六本木をアートとデザインのジャンクションに。
コンテンポラリーデザインという、ちょっと聞き慣れないジャンルで活動をするwe+の林登志也さんと安藤北斗さん。水のにじみのような模様が浮かび上がっては消えるテーブルや、釘のような鉄線で覆われたイスなど、海外でも評価の高い彼らの作品は、シンプルゆえに思わずじっと見入ってしまうような不思議な魅力を持っています。2018年10月19日(金)〜11月4日(日)まで開催される「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2018」に出展している作品の制作エピソードとともに、コンテンポラリーデザインの海外事情やそこから私たちが学べることなどをお聞きしました。
安藤「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2018」では『Swell』という作品を発表しています。白いメッシュの上にミラーフィルムを貼り付けた大きなタペストリーみたいなもので、風を受けてそのメッシュが揺れたり、ミラーに光が反射してキラキラときらめくことで、風や光を可視化するインスタレーションになっています。
林展示場所がミッドタウン・ガーデンなんですけど、屋外でのインスタレーションは、実を言うと初めての試みなんです。ミッドタウン・ガーデンに最初に来たとき感じたのは、風通しのよさ。緑が多いだけでなく、小川も流れていたので、外の環境を何かしらうまく生かしたインスタレーションにしたいという思いから、アイデアの構想が始まりました。
当初は水を使うつもりでいろんな実験をしていたのですが、夜はきれいだけど、昼間は魅力を最大限に引き出せていない気がして断念したりなど、紆余曲折があり......。
安藤昼も夜も見ていただける場所なので、ランドアートのようにどのタイミングで見てもきちんと成立するものであるべきだと思ったんです。
『Swell』は昼の場合、自然光や芝の緑など、どちらかというと自然物がミラーに映り込んでくるんですけど、夜になると建築物などの人工的な光を受けてきらめくので、表情がかなり異なってきます。
いずれにしても、その場所でしかできないサイトスペシフィックな作品を意識しているので、昼夜の差を感じてもらえるはずです。ミッドタウン・ガーデンは、六本木のエアポケットのような場所ですよね。コミュニケーションの速度が圧倒的に速い、せわしない街にぽっかりと存在する独特なシチュエーションなので、あえて六本木のイメージを逆手に取って、風や光などの自然物を可視化してみたいと思ったところはあります。
「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2018」
『Swell』
安藤僕らの造語ともいえるのですが、ものづくりをする際は「目置き」というキーワードを重視しています。たとえば焚き火だったり噴水だったり、水面の動きや光の反射みたいなものって、何も考えずにぼんやりと眺め続けることができるじゃないですか。そういう機能があるものに興味を持ってものづくりをしていたりもするので、『Swell』もこの忙しい街のなかでぼんやりと眺めてもらいたいし、ここだからこそ意味のあるものにしたかったんです。
林どの作品もそうなのですが、僕たちの制作過程はまさに実験的で、1分の1あるいはもう少し小さいモックをつくって、実際にどのように見えるか試していくんです。万人がぐっとくるようなものを探していく時間が、たぶん制作全体の9割くらい。デザインタッチの担当者にも、「事前にこんなに現場に来る人たちを初めて見た」と言われてしまうほどで(笑)。
室内の展示であれば、光や空間を仕切ったりして、ある程度こちらで調整できることも多いじゃないですか。だけど屋外で展示する場合は、時間帯や天候などで環境が大きく変わるので、こちらでコントロールできない要素がたくさんある。最適解を見つけるには変数が多すぎて、狙うべき針の穴がかなり小さいイメージなんです。現象の魅力を最大限に見せていくことをテーマとしているので、そのすくい取り方が屋外だとより難しくなるんですよね。
安藤ほかの方々のつくり方はよくわからないのですが、図面を描いて、パースを描いて、プランをフィックスさせていくと、大体イメージ通りになると思うんです。だけど僕たちの場合、自然や現象などを相手にしているので、良くも悪くも図面で示すことのできない領域がすごく広いんです。
なので目の前にある実物と対峙して、いかにそれをディベロップさせていくかを考えなくちゃならないし、図面に描けない領域をどれくらい想像できるかは、やっぱり経験というかやってみるしかない。限りなく余白があるともいえますが、非効率かつ非合理的で、なかなかタフな作業であることは間違いありません。
林制作過程は、かなりアナログですからね。実験をすると、インターンの学生に「子どもの頃に戻った気がします」って言われるくらい(笑)。
安藤完成した作品は、一見テクノロジカルかもしれないけれども、自分たちで手を動かして実験したことを、最終的にエンジニアリングに置き換えていく作業なので、そのテクノロジー自体も基本的には身体性の範囲を超えないんです。どちらかというと、マテリアルドリブンでものをつくっていたりするので。
林素材と現象の関係性や、その変化に対する興味が出発点になることはよくあります。見えないものを可視化したいというよりは、素材の持っている動き方を魅力的な形ですくい取りたいんです。たとえば砂鉄を使った『Drift』という作品があるのですが、砂鉄がただゾワゾワと動いているだけだとそんなにおもしろくないけど、そこに時計という規則的な動きを与えてあげることで意味のある表現になる、みたいな。
身の回りにある素材をよく使うのですが、当たり前すぎて特に気にせず素通りしているものとか、実はおもしろい動きをするものにフォーカスして、作品にインストールしていくことが多いですね。
『Drift』
安藤海外で展示すると、「日本的な作品だね」とよく言われます。ひとつの現象を最大限活用して、それ以外の要素を極力カットしているから、ある種、純粋に見えるんでしょうね。だけど僕たちとしては、現象がどうおもしろく見えるかっていうところにフォーカスしているので、日本っぽさは実はまったく意識していないんです。
林最初に言われたときは、もっとTOKYOとかJAPANを意識したほうが海外の人にウケるのかな、みたいなよくない考えが芽生えましたけど(笑)。そんなことをしなくても、東京在住で活動しているがゆえに、無意識ににじみ出るものはあるでしょうし、作品に対する取り組み方で勝手にそっちの方向に行くのかな、と最近は思うようになりました。
ミラノデザインウィークの期間中、2014年から5年連続で展示していて、今年も『Peep』という作品を発表しました。海外のデザイン界隈でちょっとずつ認知度が上がってきている印象があります。日本と海外のシーンはやっぱり全然違うし、僕らとしても毎年参加することで定点観測ができて、今年はこれがきてるみたいなことを肌で感じられるのはいいことだと思いますね。
『Peep』
安藤僕も定点観測の意味合いは非常に大きいと思っていて、自分たちの作品がどういう理解をされているのか、客観視できるんですよね。もちろん日本で展示をしても何かしらのフィードバックはあるので、客観視できるんでしょうけど、海外だとフィードバックがわかりやすいこともあって、比較的高い解像度で定点観測ができる気がします。
いい悪いがはっきりしているし、出展者のバックグラウンドがどうであれ、いいものはいいときちんと判断してくれる。今自分たちが考えていることだったり、ステートメントを体現した作品が、見る人にどういうふうに届くのか、きちんと見定められるのがとても意味のあることなんです。