アート + デザイン + メディアで社会に対する問いかけがある街に。
ツイッターをはじめインターネットの可能性を見越した独自のメディア活動を行ってきた津田大介さん。最近では、ネットのみならず、ラジオやテレビ番組にも活躍の場を広げ、J-WAVE「JAM THE WORLD」では火曜日のパーソナリティを務める。収録は六本木ヒルズ・森タワー33階にある見晴らし抜群のスタジオ。毎週通うようになり、六本木との関わりも深まっているという津田さんがこの街に求めるものとは。
つい先日、雑誌の取材で1週間ほどチェルノブイリに行ってきたんです。ウクライナの首都、キエフにある「チェルノブイリ博物館」にも立ち寄ったのですが、展示物の並べ方をはじめ空間の作り方が立体的というか、アーティスティックで、とてもインパクトがありました。1986年に起きたチェルノブイリ原発事故のことは皆さんご存知かと思うのですが、例えば、入り口から階段を上って行けば行くほど原発に近づくという設定になっていたり、帰還が不可能になった70近くの村の標識が、象徴的にぶら下がっていたり。世界地図がモチーフになっている天井では、ランプが光っているところが原発のあるところ。子どもたちが残していったぬいぐるみを集めたオブジェなどもありました。
ウクライナ国立チェルノブイリ博物館
過去の痛ましい出来事を伝える施設ということでは、日本の「広島平和記念資料館」や「沖縄県平和祈念資料館」も同じですが、日本の展示はどちらかというとドキュメンタリー中心で解説が多いですよね。「チェルノブイリ博物館」がエンターテイメントだとは言いませんが、印象としてはドキュメンタリー3割、あとの7割は事故のアーカイブなどを使った体験型のインスタレーションやアーティスティックな展示で、見た人に「考えさせる」内容になっている。事故そのものを伝える資料と、哲学的な問いを投げかける展示、そのバランスが絶妙で、聞けば、展示のプロデュースは現地のアーティストがしているそうです。
アートって、人に何かを考えさせる「きっかけ」になるようなものですよね。昨年「日本科学未来館」で行われていた『世界の終わりのものがたり』という企画展でも、そのことを感じました。副題は「もはや逃れられない73の問い」。まさに、いろんな問いかけがある企画展で、とても面白かった。最先端のアートやデザインって、最先端の問いかけなんだな、と。来場者数も記録的に良かったと聞いています。
六本木の「森美術館」で開催されていた会田誠展もいろいろと物議を醸したけれど、結果的にはものすごい大成功を収めましたよね。それはやはり、「社会に対する刺激的な問いかけ」があったからだと思います。
デザインとアートの街って、つまり、問いかけみたいなものが常にある街なんじゃないでしょうか。東京ミッドタウンにしても六本木ヒルズにしても、消費社会の象徴のような側面があると思うのですが、その場所で、「今の消費社会のままでいいのか」みたいな問いがあるのも面白いだろうし、資本主義が抱えている矛盾を否定することなく、矛盾のまま、提示するようなものがあってもいい。そのことで人が集まり、六本木という街が新たな出来事との出会いの場になっていくといいんだろうな、という気はします。
アートとデザイン、そして、僕はそこにメディアも加えたい。例えば大手の新聞社などは大手町近辺や官公庁街にあることが多いのですが、マスメディアやジャーナリズムを担うような企業が六本木にあってもいいのでは、と思うんです。ジャーナリズムとアートやデザインが組み合わさったものを見たいとすごく思うし、たぶん自分の活動も、そういうところにあると思うんです。
僕が注目されたきっかけはツイッターです。政府の審議会を傍聴席で聞いていて、マスメディアにもっと報じて欲しい内容だと思ったんだけど、記者席にまったく記者がいない。だから、今起きていることを報告するツール=ツイッターを使って内容を報告したんです。それがおもしろかったし、可能性を感じて、いろいろな記者会見などでもその場でどんどん報告するということをやっていったですね。
その動機はジャーナリズムもあるんだけれども、半分は「ツイッターでジャーナリズムをやったらどうなるのか」という実験、アートアクティビズムみたいな気分もあったように思います。世界中で誰もツイッターを報道で使ってないんだったら、俺が一番最初にやってやろう、みたいな。
新しいメディアを使って、あるいは新しいツールや手法を使って、どういう表現ができるのか。それって、例えば音楽の世界なら当たり前にあるじゃないですか。新しい楽器が生まれたらサンプラーが出てきて、それを使ったヒップホップができたり、打ち込みという新しい手法でテクノが生まれたり。僕は雑誌ライター出身で、ツイッターを使い始めたのは2007年ですが、ちょうど雑誌がどんどんなくなっていった時期だったし、新しいメディアを使って何ができるだろう、と模索していたときでもありました。
たぶん、ほかのジャンルでもあると思うんですね。新しいテクノロジーが出てきたら、それを使った新しい表現が出てくる。そういうことを模索する人たちが六本木にたくさん集まるようになると、おもしろいですよね。そのためには、やっぱり「場所」があるといいんじゃないですかね。
