「東京」ではなく「六本木」。小さなスケールからはじめる。
蘆田暢人今は東京に限らず、世界中の都市が肥大化しています。今までの技術はスケールをどんどん大きくして、世界をひとつの統一体にするような方向が多かったといえます。しかし誰もがスマートフォンを持ち、個人でできることが増えてきて、これからはいろんなことのスケールが縮小されつつあると思うのです。電気ひとつとっても、これまでは電力会社から買うしか選択肢がなかったものが、ソーラーパネルを使えば自分でつくることもできます。技術がスケールダウンしてより個人にフォーカスするようになり、ネットワークの集積で個人同士がつながっていく。新しい都市モデルも必要になってくるでしょう。
そのとき、一番の課題となるのは、肥大化した都市をどうしていくかということ。小布施町でやっているエネルギーとまちづくりのようなプロジェクトは、人口1万2,000人の規模だからできることだったりもして、東京で展開するにはスケールが大きすぎるんですよね。肥大化して、できることが少なくなってしまった都市をいかにスケールダウンしていくかが、これからの都市のあり方だと思うのです。ですので、東京という枠組みで捉えるのではなくて、たとえば六本木のようなエリアに細分化して考えたほうが、できることも多いような気がします。
オオニシタクヤ今の話を実感できるエピソードがあって、僕はコオロギの飼育の研究をしているのですが、コオロギはいつもAmazonのペットショップで注文しています。でも実は、そのペットショップは世田谷にある大学の研究室の近くにあるんです。注文が入ると世田谷の集荷場にコオロギを持っていくらしいのですが、配達ルートを確認するとそこから一度羽田に行って、また世田谷の集荷場に戻ってきて、やっと研究室にデリバリーされる。それが効率的な都市の設計になっているわけです。でももっと小さなエリアで自律的に判断できるようになれば、集荷場に荷物が持ち込まれたら、横連携ですぐに研究室に届くはずなんですよね。なので、今はコオロギさんには、かわいそうなことをしていますね。
蘆田送電についても同じことがいえます。電気の流れには直流と交流がありますが、交流は電気を遠くに運ぶことができるので、都市で使う電力を離れた地方でつくることができるわけです。そうしてつくられた電力を都市で使う場合、ACアダプターで直流に変換しなければなりません。その過程で生じるエネルギーロスを考えると、本来は直流をつくって近くでそのまま使う、いわゆる"地産地消"が一番いい。たとえば発電所からエネルギーを供給できるエリアという視点で、新しく街割りをしていくようなことも都市の可能性として考えられますよね。国際的にも直流電力供給は注目されていて、都市のスケールを小さくする考えと通じる部分があると思います。
オオニシ都心にある六本木はエネルギーの消費地ですが、エネルギーの生産地になるような転換が起こったら、インパクトがありますよね。このエリア限定であれば実現性は高くなるでしょうし、「エネルギーの生産地になります! 六本木宣言」みたいなことができたら面白い。自転車をこいだり、ソーラーパネルで発電したり、小さな規模でもいいので、エネルギーの生産地になるような変革が六本木で起これば、東京が変わっていくきっかけになるかもしれません。
蘆田六本木発電プロジェクトは僕もいいなと思っていました。小布施町でも最初の年に、町の地図を広げて、ソーラーパネルや風力発電などのエネルギーをどこにどういう形でつくるのがよいか、街の人たちと具体的に議論をしました。オオニシが話したように、六本木もエネルギーを生産する側の街になれるのか、そしてそれはどういう形がいいのか考えてみるのは有意義だと思います。
エネルギーと社会をつなげるという意味で面白いと思っているのが、ちょっと前に流行った「ポケモンGO」のような仕組み。街なかの何もないようなところにも人が集まって、スマホを見ていたじゃないですか。ああやって人の流れをコントロールできるのであれば、いろんなことに応用できそうですよね。たとえば街を歩いているとき、電源やWi-Fiを探している人って結構多いですよね。僕もそうですけど、カフェに電源やWi-Fiがあるかどうかで入るのを決めたりする。電気は今や人を集めるひとつの大きな吸引力になっているので、充電スポットをゲリラ的につくることで、今までの人の流れを変えることもできるはず。それをイベントでやってみたり、お店の前でやったりして、人だまりをつくってみるのも面白いのではないでしょうか。
オオニシ充電スポットに自転車発電機を設置して、「充電したかったら自分で発電もどうぞ」っていうのはどうかな(笑)。
蘆田面白いね。それくらい電気は今、人を動かすものだと思うから。
オオニシ都市生活者がエネルギーに貢献できる行為って、今のところたぶん、省エネくらいですよね。だけどエネルギーをつくる"創エネ"の発想で、六本木でできることもあると思うんです。
蘆田つくるという視点はとても大事。循環や持続可能性の話にもつながりますが、省エネや節電はやめたり控えたりするネガティブのベクトルなので、我慢が伴いますよね。そうではなく、エネルギーもつくるっていうポジティブなベクトルにしたほうが、生活していても楽しくなる。自分で使う電力は自分でつくるくらいの社会になっていったほうが、より多くの人が健康で楽しく生活できるような気がします。六本木はデザインの街でもあるので、発電方法も単にソーラーパネルを置くだけではない、デザインの街ならではの発想があるんじゃないかと思っています。
オオニシ先ほどもコオロギの研究の話をしましたが、「ENTOMFARM」という食用コオロギの養殖のプロジェクトも行っていて、今回の「DESIGN TOUCH」での展示にも少し取り入れています。3Dプリンターで切頂八面体の立体構造をプリントアウトして、この中でコオロギを高密度で飼育すると、4〜6週間であっという間に動物性タンパク質が豊富に含まれた食品として育ってくれるんです。僕は、エネルギーデザインの分野から、食糧問題にも興味があって、そういった昆虫食の研究を進めています。
蘆田僕が関心があるのは、公共性のあり方です。今までは役所が公共の場所をつくって、民間は自分の土地で何かをするような形で街がつくられるのが主流でしたが、これからは公共性のあり方が変わってくると思っています。公共性というのは、言ってみればコミュニティのつながりなので、もっと個人が前に出てくるコミュニティになっていくと思うのです。そのとき鍵になるのは、共有財産。人がつながるためには吸引力のある何かが必要で、施設だったりイベントだったりいろいろありますが、エネルギーもそのひとつ。みんなでエネルギーをつくったり、共有することでまちづくりができるはず。小布施町ではまさにそれをはじめているので、今後は更に新しいモデルをつくっていければいいと思っています。
取材を終えて......
個人や小さな組織で取り組むには、あまりにも大きな課題のように感じていたエネルギー。ENERGY MEETの2人のお話を聞いていると、人や組織をつなぎ、改善・解決の道筋をつくっていくデザインの力が、いかに大切なのかがわかりました(コンビネーションも抜群でした!)。肥大化した都市を細分化して、エネルギーの最たる消費地というイメージのある六本木が、生産地に転じる。なんと夢のあるストーリーでしょう! 街に渦巻く欲望で発電する仕組みを、デザインで実現できたら未来が変わりそうです。(text_ikuko hyodo)