子どもは六本木に来ちゃダメ(笑)(大野) 自分で考えられる余白をつくる(真鍋)
2月16日に、東京ミッドタウンのアトリウムで開催された「Midtown Design & Art Live」。その中で行われた今回の公開インタビューには、Perfumeのウェブサイトのディレクションなどでも知られるメディアアーティストの真鍋大度さんと、インスタレーションや音響作品などサウンドアートの分野で活躍する大野茉莉さんが登場。まずは、それぞれの作品を観ながら、インタビューはスタートしました。
真鍋大度(以下、真鍋)これは「electric stimulus to face」という作品で、電気パルスを流して顔の筋肉を動かすテストをしている映像です。手には筋電センサーという筋肉が収縮したときに流れる微弱な電流を検知するセンサーを付けて、その値を変換して顔に流すことで、右手を動かすと左目の筋肉が、左手を動かすと右目の筋肉が動くようにしています。
electric stimulus to face
大野茉莉(以下、大野)そういう仕組みなんですね。
真鍋当時は時間があったので、夜な夜な毎日こんなことをやってました(笑)。もともと、コンテンポラリーダンサーにセンサーを付けて動くと音に変換されるような作品をつくっていたんです。それを自分でもやってみようと思って、ダンサーじゃない僕が筋肉を使うなら顔かなと。
大野私の「bio effector」という作品もセンサーを使っています。手をかざすと血流の音が検出されて、膜に振動となって現れる。膜の振動はモーターで制御されていて、張力を変えることで音質が変わります。体の内側でしか知覚できないものを裏返して、自分の体の中に入ったような感じを表現したくて。
bio effector
真鍋大野さんの作品も生体だったり低周波を使ったりしているし、空間的、建築的なところがありますよね。モチーフは近いけれど作品としてのアウトプットが違うところが興味深いです。
大野前に真鍋さんのイベントの設営のお手伝いをさせていただいたことがあるんです。本当に最下層の関わり方だったのですが(笑)、いろいろと勉強させていただきました。
真鍋僕、作品を思いつくのはシャワーを浴びているときが多いんです。
大野私も思いつくために何かをすることはなくて、ただ興味があって気になるものを、ひたすらやっているだけ。ちなみに作品づくりのきっかけは何ですか?
真鍋頼まれることもあれば、自主プロジェクトもあるし、まあ両方ですね。依頼がなくてもふだんからいろいろ試してネタを溜め込むというか。それなら失敗もできるし、自分で目標設定もできる。たとえば、さっきの顔の装置は仕事でもないし、発表の機会もない中でやっていました。そうしたら、YouTubeのおかげでオファーがくるようになって。
大野私は今、何の役にも立たないかもしれないことにひたすら時間をつぎ込んでいます。自分の興味を満たすためだけでなく、これを人の役に立つものにしていきたいと思っているんですけど......。
真鍋忙しくなってくると、だんだんそういうことができなくなるので、いかに時間をとるかっていうのが大事。たとえば僕の場合、ヨーロッパとか海外に滞在してノイズをシャットアウトして制作するような方法も取っています。そういう意味では自主プロジェクトは大変だと思いますね。
大野まず気になったものはとりあえず実験してみる。ふだんから、これをやったらどうなるんだろうって考えているんです。暇なので(笑)。やりたいけど予算や場所の関係で難しいものが、今も100個くらいあって。
真鍋今日のテーマ「六本木とデザイン&アートの未来」ということで話をすると、フィールドワーク的なところから作品をつくる人にとっては、六本木はいい街だと思うんです。ただ、僕は土地よりも人間。人間発信、たとえばパフォーマーだったりダンサー発信で作品をつくることが多いので......。きっと、生体データを使った大野さんの作品もそうだと思いますが。
大野はい。私も街発信はあまりないですね。音を表現の軸に考えているので、街というより、その空間の特性とか気温とか、環境に興味があります。
真鍋僕がやっているライゾマティクスという会社は、街なかでインスタレーションをするときには、自分たちの証を残すような"隠しコマンド"を入れることもありますね。たとえば銀座のソニービルにある、上り下りするとドレミの音階が鳴ってランプが光る「メロディステップ」という階段のシステムを担当したときには、一番上の段を30回踏むと特別なパターンが出るようにしたり。
ふだん街を歩いていると、道に敷いてあるタイルを見ながら「ランダムに並んでいるようで実はパターンがあって......」なんて、謎解きモードになることがあります。
真鍋最近ではデータを蓄積し解析してビジュアライズしたり、ラップを自動生成したりする作品もつくっています。たとえばこの建物はセンサーだらけですよね。監視カメラやマイクも死ぬほどあるだろうし、街なかにはあちこちに、ネズミよけの超音波も出ています。
今はセキュリティのためとか、正解が決まった使い方だけをしているけど、そういう大量のデータを違うふうに使って何かをつくりましょう、という企画になると得意分野になってきます。データを使ったアートのジャンルをこの街を通じてやってみる、それには興味があります。
大野私は自然や人間を知覚するためのツールとして、テクノロジーを使っているので、街の音響特性に興味があります。たとえば六本木って、大江戸線は地下深くて、展望台はすごく高いですよね。そういう高低差から生まれる音響現象を活かした作品は面白そうだなと思います。
真鍋それは六本木ならでは、かもしれませんね。
大野これはアートではないんですけど、高さと音を利用した例でいえば、第二次世界大戦のときに敵の飛行機の音を感知するためにつくられた長いホーンのような装置がありました。六本木ほどの高低差を使ったアート作品っていうのはなかなかないと思うので、できたらやってみたいですね。
大野お客さんから「六本木で子どものための作品をつくるなら?」という質問もありましたけど。
真鍋昼間の明るいところだとプロジェクターや照明が使えないので、ロボティックなものになるのかな。子ども向けの作品はいくつかつくったことはありますが、その場合、でたらめにいじっても成立するというインターフェース設計が大事なんです。ただ、六本木ならではってなると......。
大野やっぱり六本木って、買い物をするとかアートを観るとか、何か目的があって来る街だと思うんです。受け身になるために来る場所。だから子どもは六本木には来ちゃダメです(笑)。
真鍋たとえば、親が買い物をしている間にお子さんを遊ばせておくという目的があれば、それに合わせて作品をつくったり、デザインすることもできるかもしれないですね。たとえば、スケートをやっているあそこ(ダイナースクラブ アイスリンク in 東京ミッドタウン)とか、何か条件が限定されていたほうが思い浮かびやすいですね。
大野でもやっぱり、子どもの頃は何もないところで遊びを開発する力を身につけたほうがいいんじゃないかなあと思います。六本木より、砂漠とかのほうがいいのかも。
真鍋なかなか難しい街ですね、六本木は。
真鍋18歳くらいから21歳くらいまでDJをやっていて、その頃は、ほぼ毎晩六本木にいました。だから僕にとっての六本木は、クラブとか音楽とか夜のイメージ。この近くにあったバーで親父と飲んだり、そのへんのカラオケボックスで生活したり、けっこう残念な人でした(笑)。大野さんは?
