"二面性の両端でダイアログを重ねる。(渡邉 / takram) まずは六本木にいる人がお互いに関心を持つ。(田仲 / IDEO) 良い悪いで語らず、常に“もやもや”にする。(石橋 / AXIS)"
デザインを目的でなく手段として捉える取り組みとしてAXIS、IDEO、takramの3社主催で始まったクリエイティブセッション「コレクティブ・ダイアログ」。副題は「社会の課題にデザインの力を」。第1回目は六本木の「AXISギャラリー」を会場にワークショップが行われた。今回集まった3名は、この新しい試みの中心人物たち。未来へのアイディアへ辿りつくべく、まずは「コレクティブ・ダイアログ」とは何か、から聞きました。
渡邉康太郎(takram)「コレクティブ・ダイアログ」は、そのタイトルが示す通りコレクティブネス(集合性)がテーマで、多様な人が集まり、全員でさまざまな課題の解決に向けたアイディアを提案していくプラットフォームです。1回目はワークショップ形式で36人が集まったのですが、事前に「あなたが属しているコミュニティは何ですか?」という質問を投げかけていて、そのコミュニティを象徴するオブジェをひとつ、持ってきてもらったんです。
コレクティブダイアローグ
建築家は定規を、市議会議員は議員バッチを持ってきたり、タワーマンションに住んでいる女性は、マンションの住民全員に配られるステッカーを持ってきたり。並べてみるといろんな単位のコミュニティがあった。そこから、あるひとつのコミュニティの課題に着目し、課題をいかに解決できるかを複眼的な視点で捉えてみる、ということを行ったんですね。
デザインのためのイベントではなく、デザインをツールとして使うことに興味がある人たちのためのイベントです。だから、デザイン関係の仕事を持たない人たちにもたくさん集まってもらいましたし、「社会課題を解く」となったときに、広い視野で議論できる方として、ゲストには参議院議員の鈴木寛さんをお呼びしました。
鈴木さんが普段から持っている問題意識のひとつに、世の中のあらゆるものは近代を卒業できていない、そこから卒業していこう、という「卒近代」があります。開催前に、3社のチームと鈴木さんとで企画会議をしていた際、「最初からトピックがわかっていて、ゲストに基調講演してもらうようなワンウェイのイベントの在り方は、近代の象徴である」と言われてしまい、結局話し合う課題をイベント前には設定しないことに決めました。当日まず集まって、みんなの問題意識を探ることからはじめる。それが第1回目のポイントでもありました。
田仲薫(IDEO)そのやり方も絶対と決めているわけではなく、次回はまた変えるかもしれないし、ゲストを秘密にしておくという方法もある。例えば次回は「六本木」というテーマだけ決めておいて、参加者は「六本木がテーマならデザイン関係者がゲストかなぁ」と思うかもしれないけれど、そこに農家の人が来たら、いい意味で裏切りがあって面白い。自分があまり想定していない、マインド外の人とその場を共にするほうが、話しがしやすかったり聞きやすかったりすることもあると思うんです。
渡邉大事なのは、社会課題を解くための手段としてデザインを使っていきたい、ということで、イベントの形式はどうあってもいい。みんなで映画鑑賞してもいいし、TEDのようなプレゼン大会をしてもいいし、晴れた日には六本木でピクニックをしてもいいかもしれません。
石橋勝利(AXIS)1回目を経て思ったのは、あるひとつの問題意識に対して、良い悪いを語っても意味がないな、ということ。六本木を語る場合でもそうで、「夜の街」のあの雰囲気が良くないと言う人がいるかもしれないけれど、夜の世界もあっての六本木なので、それは否定できないし、否定する気もないんです。みんなが否定すればするほど、「本当にそんなに駄目なことなのか」と言いたくなったり(笑)。
田仲コミュニティを意識するのって、自分と違う価値観や問題意識を持った方と出会ったときだと思うんですね。そこで初めて自分はこういう人間なんだ、とわかる。ふだんの生活の中だけではそれを身をもって感じることはできなくて、その実感を補うために本を読んだり、ニュースを見て想像してみたりするけど、結局、会うのが早い。夜の仕事で悩んでいる女性をどう助けるか、みたいな問題意識を持った人間に会うと、そういう課題もあるんだと気づく。その気づきがあるときって、何となく「もやもや」しているんです。
石橋そうですね。「もやもや」するほうが気持ちいい。何か課題やひっかかりがあって、それについて頭の片隅でずーっと何となく気になっている感じでしょうか。いつか何か答えのようなものが閃くかもしれませんし。