僕は森タワーの49階にある「アカデミーヒルズ」が好きで、アカデミーヒルズで行われているビジネスセミナー「レッツノートビジネススキルアップアカデミー」の講師をやっていることもあり、ここ2年ほど、出入りをすることがすごく増えたんです。今でこそシェアオフィスやコワーキングスペースが時代のブームになっていますが、アカデミーヒルズは10年前からあって、あそこがあるから、「ヒルズって結構いいじゃん、六本木いいじゃん」って思ってたんですよね。
アカデミーヒルズ
何がいいって、六本木という立地と空間の雰囲気、そして、リアルな場所ならではの出会いがあること。宗教学者の島田裕巳さんとも「アカデミーヒルズ」で知り合うことができました。僕はネットの人で、別に揺り戻しというわけではないのですが、やっぱりリアルな場っていいよな、という思いはあるんです。ネットだとつながり過ぎちゃうこともあるし、ほんとうに濃い人とだけつながることも大事だな、と。
なので、「アカデミーヒルズ」みたいな場所がもっと安く利用できて、僕らみたいなフリーの物書きが取材でも簡単に使えるような拠点が六本木にあるといいと思うんです。
で、実はいま、自分でそういう場所をつくりたいと思っています。まだ「夢」なんですけど、ちょっとしたイベントなども開催できて、コワーキングできるシェアオフィス。自分の会社もそこに移しつつ、フリーの人も使える恊働のスペースですね。そこにバーカウンターとかついていると最高だな、みたいな。場所の候補は赤坂で、物件探しから始めています。
赤坂がいい一番の理由は、とにかく永田町と霞が関に近いということ。僕にとっての六本木の魅力も、実は永田町と霞が関が近いということです。
ここ2、3年の僕の一番の興味は政治です。ネットの普及と共に政治が以前より身近になり、自分自身の活動としても政治との関わりが増えていくなかで、その物理的な距離の近さも実感したんですよね。昨年の夏頃まで盛んに行っていた官邸前での脱原発デモの後でも、「もうちょっと原発の話しようよ」と六本木で集まれる。そういうことができるのが、日本のおもしろいところというか、東京のおもしろさなのかなと。
僕がパーソナリティを務める「JAM THE WORLD」で、先日、東京R不動産の吉里裕也さんと対談をしたんですけど、そのときにも「東京という街のすごさ」について改めて考えたんです。僕は東京の北区の出身で、よく地方に行くと「東京には人情がない」とか言われがちじゃないですか。でも、それ、逆だと思っていて、東京ほど人情に溢れている街はないんじゃないかと。
しかも、干渉しない。干渉はしないけど、人情はある。東京だったら困ったときに、ちゃんとネットワークさえあれば、誰かが手を差し伸べてくれる。人間関係が濃くて干渉もされるような田舎で行き詰まると、もうそこから先は何もない、という状況があるなかで、東京は総量が多いというか、結びつきが薄くてもいろんな人情がある。その「人情の総量」がある都市の中で、気の合う人たちの、小さなコミュニティをつくっていくにはどうすればいいのか。とても興味があります。
行ってみて良かった都市は、海外だとベルリンですね。中心部には、それこそヒルズみたいな建物があるんですけど、すぐ近くに公園もあるんです。毛利庭園とは比べものにならないくらい、とても大きな公園です。それ以外にも、ベルリンって街の中に公園がたくさんあるんですよね。再開発をする際にその場所をどう使うか、住民投票をするらしいのですが、投票の結果、公園にしろというのが1位になって、どんどん緑地が増えていくという。
東西ドイツの統一でベルリンは首都にはなったのだけれど、西ドイツの企業の本社はフランクフルトやボンに留まりベルリンにはあまり来なかった。だから税収は低いらしく、首都だけど貧乏、という状況らしいのですが、街として気持ちいいというのは素晴らしい。しかも、自転車で移動できるんですよ。地下鉄の中にも自転車の持ち込みができるし、7月から9月ぐらいまでの暖かい時期は、最高です。
僕は仕事を始めて16年ほどなのですが、だいたい、2、3年おきにやっていることが変わってきたんですね。最初はライターで、2年で独立して小さい編集プロダクションをつくって、その3年後ぐらいからブログを始めて、ブログを始めた2年後ぐらいからジャーナリストになって、と。あとは社会活動を始めたり、ニュースサイト「ナタリー」をつくったり。
今年の11月で40歳になるのですが、仮に60歳まで働くとして、2年ごとに何か新しいことを始めたら...... やれることはあと10個。そのうちのひとつが、「ネットで政治のメディアをつくる」ことです。今まさに、取り組んでいる最中で、昨年『ウェブで政治を動かす!』という本も出しました。今年7月の参議院選に向けての動きにも力を注いでいるところです。もうひとつは、先ほど言ったシェアオフィス的な場づくり。そうなると、残りはあと8個ですね。それをどう選んでいくか...... まあ、やりたいことは年々増えていくので、もっとやれる気もしますが(笑)。
取材を終えて......
J-WAVEにて行った今回の取材。『JAM The World』の収録に使っているという、 "STUDIO A"をお借りして撮影を行いました。大きな窓が設置され、開放感のあるブースの眼下に広がる昼間の六本木の街を見ながら、「六本木の賑やかな夜景を見ながら、貧困をテーマにニュースの話をしたりする。そういうときは『こんなところでニュース読んでていいのか』っていつも自問自答しています」と話されていたのが、印象的でした。(edit_rhino)