緑あふれる都心の一画に黒板を設け、さまざまなジャンルのクリエイターが先生となって青空授業を行う。こんな、まるで童話に出てきそうな学校が期間限定で誕生します。その名も「森の学校」。椿昇さんと長嶋りかこさんのクリエイターインタビューから生まれた、アイデア実現プロジェクトの第4弾をレポートします。
2012年に行われた六本木未来会議のクリエイターインタビュー。「私だったら、まずは大きな森をつくりたい。六本木の街の中に、どーんと大きな森を」。長嶋さんのこんなひと言に、「僕は、長嶋さんがつくる森の中に、小さな学校をつくりたい」と応えたる椿さん。「森の学校」のアイデアは、ふたりのこんなやりとりからはじまりました。
そのほか、インタビューで語られたのは、フィジカルな体験が感受性を育むことや、原体験をつくること、デザインやアートを観る側の力を高めるような学びの必要性。六本木がデザインとアートの街になるためには、自然と人が共存する空間で、ゆったりとクリエイションを学ぶ場があるといい......などなど。
「森の学校」では「青空教室」と題して、さまざまなクラスが展開。座学やワークショップもあれば、楽器でセッションしたり、ピクニックしたりと、その内容はバリエーション豊か。もちろん、椿さんと長嶋さんも授業を行います。
さらに、併設される「森の学校の図書館」には、これまで六本木未来会議に登場したクリエイターの推薦図書が50冊! たとえば、箭内道彦さんは、子どもの頃の体験とともに『ぐりとぐら』を紹介、それぞれ推薦者のコメントとともに読書を楽しむことができます。
ちなみに、椿さんと長嶋さんはこの学校の"校長"。おふたりが打ち合わせやメールでのやりとりを重ね、"校訓"や"校章"もつくられました。
こちらは、椿校長による校訓。
「僕は子供のころ、納屋や納戸や橋桁の下で空想にふけることが大好きでした。
そこには自分の好きなだけ時間があり、そこでは好きなだけ世界を創ることができました。
その時の湿気を含んだ空気の臭いや朽木のボロボロ崩れる触感は、
いまでも作品を生み出す強い力となって身体のどこかに刻まれています。
なんどもなんども繰り返し人生を応援してくれる魔法の記憶は、
視覚と触覚や臭覚が複雑にからみあった空間で育まれました。
いま幼稚園からタッチパッドを使った情報教育が導入されていますが、
僕は大きな危機感を持っています。
指先をすべらせて文学を情報に切り刻む仕事を子供にさせるって、なんと残酷な仕打ちなのでしょう。
ハンモックに揺られながら絵本を読むうちにねむってしまう豊かさを、
大都会の小さな森から子供たちに返してあげたいと思っています。」
長嶋校長の校訓もあります。
「たとえば目の前に現れた、重くて、熱くて、怪我しそうなものは、
それにゴチンとぶつかるから、手触りをもって体に残り、
それを味わったり、考えたり、学んだりすることができると思うんです。
目の前にさらりと現れたものは、文字通りさらりと体をすり抜けていってしまいます。
手触りなく均一につるつるとした情報ではなく、ずしんと手触りのある、へんてこな何か。
子どもの頃には、整理しきれないへんてこな何かに、たくさん出会ってほしい。
「森の学校」へ、おとなも、子どもも、見つけに来てください。」
そして、こちらが、長嶋さんがデザインした校章。こんなふうに、「森の学校」のアイデアはどんどん膨らんでいきます。
先日行われた打ち合わせ中には、こんなやりとりも。椿さんが『未来のイノベーターはどう育つのか』という本を挙げて、海外では子どもの創造性を育む教育が盛んなのに「日本の義務教育で美術の時間を減らすことが信じられない!」と言うと、長嶋さんも同意。「森の学校」が、そんな現状に一石を投じる取り組みになってほしいという、大きな願いもあるのです。
「森の学校を継続するにはどうしたらいいだろう?」「稲刈りとか田植えって、人が集まって行事になっていますよね」「あ、じゃあ、勝手に食べてもいい果樹を植えたらどう?」......ふたりのアイデアはまだまだ尽きませんが、「森の学校」プロジェクトは、着々と進行中。最後に、具体的な情報を少しだけご紹介しましょう。
「森の学校」の「青空教室」が開校するのは、「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014」開催中の10月25日(土)・26日(日)、11月1日(土)・2日(日)の4日間。ワークショップや講義を行ってくれるクリエイターは全部で15名。幅允孝さん、浅葉克己さん、荒井良二さん、ホンマタカシさん、大宮エリーさん......。もちろん、椿さんと長嶋さんも。
10月1日(水)にはレポート第2弾として、授業を行う"先生"とその授業内容を紹介、参加申し込み方法についてもお知らせします。どうぞお楽しみに!