田仲「もやもや」の状況は説明が難しいのですが、自分が今まで思っていたことが頭の中で壊されていくとき、何かを言いたいけれど言葉にならないようなとき。そんな状態を解消するためには、時にはコトバではなく、手を動かしたり、プロトタイプを作ったりすることで「もやもや」と向き合い、解決してほしい。
社会課題にデザインが入るという意味は、気づきを原動力にして、街に返すのか、人に返すのか、何かを変えていくというところまでいくこと。議論ばかりではなく、手を動かし、アクションを始められる世の中が面白いはずなんです。
渡邉そうですね。僕が思うのは、「もやもや感」というのは、つまり混沌のこと。混沌を急いで整理せず、そのまま内に保持しておくことに、実は大きな価値があるのではないでしょうか。それって多様な人とものが集まる六本木という街も、実は全く同じだと思うんですね。答えを予め思い込みで決めてしまうのではなく、多様性や混沌を保持したまま、その中で何ができるかを再構成する。それはデザイン思考の成せる技でもあると思います。
田仲先ほど石橋さんが「夜の世界もあっての六本木」とおっしゃってましたが、確かにキャッチのお兄ちゃんもいるし、もちろん昼の世界もあって、商店街の人もいるし、デザイナーもいて、多様性がある。それが価値なんだと思うんです。だから「コレクティブ・ダイアログ」に六本木というテーマを重ねるなら、六本木に集まった人だからこそできる場作りが良いかな。たとえば、六本木の交差点と高速の高架の間に櫓を組んで、そこに集まる、というのはどうでしょう。ちょうど街の真ん中ですし。
渡邉いい意味での「混沌の象徴」としての六本木のポテンシャルを生かすとしたら、先ほどの昼と夜じゃないですけれど、二面性の両端がぐっと広がるような場所で対話できるといいですね。
田仲じゃあ、2カ所でやるとして、昼と夜もいいけれど両端を空と地下で考えるなら1カ所は森タワーの一番上でもう1カ所は都営地下鉄大江戸線六本木駅の一番下のホームとか
石橋夏になるとモヒートカフェをやっている、ミッドタウンの芝生広場もいいですよね。場所は他にもまだまだある気がします。
都営地下鉄大江戸線六本木駅
田仲僕が所属しているIDEOは、Human Centered Designを大切にしていて、街中の人々を観察しながら、彼らの考えを聞いたりすることが多いんですね。そこでちょっと思ったのですが、テーマが六本木だったら、キャッチのお兄さんたちにぜひ話を聞いてみたい。
石橋いいですね。彼らと昼間に、ちゃんと話す。
田仲六本木という街をどう思っているのか。実は道の区画整理したほうがいいと思っているかもしれないし、日光の下で話してみると、意外にまじめだったりするかもしれない。トルコ系やアフリカ系の人もいるし。
石橋リサーチとしては大事な対象者ですよね。何を考えているのか、単純に興味があります。
田仲彼らは長い時間六本木にいて、いろんなタイプの人とも会っているわけだから、彼らに話しを聞いたりチームをつくってワークショップなどもできれば、たぶん、街の見方も変わったりするかも。
石橋六本木に対してだけではなく、彼らの母国についてだったり、なぜ日本にやって来たのかとか、日本人をどう思っているかとか。直接話すことでいろんなヒントが見つかると思います。「へえー、そうなんだ!」と。それに彼らだけでなく、昼間は小中学生も通学で歩いていて、あの子たちは六本木をどう思っているんでしょうね。
田仲僕は「デザインの第一歩」って、人間に関心を持つことだと思うんです。デザインは誰かのためにするものだし、コミュニティだったらコミュニティにいる人たちに向けて考えるし、常に対象があるものなので、六本木ならまず、「六本木にいる人に関心を持つ」という入り口がとても重要なんじゃないでしょうか。
Tokyo Midtown DESIGN TOUCH〜夢を叶えるデザイン展
田仲キャッチのお兄さんと、共通の話題にできるものがないか、ちょっと考えていたんですけど、「季節感」はどうでしょう。たとえば六本木の交差点から飯倉片町まで、通沿いに実のなる木を植える。それを見て、キャッチのお兄さんが「もう実のなる季節になったな」と言い、東洋英和女学院の学生が「今年は甘そうね」と言う。ま、なさそうですが(笑)、季節感ってデザインやクリエイティブに直結しているものなので、そんな会話が生まれるようになったら、六本木はもっと刺激的な街になると思うんです。
石橋確かに、こちら側はミッドタウンの芝生広場のような場所がなく、季節感ないですからね。例えば、この辺りで季節感といえば、2月7日の北方領土の日。ロシア大使館が近くにあるので、その頃になると街宣車がすごいんですよ。「ああ梅の花が散ったな、そろそろ北方領土の日だな、また今年もウルサイぞ」みたいな。
