「森の学校のときにつくった黒板と本棚が好評だった? それなら、六本木のエリア外にももっと出て行ったらいいんじゃない?」。今年2月、服部滋樹さんがクリエイターインタビューで話してくれたこのアイデアが、アイデア実現プロジェクト第10弾「六本木未来会議BOOKキャラバン by 服部滋樹」として動きはじめました。上のデザイン画は、服部さんによる「移動式本棚」のスケッチ。これからどのように完成し、どう活用していくのか? そのお話をうかがいました。
「『六本木未来会議』っていうけど、未来のことだったら誰にでも関係があることですよね。だから、みんなで考えたほうがいい。今まで登場したクリエイターの考えやおすすめ本から未来を考えることもできるだろうし、そのきっかけを六本木発信ではじめて、飛び火させていけるといいんじゃないかな。渋谷に行って『六本木未来会議です』って言っていたら、それだけで、なんかいいでしょう?」
そもそも今回の「移動式本棚」のアイデアの元になったのは、屋外教室「森の学校」で使用した本棚と黒板を、服部さん率いるクリエイティブ集団「graf」が製作したこと。先生のひとりとして授業を受け持つことになった服部さんが「数十メートルの幅の黒板をつくったら面白い」と話したことがきっかけでした。
graf製作の本棚は2014年と2015年の「森の学校」のほか、昨年9月の「六本木ブックフェス」でも使用。当初は、この本棚のデザインに合わせて設計を進めていたそう。
「最初は森の学校の本棚と並べて使う想定だったからウッドのフレームにしていたんだけど、移動式となると軽く持ち出せるほうがいい。スチールパイプとウッドの棚板で、一輪車でいこうと思っています。人が集うことを想定するとスツールとかベンチもあったほうがいいね。車輪を付けた黒板を連結させて、二両編成で走っても面白い(笑)。あとは『六本木未来会議』のフラッグもつけたいね。あったほうがかわいいでしょう?」
「二宮金次郎みたいに、本を背負って移動するのもいいかも」と、アイデアをその場でどんどんスケッチしていく服部さん。ページ最初のデザイン画も、その場で描いてくれたもの。発想はとどまるところを知らず、こんな活用のアイデアも話してくれました。
「本を補充する場所がどこかにあって、F1のピットインみたいに、街を巡っては補充したりね(笑)。きっと、最初は六本木のエリア内を移動して、そこに集まった人が1冊手に取っては、ベンチで読んだまた戻したりするんでしょうね。本って、読んでいる間はパーソナルなものだけど、読み終わって本棚に戻した瞬間、コミュニケーションが生まれるんですよ。人と人、過去と未来をつなぐ要素が本にはある。そういうきっかけが街にたくさん散らばっていたら、めっちゃ面白いですよね」
たとえば、本に付けたポケットにメモを入れて戻したり、気になったページに透明の付箋を貼って感想を直接書いたり。それが繰り返されることでコミュニケーションが生まれ、アーカイブされたり、レイヤーになって、また新しい何かを生み出していく。人と人、過去と未来をつなぐとは、そういうこと。
「本は物理的な、古典的なメディアではあるけど、扱い方によっては新しいメディアになっていくし、人がつながっていくきっかけになっていくなっていう気がしているんです。移動式本棚があれば、どこにでもコミュニケーションの種を蒔くことができますよね。人力ならなおさら、建物の館内でもどこへでも行ける。そこで、みんなで未来のことを考えることができたらいいなって」
「どこの街でやってもいいけれど、六本木が未来の暮らしを模索する場所だよっていうふうになったらいい。ここには、新しい未来像を描こうとしている人が多いと思うんです。たとえばサントリー美術館は古い作品をセレクトしているけれど、編集者の松岡正剛さんの言葉を借りれば『歴史は未来をつくるためにある』だし、その一方で21_21 DESIGN SIGHTっていう未来志向型のデザイン施設もある。こんな場所ってそうそうないから、『未来』っていう言葉が、すごくフィットすると思うんです」
