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INTERVIEW
177
遠山夏未 × 田中義久デザイナー / グラフィックデザイナー・美術家 Natsumi Toyama × Yoshihisa Tanaka / Designer / Graphic Designer, Artist
Natsumi Toyama × Yoshihisa Tanaka / Designer / Graphic Designer, Artist

『ビルが建つ前の更地を、自然を感じられる絶好の遊び場に』【前編】

変化し続ける都市に合わせて、衣食住にも身軽さを。

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update_2026.06.10 photo_kenta yokoyama / text_ ikuko hyodo

誰もが馴染みのあるスープを入り口に、古今東西の暮らしのあり方を通じて生命の根源に触れる、21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」。展覧会ディレクターの遠山夏未さんと、アートディレクターを務める田中義久さんは、大学の同級生でもあります。ときに仕事をともにしながら、お互いの作品に関心を寄せてきた二人が、本展の協働で大切にした想いとは。衣食住やマテリアルなど、それぞれの探究テーマを交差させながら語り合っていただきました。

後編はこちら

身体性に重きを置き、物語のページをめくるような展覧会を。

遠山夏未企画展「スープはいのち」でアートディレクションをしていただいた田中さんとは、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科の同級生です。ゼミは違いましたが、学生の頃から存在はもちろん知っていましたし、何より私が田中さんのデザインやNerholのファンなんです。

田中義久ありがとうございます。

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」

衣服や住まいという身体の外側の環境と、食という内側の環境を、ともに「身体を包む行為」として捉えてきた遠山さん。その原型は体内環境にも見られ、たとえば母体は「住」、胎盤などの胞衣(えな)は「衣」、羊水は「食」に相当すると考えます。本展は、そうした視点をもとに構成されており、布や音、香りによるインスタレーションをはじめ、写真、スープにまつわる展示資料などを通じて、五感で衣食住の根源に触れる内容となっています。2026年8月9日(日)まで開催中。

遠山2007年にNerholの作品を初めて見たとき、深く感動して。当時私はPLEATS PLEASE ISSEY MIYAKEの企画デザインに関わっていたのですが、路面店などのクリエイティブで田中さんといつか一緒にお仕事をしたいと妄想していました。アートディレクションを担当された2018年の竹尾ペーパーショウの展示も、本当に素晴らしかったです。紙という素材に対して、自らの身体を使って関わることを大事にしたインスタレーションで、来場者も実際に紙をちぎったり、異素材であるプラスチックの袋に紙を入れて持ち帰ることができたりする仕掛けが印象的でした。

今回の展覧会も、帰宅してからも鑑賞者のなかに残り続けるような、終わりのない形にしたいと考えたとき、真っ先に田中さんの顔が浮かびました。それと、私は物語性の強い作品を作ることが多いのですが、田中さんは作品集など本の装丁を多く手がけているので、ページをめくっていくような感覚で展示を構成してくれるのではという期待もありました。スープという抽象的で間口の広い題材を、一緒に丁寧に編集しながら、空間全体を作っていけると思ったのです。

Nerhol(ネルホル)

Nerhol(ネルホル)

田中さんと彫刻家の飯田竜太さんによって2007年に結成されたアーティストデュオ。連続撮影された写真を重ねて、彫刻を施すポートレイト作品で注目を集め、その表現を深化。個展「Nerhol 水平線を捲る」(千葉市美術館、2024年)、「種蒔きと烏 Misreading Righteousness」(埼玉県立近代美術館、2025年)などを開催。
画像:Nerhol「種蒔きと烏 Misreading Righteousness」埼玉県立近代美術館、2025年

田中遠山さんは大学の卒業制作のテーマも「旅するスープ」で、当時からスープのことを探求していましたよね。だから大量の資料とともに展覧会の相談を受けたとき、「やれることはお手伝いします」としか言いようがなかった(笑)。遠山さんは「物語」という表現をされましたが、旅をしながらスープに出会って体感していくことの豊かさや大切さは、私自身が最近、生活のなかで感じていたこととも重なりました。企画を一緒に進めながら、素直に感じたことを共有してもらえるのも面白く、他者と協働しながら一つの展覧会を作っていく醍醐味を感じることができました。