田仲それは確かに、六本木だからこそ感じられる季節感ですね。インパクトあるなあ。
雑誌「AXIS」
石橋好きというか、気になる街をあげるとしたら、中野ブロードウェイとか。家も近いので。何かにこだわりのある人やちょっと変わった人もいるので、見ていると、ここもやっぱり「もやもや」してくる。人だけじゃなくて、店もそうなんですけど、いろんなものが入り組んでいて、歩いていると頭がぐるぐると回る。表向きには「好きな街は銀座です」とか言ったほうがいいのかもしれないけど(笑)。
田仲銀座は「もやもや」しないですもんね。僕も武蔵小山の商店街とか行くと「もやもや」します。いろんな主観と価値観が混ざり合っていて、それを整理しようという意識がない街がいい。銀座は何らかの枠があって、整理できる。
で、僕はホノルルが好きです。小さい頃、ハワイにずっと住んでいたので。ホノルルは、「もやもや」の「も」の字すらない。でもそれはそれで、「誰も何も考えてない感じ」が好きなんです。たとえば、僕がいた街に電車を建てようと言って30年ぐらい経つのですが、未だに建ってない。でも、それでオッケーなんですよね。老人も若者も基本的にはみんな受け入れてくれるし、許容範囲が広い。程よく文明もある。だから、ホノルルにいると「僕のアイデンティティーは何だろう」とはあまり感じない(笑)。アメリカの西海岸、ベイエリアも好きで、あの辺も許容範囲が広い。しかも実行力があって、いわばハワイ発展形。
渡邉僕は好きな街がふたつあって、ひとつは東京。理由は都市の大きさであり、大きいからこそ生じる出来事の同時多発性、アノニマス性、いつまでも追い続けなければならない、そしていつまでも素顔が分からないファム・ファタル性みたいなのものです。もうひとつは、ストックホルム。その魅力は東京とは対極的で、街の小ささなんですよね。3年ほど前に2カ月間住んだのですが、一晩に2つか3つのイベントをハシゴすると、ストックホルムのアート&デザインコミュニティの8割の人に会えてしまう。みんなが行きたがる最新のバーやレストランも数えるほどしかなくて、大抵同じ人たちが集まってしまいます。常に一つの場所で何かが起こっているような感じで、まったく同時多発じゃないですよね。でもそれも可愛らしくていいなと思いました。街を歩いていても、角を曲がるとすぐ知り合いとすれ違ってしまうんです。
IDEO
furumai
© 2007 water project. Photographs by Takashi Mochizuki石橋仕事を通じて関心があることは、「デザインの次」とか、「次のデザイン」でしょうか。広義のデザインと言うのはいいけれど、ついつい何でもかんでもデザインと言ってしまいがちなので、そこは反省。身の回りのいろんなことに対して、枠にとらわれずにユニークなアプローチができればと思います。
田仲IDEOとしては「デザイン」はデザイナーものだけではないと考えていて、全員が「クリエイティブ」な人間であると、信じています。まずは、みんながそれぞれクリエイティブであることを信じ、柔軟に発想することで、世界にインパクトを与えるようなソリューションを生み出せると考えています。特に日本は、繊細さや感受性に独自性があるので、その本来のクリエイティビティーをより発揮できるように、組織や個人が変わっていく、お手伝いができたらいいなと思っています。
渡邉僕らは最近、企業の代表や役員の方と一緒にものづくりができる機会が増えてきています。現場の人たちだけでなく、マネジメント層の方ともデザインマインドを共に育みつつ、勢いを保っていろんなことに取り組んで行きたいですね。トップダウンで組織の在り方から変えてしまうようなプロジェクトを、もっと加速させていきたい。
もうひとつは、ものづくり以外の仕事の幅を広げていくこと。よく「ものづくりとものがたりの相互作用」と言っているんですけれど、結局デザイナーの仕事って、白鳥みたいな感じかなと思うんです。一見キレイに見えて、水面下の足は、実は相当バタバタしている。バタバタしながら、「具体と抽象」の間や「混沌と洗練」みたいな、一見相反するものの行き来を繰り返す中で、ひとつの答えに至るのがデザインの作業とするならば、「ものづくりとものがたり」も、その振幅のひとつだと思うんです。今はアウトプットがモノである仕事が多いのですが、今後はより「ものがたり」に寄った、形のないデザインにも力を入れていきたいと思っています。
取材を終えて......
27回目にして、六本木未来会議初の鼎談となった今回のインタビュー。六本木名物(?)ともいえるキャッチに目を付けたり、地下深い大江戸線六本木駅が出てきたりと、三者三様の六本木に対するイメージやアイディアはとても参考になりました。(edit_rhino)