大野私がこの街にはじめて来たのは10年くらい前、六本木ヒルズに森美術館ができたときに展覧会を見にきてからなので、六本木歴はそんなに長くないですね。
真鍋僕がよく来ていたのはヒルズができる以前なので、反対ですね。六本木ヒルズや東京ミッドタウンができる以前と以降では、街がまったく変わりました。
大野東京で生まれ育ったのに、ここに来ると上京した気分になるんです。私の知っている東京とはちょっと違う、洒落た街みたいな感覚。あまり人が住んでいる感じがしないというか。アートイベントに来ることが多いんですが、なかなか仲良くなれないんですよね、六本木と。
真鍋たしかに洗練されたし、雰囲気も変わった。それは良し悪しだと思うんですけど。
大野きれいな街なんですけどね。何度も会っているのに心を開けないというか......。もうちょっと心の内側が見せ合えたら仲良くなれる気がするんですけど、私には壁が厚いんです。その裏側に共感できるところがあるはずなんですけど。
真鍋「裏側を見せてほしい」って言ってましたが、アートの視点から見ると、もしかすると六本木には中身はないんじゃないかと思ったりもします。ここで生まれた作品ではなく、海外かどこかで制作した作品をメインで展示しているだろうし。
大野六本木は働いたり、アートを観にきたりする場所で、生み出す場所ではないということですか?
真鍋そう。僕はミッドタウンにあるスルガ銀行の「d-labo」でインスタレーションをしたこともあるし、六本木アートナイトでライブをしたこともあります。夜に集まって作品を観る、ふだんの六本木とは違う独特な開放感が面白かったですね。でも、六本木で何かをつくって、それをここから発信することってあまりないんじゃないかな、と。
大野六本木は美術館がすごく充実していて、アートを鑑賞するための土台はすでに揃っている。でも、世界中のアーティストが滞在制作できる「レジデンス」のような場所がないですね。メディアアート関連だと、ドイツのカールスルーエの「ZKM」や、オーストリアのリンツにある「Ars Electronica Center」などには、美術館やギャラリーに併設されて、そういう研究施設がありますけど。六本木にもあるといいですよね。
d-labo -Hyper Library-
真鍋パリとかニューヨークもそうだし、日本でいえば「トーキョーワンダーサイト」とか。もっと六本木から発信できるようになると面白いなと思います。
トーキョーワンダーサイト
大野いろんな人と関わって、いろんな角度から影響を受けながら作品がつくれる。実際、住んでみないとわからないところもあるだろうし。
真鍋六本木って、情報やサービスがたくさんあって便利な街。そのぶん自分で考えらえる余白が少ないですよね。大野さんの言っていたように、受け身になってしまうというか。
大野私もアートを観たいときは六本木というように、目的が決まっているときしか来ない。そういう意味では、すでに街としてのポジショニングが完成されているんだと思います。
真鍋六本木って、ハリウッド映画と同じで、ずっと受け身で観ていられる街。でもアート作品ってそうじゃなくて、なんだかよくわからないけどそれぞれが違う見方をできて、それぞれの楽しみ方を持てるものです。「いったいどうして、こんな作品をつくったんだろう?」っていう。
大野何の役にも立たないこととか、意味がわからないことがしたければ、人のいないところで勝手にやればいいって話にもなってしまうけれど......。六本木にそういうものができはじめたら、「あ、私もなの!」みたいに、急に仲良くなれるかも。
真鍋(笑)。もちろん僕もハリウッド映画は好きで観たりもするし、六本木のような情報の与えられ方を楽しみたいときもあります。どちらがいい悪いではなく、気分によって選べばいいと思いますが、六本木ならではの楽しみ方がもっと増えるといいですね。
取材を終えて......
もともと知り合いということもあって、なごやかに進んだ公開インタビュー。が、裏では予想外のトラブルも......。その詳細は、編集部ブログをご覧ください。今回のインタビューでお二人が出してくれたアイデアが実現して、大野さんをはじめ、みんなが六本木ともっと仲良くなれたらステキですね。(edit_kentaro inoue)