デザインの基本は「聞く」こと。

遠山田中さんは覚えていないかもしれませんが、展覧会のキックオフで食事をご一緒した際に、「遠山さんがすくい取ろうとして、こぼれ落ちてしまったものを受け止めるのが自分の役割だと思う」と言ってくれたんですよね。それを聞いて「救われた!」と思いました。たとえば今回の《はじまりのスープ》という羊水のインスタレーションは、最初からやりたかったことの一つなのですが、デザインや美術の領域を越えて活躍している田中さんだからこそ、作品と鑑賞者をどのようにつなげ、いかにフラットな関係性として空間に落とし込むかという意図を深く理解してもらえたと思っています。私はどちらかというと感覚で生きているというか、情動的で言語化も苦手なほうなのですが、田中さんはロジックでも考えられるし、感覚的なところも共有できる。そのバランスにいつも助けられています。カウンセラーみたいに話を丁寧に聞いてくれて、自分のなかで整理できていないことを一緒に考えてくれる、ケアの精神があるんです。

はじまりのスープ

はじまりのスープ

羊水は、人間が母体のなかで出会う「はじまりのスープ」。その塩分濃度は、人がおいしいと感じるスープと同じ0.9%で、うま味成分のグルタミン酸が豊富に含まれている。羊水と同じ塩分濃度を再現した水を湛えた器に、蚕が最初に吐き出す緒糸(ちょし)を垂らし、母体の鼓動が響く空間で羊水に包まれていた記憶を呼び起こすインスタレーション。

田中デザインって、基本的には「聞く」ことだと思っています。不特定多数の人の補助になるというか、何かしら役立つことがデザインの役割じゃないですか。今言っていただいたようなやり取りもまさにそうで、展覧会ディレクターの遠山さんが何を伝えたいのかを、媒介者として第三者にどうやって伝えられるか考えていく。「こぼれ落ちたものを受け止める」のも、伝え方を間違えて誤解されないよう、いかに理解するかが大事だからです。ダイレクトに伝わるならもちろん、異なる視点や角度を持っているのも良いのですが、意図を誤読させないようにどうすれば伝えることができるか、その媒介となる手段を探っていくような立ち位置でやっていますね。

「食」は消えゆくものを一番幸せな形で消費できる。

遠山田中さんがおっしゃったように、私は学生の頃からやっていることが変わらなくて、「身体」というのが常に中心にあるんです。大学では空間演出デザイン学科のファッションコースで小池一子さんのもとで学んだのですが、身体空間をどうデザインするかとか、他者と自己の間の空間に生まれる感情とか、見えないものをつかみたいという気持ちが当時からあって。実際に着られるものはほぼ作っておらず、インスタレーションが主でした。

同時に、母体と胎児のように、命が一つであるとはどういうことかという根源的なテーマを大事にしていて、そこから「最小限の衣食住」という考え方に至り、食はスープに集約されていると思うようになりました。空間演出デザイン学科では、実空間のほかに音や光などを用いた空間表現も学びます。さらに私は舞台美術家の小竹信節さんのお手伝いもしていたため、物語性も身近なテーマでした。舞台芸術はその瞬間しか存在しないため、消えゆくものをいかに大切に作るかが問われます。一方で、食もまた消えゆくものですが、それを最も幸せな形で消費できる可能性があると気づきました。そこから、「今」という瞬間をデザインすることへと意識が向いていったのです。

田中私たちが在籍した当時の空間演出デザイン学科の役割を改めて考えると、デザインという言葉に集約されてはいるけれど、ファッション、インテリア、グラフィックなど、捉え方次第でどの分野にでも行ける状態だったんですよね。たとえば、目の前にあるペットボトル一つをとっても、平面的なグラフィックとして視覚的に捉えるか、空間のなかにある立体物として捉えるかなど、いろいろな見方がある。それを明確に定義することもできるけれど、どう捉えるかはそれぞれでいいというか、あまり決めつけないような空気がありましたよね。曖昧とも言えるけれど、自分が専門的に学びたいことを10代で決めるのは難しいし、のちのち別にやりたいことを発見する人もたくさんいる。いろいろな可能性を受け入れてもらえる土壌として意義があったと思います。

私はもともと平面的なグラフィック志望だったのですが、空間デザインという環境に身を置いたことで、物理的な空間のなかで、情報をどう立体的に伝えるかという視点を身につけられたような気がします。