こちらは服部さんがオマケで描いてくれた、移動式本棚の"自動車版"。「『六本木』と『未来』の文字って、左右対称でかわいいよねぇ。これ、誰が考えたの?」と服部さん。未来を考える「移動式本棚」の話、まだまだ続きます。
「最近、本のカテゴリも気になってて。ふつうの書店や図書館だと『経済』とか『歴史』って分けられているじゃないですか。でも、人によっては料理本を『これは歴史書だ』と思ったりすることもあって、一概にはジャンル分けできないと思うんです。20世紀はカテゴリを細分化していくことで経済が活性化したけど、もう飽和状態。だから、一度解体して、21世紀に必要なカテゴリ分けをやりなおさないといけないんじゃない? 未来を生きるため、サバイバルするためのカテゴリを組み立てていく。移動式本棚を使って、そんなワークショップができたらいいかもね」
たとえば「デザイン」という概念も、グッドデザイン賞の対象領域が年々拡大しているように(東京ミッドタウンにグッドデザイン賞の事務局がある)、今やプロダクトやグラフィックだけでなく、医療やインフラなど幅広い範囲に及んでいます。現在はデザインの社会性が問われていて、デザインの概念、つまりカテゴリ自体を考えていくべきとき。それを、本を介したコミュニケーションの中でできないか、というのが服部さんの考え。
「いま、『まちライブラリー』っていう、本が一冊もない状態から図書館をつくる取り組みに参加していて。何万冊入るんだろう、めっちゃでっかい本棚をつくったんですよ。そこにみんなが本を持ち寄ることで、本棚が完成するわけ。たとえばデザインの研究会をそこでやったら、持参したデザインに関係する本が参加料の代わりになる。もう3年目になるかな、すでにひとつは全部埋まっているほど集まるのがものすごく早い。これも本をコミュニケーションの媒介にしている、すごくいいアイデアですよね」
ほかにも、長野の小布施市で行われている、街の人家や店舗の軒先に住人が本棚を置く「まちじゅう図書館」や、偶然開いたページに書かれた言葉を元に語り合う「直観讀みブックマーカー」など、本にまつわるさまざまな取り組みを教えてくれました。特に熱く語っていたのは山口情報芸術センター(YCAM)主催のツアーに参加して知った「阿東文庫」のこと。
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]「阿東文庫」は、廃校を再利用して、街なかで捨てられていた本や家庭から引き取った本を集めてつくられた図書館。地域のおじいちゃんたちが中心となって本を運び込みはじめ、今では地域の人々が助け合いながら、運営をしています。
「ある人がこれまで読んできた本がまとめて持ち込まれんです。するとジャンルはバラバラですよね。それをそのまま本棚に入れることで、『元の持ち主の人格』というカテゴリをつくった。阿東文庫を始めたこのおじいちゃんたちがとにかくすごくて、『昨日、BBCの番組を観てたら、サンフランシスコの農業がヤバいらしいぞ』なんて言うんですよ。まず、おじいちゃん、BBC観るんや、って(笑)。実際、気候変動で危機的な状況にあって、いずれ日本は食料を輸入できなくなるらしい。どうしたらいいか聞いたら、農家の友だちをいっぱいつくっておけ、小さくてもいいから畑をもて、と。極端だけど、未来的でかっこいいなって」
「なんやねんこれ、企画会議やんけ(笑)」と言いながら、たくさんの事例やアイデアを話してくれた服部さん。最後は、こんな言葉でインタビューを締めくくりました。
「『移動式本棚』で生み出したいのは、未来につながるキーワード。未来を生きるための条件を、みんなで探っていきたいんです。そのきっかけとして、みんなで本を持ち寄って、カテゴリを考えたりしてもいい。公園を点々として語り合いの場としてネットワーク化してもいいし、著者に話を聞きにいったり、社会見学ツアーをするのもいい。移動式本棚の使い方自体をみんなで考える? ......いいね! じゃあそれでいこうか(笑)」