「東京」ではなく「六本木」。小さなスケールからはじめる。
オオニシタクヤ「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2022」には、農業をテーマにした《F.A.R.M. -Future Agricultural Rights for Mankind-》という作品を出品しています。我々は「エネルギーデザイン」というコンセプトで活動しているのですが、エネルギーって幅が広いですよね。突き詰めていくと循環のデザインになるのですが、農業もいずれエネルギーデザインの文脈に入ってくるだろうということは、随分前から予感としてありました。
たとえば動物性タンパク質の生産には、大量のエネルギーと淡水が必要で、温暖化ガスの排出も大きいため、環境負荷が高すぎるという問題があります。農業も環境負荷の問題や自然破壊の原因のひとつとして指摘されることもあります。こうした農業をテーマに、循環というものをデザインでわかりやすく皆さんにお伝えし、一緒に農業のことを考えたいと思い、今回の作品のアイデアがひらめきました。
蘆田暢人僕はアイデアからデザインに落とし込む方法を考えていったのですが、過去に遡れば農業は日常生活の合間にやることもあるくらい身近なものでしたよね。でも、社会が発展して人口が増え、社会システムが分業化されると、当然のように農業と人との距離が離れていく。高度に発展した社会のひとつの特徴です。僕も東京で暮らしていますが、都心で田んぼを目にする機会はまずないですよね。そんななか、六本木で農業をテーマにした作品を展示し、見に来た人が農業と人との関係について考えることで、人と農業を新たな方法で近づけられるようなデザインにしたいと思いました。
オオニシ《F.A.R.M.》は都市生活者との距離ができてしまった農業を、わかりやすく楽しく伝え、かつ、積極的に参加できるような作品になっています。農業にはありとあらゆる循環が関係しているんです。そこで、まずは水や光、土壌などさまざまな要素に分解してみました。40×40×40センチの木のフレームのなかに、農業に必要な要素をひとつずつ収め、レゴブロックのような感覚で組み立てていきます。たとえば水が入っている給水タンクと土壌栽培、もしくはハイドロポニックス(水耕栽培)、LED、ソーラーパネルなどをそれぞれ組み合わせることによって、自分だけの農業ユニットをつくることができます。ブロックを上に重ねて垂直型にすれば、高層ビルのファサードにも応用が可能で、面積が限られた場所でもできるのがポイントです。
蘆田農業とひとことでいっても、土に苗を植えて収穫する従来の方法以外に、今はいろいろと進化しています。そういった技術を用いることで、土地を持たなくても作物を栽培できるようなユニットをイメージしています。
オオニシ今年の「DESIGN TOUCH」のテーマが「環るデザイン」。循環や持続可能性がキーワードになっていますが、イベント終了後に展示していたものがごみになっては、元も子もない。そこで2つの高校とプロジェクトの提携を結び、エキシビションが終わったらこのユニットを引き継いでもらい、農業の実習を継続していくことになっています。作品自体も循環させ、未来につなげていくことを目指しています。
蘆田《F.A.R.M.》を制作する初期段階で、どうやったら都市で農業ができるのか考えました。最近は屋上農園をやっている方もいますし、週末だけ近郊に行って、農業に親しむ方もいますよね。こうした状況からもわかるように、東京などの都市には余った土地がほとんどない。ただし面積という視点で見ると、おそらく土地の面積よりも壁面の面積のほうが、圧倒的に多いと思うのです。1平米当たりで収穫できる農作物は限りがあるので、収穫量を上げるにはある程度面積の確保が必要になります。都市の場合は、壁面をジャックして、そこに農地をつくっていく未来のほうが現実的かもしれない。
今回のブロックを積んでいくようなデザインには、自分で好きなようにカスタマイズできるという意味も込めていますし、建築のフレームに見立てて垂直方向に農場をつくり、広範囲に展開する可能性も視野に入れています。実際、環境や景観の観点から壁面緑化をしたり、バルコニーのようなスペースをつくって緑を植えたりするビルも増えています。こうした緑を農園に転換したら都市農園ができるでしょうし、立体展開は技術的な部分も含めて可能性があると思っています。
オオニシ地球の陸地は大まかにいって、3分の1が森林で、3分の1が乾燥砂漠地帯、3分の1が農地牧草地になっています。一方、都市は陸地全体の1%前後に過ぎないそうです。ということは、都市でどんなに農業を頑張っても、焼け石に水かもしれない。とはいえ建物を含めた表面積はやっぱり大きいので、残されている可能性を見出していきたいですよね。
オオニシエネルギーと社会をつなげる僕たちのプロジェクトに、「ENERGY Gift mini」があります。以前僕がタイで講師を務めていた、キングモンクット工科大学の先生たちと一緒に立ち上げたプロジェクトで、電気のないタイの辺境地にエネルギーをプレゼントするというものです。タイの電気工学科の学生と、日本でデザインを学ぶ学生がソーラーランタンを共同で開発して、現地の子どもたちと一緒にそれらを組み立て、寄贈しました。
蘆田日本では、まちづくりとエネルギーという観点で手掛けているプロジェクトがいくつかあります。一番長く関わっているのは長野県小布施町のプロジェクトで、今年で10年になります。行政と一緒に進めているプロジェクトで、発端は東日本大震災の原発事故でした。小布施町は人口1万2,000人ほどの小さな町ですが、エネルギーを電力会社やほかの自治体に依存せざるを得ない。そこから自立し、環境先進都市を実現することを目指して、さまざまな取り組みをしてきました。10年前は「小布施エネルギー会議」を立ち上げました。自然エネルギーについて知らない方々も多かったので、住民の皆さんと映画を観たり、専門家を呼んで勉強するところからはじめて、今ではかなり浸透してきています。2018年には町内に小水力発電所を整備しましたし、今年は小布施町全体で、エネルギーやごみ問題も含めて環境問題に対する目標を掲げるためのグランドビジョンを策定しました。
オオニシエネルギーと社会という観点では、共同プラットフォームをつくることに注力しています。ウェブサイトに代表的なプロジェクトをいくつかあげているのですが、これらはすべて大学や企業、自治体などと共同で行っています。そうやって一緒にプロジェクトを進めて、ミーティングの場をつくりたいという思いで、ENERGY MEETという名前にしました。さまざまな方と連携しながらプロジェクトを展開できるようなチームづくりも、デザインの役割なのです。