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内側から外側へ、外側から内側へ。循環して表現する。

遠山私はスープや衣服を、いわば概念として捉えています。身体が中心にあり、それを内側から包むのが食、外側から包むのが衣服や住まいというイメージなんです。なおかつ衣食住の原点は「食」だと思っていて。その前提に立ったとき、身体の内側から外側へのベクトルは、見えないものから見えるもの、つまり感覚から思考への循環ですよね。一方で、Nerholの作品を含め田中さんの場合は、物質が内包する歴史や時間を身体にどう関わらせるかという、外側から内側への循環なのかなって思うんです。

田中なるほど。ただ、生活の基盤である衣食住と比べると、美術は社会的にそこまで必要とされているわけではないですよね。とりわけ食は生死に直結するため、テーマが持つ切実さのレベルが違う気もします。美術として私がやっているのは、自分が最も得意とする方法論で世界を見つめる作業です。他者からすればどうでもいいことかもしれないけれど、気になった物事や存在を探るための手立てであり、掘り進めた先に出会えるものを見たいがために作っている。だからこそ、生存の必要性という点では、美術は儚い存在だと思っています。それぞれが得意な方法で世界を探求し、その結果見えてきたものを他者に問いたい。それが美術における私のスタンスです。

遠山そこはとても共感します。大事なのは、世界をどう見て、何を感じ、どう作るか、もしくはどう生きるか。ただ、命に関わる食はレベルが違うと言っていたけれど、一見必要とされないものを作る営みにこそ、感情を耕し、文化を生み出す土壌があると思うんです。それは、人間が人間らしく生きるための糧になる。Nerholの展示を見に行くたびに、「こういう世界の捉え方もあるんだ」という発見があります。しかも作品を通して歴史や背景まで掘り下げられているから、命のつながりのようなものが垣間見えて、救われるような気分になることもあります。

撮影場所:21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」(2026年3月27日~8月9日)

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遠⼭ 夏未

遠⼭ 夏未 / デザイナー
遠⼭ 夏未 / デザイナー

デザイナー。武蔵野美術⼤学空間演出デザイン学科卒業。イッセイ ミヤケで⾐服のデザインをする傍ら、「⾐」と「住」は⾝体を外側から包み、「⾷」は⾝体を内側から包むものであるとの考えのもと、最⼩限の⾷として"スープ"に着⽬し、⾐⾷住の領域を横断しながら、⾝体を起点とした空間や体験のデザインを⾏う。主な仕事に、21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」の展覧会ディレクション・出展、「⽔を味わう ⽔を纏う/Savor Water, Embracing Water」、「⻘森りんごリトアニア 北の暮らし・⼿しごと・デザイン」展の企画・ディレクションなど。また、21_21 DESIGN SIGHT「チョコレート」、デュッセルドルフ市⽴美術館「GENERATION MODE −THE FASHION GENERATION−」などに出展。HORO Kitchen名義で、ケータリングや広告・雑誌へのレシピ提供など、⾷を軸とした活動も⾏っている。2017年より平⾯・⽴体作品の制作を始める。著書に『ポタージュ −野菜たっぷり家族のスープ−』(池⽥書店、2014年)。

田中 義久

田中 義久 / グラフィックデザイナー / 美術家
田中 義久 / グラフィックデザイナー / 美術家

グラフィックデザイナー・美術家。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。2022年centre Inc.設立。行政・教育・企業機関などと連携し、紙媒体における視覚言語を拡張しながら今日のデザイン領域をリサーチし、社会実装している。

主な仕事(VI計画・アートディレクション)
VI計画::「東京都写真美術館」、「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」、「国際美術展 TOKYO ATLAS」、「国際芸術祭あいち2022」、「POST」、「TOKYO ART BOOK FAIR」など。
アートディレクション:「Takeo Paper Show」、「ISSEY MIYAKE」など。
アーティストとしての活動(Nerhol):アーティストデュオ「Nerhol(ネルホル)」としても活動し、以下の美術館等で個展を開催。
「Nerhol 水平線を捲る」千葉市美術館
「種蒔きと烏 Misreading Righteousness」埼玉県立近代美術館
「Beyond the Way」レオノーラ・キャリントン美術館(メキシコ)
「Index」Foam Photography Museum(オランダ)
「Promenade」金沢21世紀美術館 など
受賞歴:令和6年度(第75回)芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

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