"クリエイティブディレクションを学ぶ学校"「六本木未来大学」の新シリーズ、初回は鈴木おさむさんの講義。前半では、天才と秀才の違い、そして「秀才」になるためのポイントを語ってくれた鈴木さん。ここから、話は人生全般に広がり、そしてクリエイティブの具体論と続いていきます。数々のヒット企画を手がけた鈴木さんの講義の続きをどうぞ。
「放送作家でも何でも、優秀な人は本当にたくさんのことを知っています。勝手に知識が入ってくるなんていうことはありえないから、彼らは相当に努力しているということ。努力を努力と感じるかどうかがポイントで、『映画を見なきゃ、本を読まなきゃ』なんて思っているのではダメ。見たい、読みたい、知りたいって、好奇心の固まりのようにならないと。この『好奇心』は才能のひとつですが、鍛えることができる能力なんです」
自身も好奇心がかなり強いという鈴木さんが心がけているのが、「ルーティーンを壊すこと」。29歳のときに放送作家を休業して、ドラマ「人にやさしく」の脚本に徹底して取り組んだことが転機になりました。
「幸いドラマはヒットしたけれど、自分が抜け殻みたいになってしまって。これからどうやって生きていこうかと考えたときに、ちょうど30歳になったこともあって、自分の中で一度それまでのルーティーンを壊そうと思ったんです。誘われても断っていた飲み会に行こうとか、会わなかった人に会おうとか。そうすると、また新しい付き合いも出てきて、好奇心を刺激してくれる。自分の中で決めていることって、実はすごく狭いんだなと思いました」
たとえば、ドラマの撮影で訪れたホストクラブでは、ホストと映画の話や恋愛の話をすると、まるで考えが違っていたことが面白かったと言います。自分とは別の世界で頑張ってる人とは、むしろ仲良くなれることに気づき、新しい出会いがあるところへは積極的に行くようにするようになったそう。また、ネットに出ないリアルな情報が聞けるのもメリットのひとつ。
そもそも、秀才型の人間は、世の中から少しはみ出している「イタい人」であることが多いというのが鈴木さんの考え。だからこそ、かつて流行した「KY(空気・読めない)」という言葉には違和感があると言います。
「空気が読めない、イタいと言われることを恐れると、普通の意見しか言えなくなってしまいます。たとえばオリエンタルラジオのあっちゃん(中田敦彦さん)のコメントが最近話題になったでしょう。彼はある番組で1年間も何も言えなかったから、きわどい意見を言っていこうとしているんだそうです。たとえ叩かれたとしても、何もできないよりはいい。その覚悟はすごいと思いました。実際、彼は今も番組に出続けていますからね。自分でイタいなと思うことにあえて突き進んでいける人は、すごく優秀。そこが極みなんじゃないかなと思います」
もうひとつ、秀才に欠かせないのが「人生の舵を自分で切る」こと。鈴木さん自身は、これまで3回、人生の方向性を切り替えたことがあったそうです。
「最初は大学を辞めたとき。書類を出すと、受付のおばさんが『おつかれした!』って言うんですよ。え? それで終わり? 入るときはあんなに歓迎してくれたのにって(笑)。そこで、世の中は自分になんか興味がないことに気がついて、自分にとって本当に大切なものがわかった。2回目は結婚したとき、3回目は子どもを授かったとき。奥さんが妊活を発表し、仕事を休んだことに応えたくて、僕も休業を決めました。29歳でドラマのために休んだときは仕事が減ったけれど、不思議なもので、そのとき僕の面倒をみてくれた人、より濃いパイプができていったんです」
10年に1度くらい、自分で人生の舵を切ってきたことで、自分を客観視できたり、自身の仕事を振り返ることができたと言います。自分で舵を切らない限り、人生の景色は変わらない。転職でも引っ越しでも、環境を変えてみてはどうでしょう。
【クリエイティブディレクションのルール#5】
イタい人になることを恐れず好奇心を鍛える
この日、受付には最新の著書『新企画』(幻冬舎)が並んでいました。鈴木さんの企画の立て方を公開したこちらの本同様、ここからは企画を生み出すための具体論に入っていきます。
