石の卓球台を置く。
世界中を旅し、自らを地球文字探検家と語るアートディレクターの浅葉克己さん。この日、独自の「浅葉文字」で書いた「六本木未来会議」の文字を表装して持ってきてくれました。広告、タイポグラフィの第一人者として、数々の名作コマーシャルやポスターをつくってきた浅葉さんが考える、六本木をデザインとアートの街にするアイディアとは? まずは六本木の思い出話から伺います。
昔の六本木といえば「酒を飲む街」というイメージですね。行けば必ず飲み仲間が何人もいて。1978年には糸井重里さんがネーミングしてくれた「北極圏人会」という集まりをつくって、多いときは毎週40人くらいで集まって飲んでいました。なぜ「北極圏人会」かというと、当時植村直己さんが犬ぞりで、堀江謙一さんはヨットでそれぞれ北極点を目指すという話を読売新聞の記者から聞いて、じゃあクリエイターも北極点に行って頭を冷やそう、と。大勢参加すると思ったのですが、結局、僕と糸井さんとカメラマンの富永民夫さんのたった3人で北極に行くことになりました。まあ、そんなことも六本木で飲んだことからはじまったんですよね。
六本木をデザインとアートの街にするとしたら、僕ならまず石の卓球台を置きたいです。僕がデザインした石の卓球台が、太田区新田神社に置かれています。四国には、しまなみ海道のイベントのために一枚の石からつくった、重さ10トンの卓球台もあります。東京ミッドタウンにも、ぜひ常設したいですね。その卓球台を使って何がしたいかというと、卓球はもちろん、コミュニケーションの場として活用して欲しいです。例えばスポンサーとアーティストが会議をしてて、卓球のスマッシュのように「今のアイディアいただき!」とか言ったりして。卓球は一人でできないコミュニケーションスポーツなので、ネットをしっかり張った石の卓球台で会議や打ち合わせをすると、きっとうまくいくとおもいます。
というのも僕が家を建てたとき、大先生の杉浦康平さんに1階を何に使ったらいいかと相談したのですが「卓球場に決まっているだろう」と言われ、1階の天井を高くして、卓球場をつくりました。もちろん卓球もしましたが、よく卓球台をテーブル代わりにつかって会議をして、いいアイディアがたくさん生まれた経験があるんです。
石の卓球台
今日、この取材の後に根津美術館に行くのですが、六本木って美術館が多いので、充分アートの街になっていると思います。もっと広く目を向けると、日本には国立のデザイン美術館がないのが残念ですよね。三宅一生さんと国立西洋美術館長の青柳正規さんが「国立デザイン美術館をつくる会」を設立して、去年東京ミッドタウンで第一回パブリック・シンポジウムを開きましたが、どこの国にもあるのに、日本にないのが不自然ですよね。それが六本木にできたら、アートもデザインもある街になると思いますよ。もちろん石の卓球台も置いて。
僕の家の近所に「芸術は爆発だ! 」と叫んでいたおじさんがいました。岡本太郎さんなのですが、それを受けて僕は「デザインは爆発だ! 」とよく言っています。小さな爆発は重ねているのですが、やっぱりデザインは大きく爆発してほしい。その大きな爆発のひとつがデザイン美術館設立なのかも知れないですね。
地球文字探検家としても、卓球の遠征としても世界中いろんな場所を旅しています。フランスに行ったときに街を歩いていたら、そこら中に卓球台が置いてあるんですよ。さっき話した、石の卓球台を置くアイディアにもつながるのですが、子供から大人までが大勢卓球で楽しそうに遊んでいて。たしかピカソ美術館の裏にもありました。「かかってこい」と言って、近くにいたティーンエイジャーを全員やっつけましたけどね。結構外国にも卓球文化は広がっていて、一般的に室内でやる卓球を外でも楽しくやっているんですよ。つい先日も、どうしてもパリで卓球がやりたくなって探したら、あのジョルジュ・ルオーの孫が卓球をやっていると聞いて、あの手この手を使って孫をつかまえて、公園で試合をしました。
卓球とデザインは似ているんですよ。どちらも、来たものを打つ。以前、愛ちゃん(福原愛さん)にも「余計なことしちゃだめだよ。来たものだけ打つんだよ」と教えたことがあります。愛ちゃんが4歳の頃から知っていて、これまで2勝2敗。去年会ったときに確認したら「もう忘れちゃった」と言われましたけど(笑)。
宿命として、文字があれば世界中どこにでも行きます。印象に強く残っている街は、中国の雲南省、麗江(れいこう)という、世界遺産にも登録されている古都。そこにはトンパ文字があって、その文化が今でも生息しているんですね。東巴(とんぱ)文化研究所もあって、老東巴というマスターになるために、若いお坊さんが10年間修行に来ている場所があるんです。今まで5回ほど行きましたが、滞在中、持ち出し厳禁のトンパの教典がどうしても欲しくなってしまい、夜中に骨董屋に行ったんです。
その日は雨が降っていて、足跡を消すのにとても都合が良かったんですよね。骨董屋の主人に「トンパの教典ありますか」と聞いたら、店のカーテンをバッと閉めて、まず強いお酒を飲まされるんですよ。そのあとトンパ教典を見せてもらい、あるだけ全部買いましたね。なんとか日本に持って帰ったその教典は、2008年に21_21 DESIGN SIGHTで行った展覧会「祈りの痕跡。展」でも展示をしました。
祈りの痕跡。展
今、気になっているのは伝統工芸です。去年パリで行われた「パリに於ける東北伝統的工芸品展」という展覧会のために、屏風、マトリョーシカ、こけしの3つをデザインしました。それらを制作するときに気づいたことですが、東京でああでもない、こうでもないと考えていないで、実際に現地の職人さんに会いに行くと、どんどんアイディアがでてくるんです。伝統工芸にもまだまだ鉱脈があるぞってことで、もしかしたら大きな「デザインの爆発」を起こせるかも知れません。日本を代表するデザイナー数人を連れて、東北へ行く予定を立てています。そこで切磋琢磨して作品を制作して、世界で発表するのもいいですね。
パリに於ける東北伝統的工芸品展
取材を終えて......
その場にいた取材班全員が大爆笑をするほど面白く、時に「なるほど〜」と、充実したインタビューでした。ちなみに取材時に着用していた金のパーカーはISSEY MIYAKEのサンプルで、秋に発売する予定と伺いました。(edit_rhino)