2015年8月4日、六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07「六本木未来大学 by 水野学」がいよいよ開校します。これまで水野さんが語ってきた「クリエイティブディレクションを学べる学校」は、どのような形で具体化したのでしょうか? その詳しい内容を、現在決定している講師のみなさんの紹介とともにお伝えします。さらに、第1回の講師、小西利行さんとの打ち合わせの様子もどうぞ。
「デザインを勉強していた人もしていなかった人も、その両方がクリエイティブディレクターを目指せるような......。そんな場になったら最高ですね」と前回のインタビューで語っていた水野さん。構想していたのは、クリエイティブに携わる人も、ビジネスパーソンも、学生も学べる学校でした。
そして、六本木未来大学は、8月からはじまる全5回の授業として実現。水野さんが講師として推薦してくれたのは、枠にとらわれず、さまざまな業界で活躍する第一人者たち。まずは、クリエイティブディレクター/コピーライターの小西利行さん、慶應義塾大学大学院で特別招聘教授を務め、ビジネスの現場で活躍する夏野剛さん、映画プロデューサーの川村元気さんの3名のみなさんの授業が決定しました。
最初の授業を担当するのは、サントリー「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」、プレイステーション、日産「セレナ」などの広告を手がけてきた小西利行さん。コピーライターとして、国内外で数々の賞を受賞しています。
ただし、小西さんの仕事は、広告コピーを書くだけではありません。たとえばサントリー「伊右衛門」やロート「SUGAO」では商品開発から携わり、埼玉県越谷市の大型ショッピングセンター「イオンレイクタウン」では総合ディレクションを担当。商品開発やブランド開発、企業コンサルティングから都市開発までを手がけ、著書『伝わっているか?』では、アイデアの発想方法とそれをどのように伝えるかを公開して話題に。
小西さんが担当する第1回の授業は、8月4日(火)に開催。お申し込みはこちらから。先着順のため、お申し込みはお早めに。」
第2回の講師を務めるのは、夏野剛さん。1999年にサービスを開始した携帯電話用インターネットサービス「iモード」の開発者として知られているほか、2001年には「世界のeビジネスリーダー25人」に選出されるなど、その手腕は国際的にも高く評価されています。
NTTドコモ退社後の2008年からは、慶應義塾大学大学院で政策・メディア研究科の特別招聘教授を務めるかたわら、セガサミーホールディングスやぴあ、ドワンゴなどで取締役に就任。その活躍をご存じの人も多いのでは。水野さんも、一緒に仕事をしたときに、その頭脳明晰さと素早い判断力に深く感銘を受けたそうです。
「告白」「悪人」「モテキ」「おおかみこどもの雨と雪」「寄生獣」......。第3回の講師は、これまで映画プロデューサーとして数々の話題作を送り出してきた川村元気さん。現在公開中の「バケモノの子」や、10月3日公開予定の「バクマン。」など、話題作も次々に登場。2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞するなど、映画プロデューサーとして高い評価を得ています。
さらに、初小説『世界から猫が消えたなら』、2作目『億男』は本屋大賞にノミネートされ、ベストセラーに(『世界から猫が消えたなら』は佐藤健さん、宮﨑あおいさん主演で映画化が決定)。そのほかにも、アートディレクター・佐野研二郎さんと共著の絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』はNHKでアニメ化され現在放送中。宮崎駿さん、坂本龍一さん、糸井重里さんなど12人との対話集『仕事。』も大きな話題になりました。
現在、詳細な授業の内容は、講師のみなさんと打ち合わせ中。先日は、第1回を担当する小西さんと打ち合わせを兼ねて、授業内容についてお話をうかがいました。次ページから、その様子を予告も兼ねて少しだけお届けします。
六本木未来大学第1回目の授業の打ち合わせのため、編集部が訪れたのは小西さんが代表を務めるオフィス「POOL」。ドアを開けると、小西さんとともに、著書『伝わっているか?』にも描かれているイルカが出迎えてくれました。
「クリエイティブディレクターは、クリエイティブの方向性を示しつつ、ビジネスが間違っているときは間違っていると言える人間。それってつまり、経営がわかっていて、デザインやコピー、テクノロジーを知っていて、さらに社会学がわかり、心理学までわかるってことじゃないですか」