鈴木さんが企画を考えるときに大切にしていることのひとつが、「なぜないのか」を考えること。日常生活の中で生まれた「なぜ」を突き詰めて考えることが発想につながる。そうして生まれたのが「お願い!ランキング」がヒットする一因となった「美食アカデミー」。ご存じ、企業の商品を批評家がランク付けする企画です。
「雑誌のランキングは、いいところもダメなところも伝えますよね。でも、テレビではやっていなかった。その理由は、スポンサーが付いているから。『お願い!ランキング』は、かなり低予算の番組だったので、それならできるかもしれないと考えたんです。ただ、100社くらい当たってOKしてくれたのは1社だけ。それで初回の収録をしたんだけど、批評家があまりに辛口で、企業の担当者と大げんかになって(笑)」
ところが、番組はヒット。悪いところを正直に伝えたことが信頼感を生み、番組で褒めた商品が爆発的に売れるという現象が起こりました。視聴率とともに経済効果も上がり、大きな企業も引き受けてくれるようになったのだそうです。また、ヒット企画を生むポイントとして挙げたのが「掛け算」。
「かつてあった番組、『めちゃ×2モテたいッ!』の企画書が伝説的だといまだに言われています。スタッフの間で、流行っているものを因数分解してみようという話になって、a(x+y)という式に当てはまる3つの要素を考えたんです。たとえば『めちゃモテ』のときは、aがモテたい、xがナインティナイン、yがいろんなチャレンジ。企画を立てるときには、常に3つの要素の掛け算になっているかどうかを大事にしています」
続けて、会議のテクニックについても教えてくれました。ポイントは「人の意見を否定しない」「結論から話す」「『わからないんですけど』と言う」の3つ。
「テリー伊藤さんに教わったテクニックですが、自分の意見を伝えるときに『わからないんですけど』って言う、というものがあって。『これ面白いんです』って堂々と言うより、そのほうが耳を傾けてあげたくなる。同時に、人の意見は褒める。その意見よくないなと思っても、頷いておくだけで、その人は自分が発言したときに味方してくれるから、先ほどのバカな上司の意見にも頷いたほうがいい。『目線を下げる』ことはすごく大事です」
【クリエイティブディレクションのルール#6】
「なぜ」からはじめて、掛け算で企画を考える
今回の講義で繰り返していたのが、「自分を俯瞰して見る」ということ。俯瞰することで「悲しみの中からも企画が生まれる」。そしてそのことが、クリエイティブディレクションの能力を高めてくれます。
「人は、体験したことのない話を聞くのが好きです。たとえば、この前、親戚のおじさんが病気になってお見舞いに行ったんですよ。もちろんそんな悲しいことはいやだけれど、そういうときに自分がこんな気持ちになるよとか、病気になるとはこういうことなんだよとか、話せば人は興味をもって聞いてくれる。悲しい経験を人に話すと消化できるし、自分の人生を俯瞰することができる。生きていれば楽しいことも辛いこともありますが、人生を俯瞰で見るということは、自分をプロデュースすることにつながるんじゃないかなと思います」
【クリエイティブディレクションのルール#7】
人生を俯瞰することでプロデュース能力を高める
最後に「この話をしたかった」と話したのが、2020年東京オリンピックのこと。鈴木さんいわく、今、東京オリンピックを動かしているのは50代、60代の人たちが中心。だからこそ、その下の世代にとっては、2020年以降がチャンスになると言います。
「もちろん東京オリンピックが行われること自体はすばらしいけれど、そのあとが大事だと思っています。2020年以降に、ようやく30代、40代の人たちにとってチャンスがやって来る。よく2021年に『オリンピックロス』が起きるんじゃないかっていわれますけど、むしろ、起きろ起きろ!って思いますね(笑)。だって土地の値段も下がるし、いろんなエンターテイメントがなくなっていく。そんなときこそ実はチャンスなんですよ」