触るとふさふさしているのに、細かく砕くとふわふわになる。裁断することで質感が変わるのも、ひとつの気づきになりました」と発表。
三澤さんは、想定外の広がりを感じたと言います。「ゴジラの肌を触ったことはないですが(笑)、"たしかにゴジラっぽいかも"と想像力が掻き立てられる編集になっているのが面白いですね。こちらでクリアケースを用意していたので、ケースごとに触感を分類して触るイメージはしていたのですが、机の半分ではケースのない分類がたくさんされていて。自分の想像を飛び越えた取り組みが生まれ、とても面白かったです」
そして、向かいの色チームのテーブルには、型抜きされた植物がカラーチャートのように美しく並べられました。リーダーは、その意図を「葉っぱを丸く切り抜くことで形に視点がいかず、より色がはっきりと見えてきました。さらに、色味と濃度でチャートのように並べると、葉っぱであることが認識できなくなるほど、その違いが見えてきたことが今回の発見のひとつ。同じ葉っぱの中でグラデーションになっていたり、落ち葉も経過時間によってまったく色が違ったり。色に注目することで、そういった違いを感じられました」と話します。
実は、三澤さんも事務所スタッフと同じ試みをしたことがあるのだそう。「私たちはここまでの色を集められなかったので、今回、何百色にもなった皆さんのパレットを見て圧倒されました。型抜きしたことで、色だけでなく質感の面白さも見えたのは新たな発見。葉っぱがまるで陶磁器の破片に見えたり、錆びた金属のように見えたり、あらためて"質感って何だろう?"と考えさせられました。植物が植物らしからぬところに行きつくと、デザイン的な思考が生まれる。それは、私にとって大きな気づきでした」
続く、形チームは「抽象的な記号からイメージして、集めた植物を分類していきました。例えば、"輪っか"の記号がありますが、自然にある植物に輪の形ってなかなかないんですが、視点を変えると葉のシミが輪っかになっていることに気づきました。同じものでも、注目する視点や角度によって違って見える。記号を介して分類していくと、普段は共通点が見つけづらい植物同士に新たな関係性が生まれるのも、新しい気づきだと思います」とリーダーが発表。
三澤さんは、その分類の過程にも、面白さを感じたと話します。「ただ、形を並べるだけじゃなく、"どう形を見るか"をしっかり議論されていたのが印象的で、皆さんが言葉を交わしながら編集されていく姿を見聞きするのも楽しかったです(笑)。"これはこうじゃない?""こうも考えられるよね"と、やりとりする中で新しいルール、見方がつくられていく。その過程は、まるで国や村ができていく様を見ているようでした」
最後の数チームは、テーブル自体がアート。さまざまな植物が、数を数えるために解体され、貼り付けられた様子はとても美しくもありました。チームリーダーは「通常、数字は"確かなもの"として使われますが、この机上では確かなものは何もなく、人それぞれの視点によって数の数え方が変わることを感じました。葉っぱの裏にある粒粒を数えた人、茎ではなく房で数える人などさまざま。また、大きな植物の方が数が多いと思いきや、小さな苔や若木のほうが数が多いこともあり、見た目に騙されてはいけないという発見もありました(笑)」と話します。
三澤さんは、数字の認識が変わる面白さを感じたようです。「ひたすら丁寧に数え、たくさんの数字が並ぶことを想像していたんですが、実際は違った見え方が生まれて、いろんな学びがありました。葉っぱのシミを数えたり、葉っぱではなく裏の粒を数えたりと、数える対象やグルーピングの仕方がとても面白かったです。単なる数字ではなく、情報として新しい質の数字になっている。それぞれの方が違う視点で数を見ているのも、とても興味深かったです」
各チームからの発表が終わると、あらためて三澤さんが講義で伝えたかったことを話します。
「皆さん自分のチームの視点に集中されていたので、お隣同士で"こんなに違うことをしていたのか"と感じた人もいるのではないでしょうか。同じ敷地内にある植物を、まったく違う視点で見ていた2時間が存在していたことが、面白いですよね。見方を少し変えると、いつも目にしているものがすごく変なものに映ったり、すごくチャーミングに見えたりする。その視点自体は植物でなくても成り立つものなので、ぜひ日常でも今日の経験を生かしてみてください。きっと、世の中がすごく面白くなると思います」
講義を終えた後、三澤さんにお話を伺ってみると、多くの人が関わるグループワークだからこそ発見できたことがあったと言います。
「30年以上生きていると、自分なりのルールが自然とできてしまうものだとも思うんです。でも、今日は自分ならこうイメージするだろう、こう編集するだろうという枠を超えた視点にたくさん出会えました。同じルールでも、自分が思いもしないことを人がする面白さーーそれは、私が普段の仕事の中で感じていることでもあります。三澤研究所のスタッフたちと話すことで、差異を見極めて違いを面白がったり、共感し合ったり。そうやって人の脳ミソを足して物を考えていくことが、デザインのひとつの姿でもあると思うんです。いつもは6人の脳ミソで考えていますが、今日はもっともっと大人数。ひとりひとりの"個"から生まれる、それぞれの視点を私自身も採集できた気がしています」
特別なことをしなくても、視点ひとつで見え方、感じた方が180度変わるもの。自分の体を動かし、何かに触れ、実際に見ることで、初めて気づくことがあると、あらためて教えてくる講義でした。三澤さんご自身もデザイナーとして大切にされている、フィジカルな体験は参加した方に大きな経験として残ったのではないでしょうか。
これまでの「森の学校」の授業の様子はこちら
開催日時:2019年10月19日(土)13:30~15:30
場所:東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン特設会場
詳細:https://6mirai.tokyo-midtown.com/event/2019_pjt04/index.html