打ち合わせのはじまりは、小西さんのこんな言葉から。これらをすべて兼ね備えているのがクリエイティブディレクター、だから授業を受けてもなれるかどうかはわからない。でも、クリエイティブディレクションは技術だから教えることができるし、学ぶこともできる、といいます。
「アイデアを生み出せないのは、考える方法を知らないから。よく企業や学校でワークショップをすることもあるんですが、アイデアの出し方に一定のルールを設けたり、フォーマット化して考える方法を伝えるだけで、みなさんの企画力がびっくりするほど上がるんです。たとえば、『すでに持っているもの』と『ターゲットの好きなもの』を組み合わせて、新しいビジネスを考えてみたり。考え方を学べば、誰もができるようになるんです」
「僕はコピーライターだからこう言うんですが......」と前置きをしつつ、クリエイティブディレクションをするうえで言葉は絶対に必要、と小西さん。
「『アート、コピー&コード』、今の世の中を動かしているのは、この3つだといわれています。アートはビジュアル、コピーは文字、コードはプログラミング。たとえば最近では、ライゾマティクスの齋藤精一さんのような、コードの世界出身の人もクリエイティブディレクションをしていますよね。彼らのすごさは、桁外れに難しいことを、すごく簡単な言葉で語れること。......実は僕、世界のほぼすべては言葉が動かしているって思っているんですよ。デザインだって言葉の一部、が持論。デザイナーさんには怒られそうですけどね(笑)」
記号やマークといった"ノンバーバル"なものでも、それをつくるためにはコンセプトが必要。そしてコンセプトは言葉でできている。だから、「言葉がすべてを動かしている」というのが、小西さんの考え。
「でも、日本人は、言葉の使い方がちょっと特殊。たとえば、『インサイト』っていう言葉を、『心の中にある、ツボ的なもの』と、すごくあいまいにとらえたまま話をしたりしますよね。『コンセプト』もそうで、直訳すると『概念』ですが、ふだんそういう意味では使っていない。わからない言葉を、なんとなくわかった状態にしてしまうというか。だから、なるべく日本語にして考えたほうがいいんです」
小西さんがディレクションを担当したイオンレイクタウンは、「人と、自然に、心地いい」がコンセプト。この言葉をもとに、みんなに館内で何をしたらいいか考えてもらったところ、100以上のアイデアが出てきたそう。当時はタブーとされていた「館内にイスをたくさん置く」というプランも、このコンセプトがあったからこそ生まれました。
「働いている人全員がアイデアを出せる、それがコンセプトなんです」
アイデアの出し方、企画の立て方、伝わるコンセプトの例などなど、ワークショップで使っているという資料を映しながら、次々と説明してくれる小西さん。打ち合わせの時点で、すでに授業がはじまっているかのよう。授業のタイトルも「伝わるアイデアって何ですか?」に決定しました。
どんな人に授業を受けてほしいかとたずねると、「クリエイティブをやっている人はもちろん、普通のビジネスマンの方にも来てほしいですね」という答えが。「クリエイティブマインド」や「クリエイティブ思考」といった言葉は自分の仕事に関係ない、と思っている人にこそおすすめだそう。
「どんな仕事をしていたとしても、うまくいかないことって必ずあるでしょう? それを改善したければブレイクスルーが必要で、そのためには今までにない新しい方法論を思いつく必要があります。そういう意味では、どんな人にもクリエイティビティは必要だし、クリエイティビティを発揮せざるを得ない。『クリエイティブ』っていう言葉を使いたいだけの人も多いですけど、これも日本語で『仕事をよくするアイデアを考える』って言ったほうがいいですね」
「クリエイティブディレクションって、わかりやすくいえば、仕事に役立つアイデアを生む方法がわかって、それを人に伝えられて、チームを動かすことができるということ。みんながそれに沿って自動的にアイデアを出したり、自動的に動いて形にしてくれたりするのが理想ですね。これができるようになると、会社を経営したり、もっといえば社会を変えたりすることだって可能になります」
新しいアイデアが浮かんだり、仕事がもっとやりやすくなったり、チームが活気づいたり......。クリエイティブディレクションを学ぶことは、大きなプロジェクトだけでなく、あらゆる場面で役立ちそうです。
「考えようによっては、クリエイティブディレクションってすごく簡単で、ストーリーをつくってあげればいいんです。それは車の広告でいえば、『子どもと遊ぶために大きい車を買う』ではなく、『子どもに思い出をつくってあげるために大きい車を買う』というような、共感できるポイントのこと。僕はコミュニケーション領域から話をしていますが、夏野さんや川村さんは、また別の視点から語ってくれるはずです。5人の講師の話を聞くとクリエイティブディレクションの全貌がわかる、六本木未来大学がそんな学校になったらいいですね」