みんなの明るいパワーをひとつに。
芝居、アート、音楽。さまざまな世界に生き、その時々に異なる色を放つ、のんさん。役者、創作あーちすとといった肩書きはあるけれど、そこには境界線はなく、すべてがのんさんというひとつの作品になっているようです。そんな唯一無二を地で行く稀有な存在である彼女が手掛けた、自身初の劇場長編映画『Ribbon』が2022年2月25日に公開。その構想の種のひとつとなったのが、東京ミッドタウン・デザインハブで行われた『ゼミ展2020 見のがし卒展』だったと言います。映画への思いはもちろん、『見のがし卒展』で感じ取ったこと、コロナ禍において不要不急と言われたアートやエンタメに携わる者としての思いなどを、まっすぐな言葉で紡いでくれました。
映画『Ribbon』の制作に向けて動き始めた頃、世の中ではアートやエンターテインメントは、不要不急なものとして扱われていました。映画の中に「世の中の人達みんな、芸術なんかなくたって生きていけるんだって」というセリフがあるのですが、それを職業にして生きている私にとっては、必要ではないものとされるとすごく悔しくて......。でも、本当に不要不急なのだろうかと考えることが、結果、自分を見つめ直す機会にもなりました。考えてみると、映画や演劇、音楽、アートからたくさんの影響を受けて、今の私は形づくられているんだなと実感したんです。アートやエンタメは直接生死に関わるものではないけれど、私を生かしてくれるもの。そういう意味では、心の生死に関わっていると言えるのかもしれません。
改めて自分はアートやエンタメをやりたいんだと再確認できて、自分が思っているより遥かに私にとって大事なものなんだということにも気づきました。うまく言えないけど......"好きの量"が分かった期間だったのかなって。好きな気持ちを自分で分かるのってとても幸せで、いいことだなと思うんです。『Ribbon』で私が演じたいつかも、ただただ絵が好きで一生懸命やってきたけど、ある意味、情熱だけで突っ走っていた。でも絵を描くことが阻まれた時に、改めて自分は描くことが本当に好きで、この先も描きたいんだって気持ちが定まっていくんですよね。
表現する側でなくても、好きなものを知るってとても大事だと感じます。例えば、「私はこの絵が好きなんだ」って自分の心が動くものが分かると、自分を支えるものになっていく。自分の輪郭がはっきりしてくると、やみくもに生きていたのが、「自分はこうやって生きていきたいのかも」って見えてくる気がします。アートに触れて気づきを得ることで、自分の日々の過ごし方とか、生き方が定まっていくのって、きっと心地よいんじゃないかなと思います。
美術館でアートを見るのが好きなので、森美術館や国立新美術館の展覧会に足を運ぶことも多いです。美術館に行くと、長居しちゃうんですよ。好きな展示でも、そんなに自分には刺さらない展示でも、一つひとつ考えながら見るので、気づけば時間が経っていたということがよくあります。
六本木の美術館は、建物自体も近代的なデザインで面白いですよね。国立新美術館のガラスのカーテンウォールは、何度見ても「うわ、ウェーブしているなぁ」って圧倒されちゃいます。若い頃は、「自分は六本木なんかに行く人間じゃない。静かなところで野暮ったくいたい」って思っていましたが(笑)、年を重ねるごとに素敵な美術館やおいしいごはん屋さんを知って、「こんな素晴らしい街だったんだ」と印象が変わっていきました。今は、おしゃれな大人の街というイメージです。
美術館で作品を見るのも楽しいですが、昔から外で草木を観察するのも好きなんです。「なんで、ここにタンポポが咲いているんだろう?」と、不思議な場所に生えてきた植物を探したり、名前はわからないけど、「これ、好きだな」と思う草花を見つけたりするのが楽しくて。別の場所で同じ花を見つけると、「ここにもあった!」と嬉しくなりますし、「公園といえばこの草。定番ですよね~」と若干の偏見を持って観察するのも面白いです(笑)。
草木といえば、先日まで開催されていた沖縄の『やんばるアートフェスティバル 2021-2022』で、ガジュマルの木にたくさんのリボンをつけてひとつの作品にしました。自然とリボンの共演は、すごくパワーがあって楽しかったので、ぜひ六本木でもリボンアートをやってみたいです。「こんなところに雑草が!」と近づくと実はリボンだったとか、「何だ、あれは?」って思うような不気味な物体が、よく見るとリボンの集合体だった、みたいな感じで。すごく興味があります!
リボンは私にとって、めちゃくちゃ大切なモチーフなんです。女の子の絵を描くとリボンをつけることが多いし、恐竜の絵にもリボンを付けちゃうくらい大好き。リボンが好きになったのは、宇野亞喜良さんの絵がきっかけでした。かわいいリボンをつけた女の子だけど不機嫌な表情をしていたり、エロティックでセクシーな雰囲気の女性がキュートにリボンで着飾っていたりするのが魅力的で。色に関しても、宇野さんの影響が大きいですね。以前はデッサン画のように鉛筆でモノクロの絵を描いていて、自分は色を付けるのが苦手だと思っていたんです。でも、宇野さんの絵に出会ってから、「なんてかわいいんだ。私もこんな風に色を付けたい!」と、クレパスや水彩で描くようになりました。
リボンって、かわいいのに集まるとグチャッとして、ゴミのように見えたり、不気味なものに見えたりするのが面白くないですか? そもそも、私はかわいいだけじゃないものが好きで、女の子のパワーに惹かれるのも "かわいくて狂暴" だから。そう考えると、リボンアートだけじゃなく、女の子を集めてアートイベントをやるのもいいですね。例えば、道路にペンキをベシャッと塗り付けて、ひとつの絵をみんなで描くのも楽しそう。六本木は汚しちゃいけない街のような気がするからこそ、街自体に思いきり絵を描いてみたくなります。ひとつのものを全員でつくり上げるのもいいし、それぞれが街のあちこちで絵を描いて、実はひとつに繋がっているというつくり方もいい。ちなみに、女の子のイベントと言いましたけど、女の子のパワーに共感してくれる人なら、性別は問いません! やりたい人、みんなでつくるのが私は好きなので。みんなで明るいパワーを集めて、六本木の街をカラフルなアートで染められたら面白いですね。
そういえば、以前訪れたメキシコのグアナファトという街が、すごくカラフルでパワーに満ち溢れていたのを思い出しました。家1軒1軒の壁が鮮やかな色にかわいく塗られていて、街中にはアートが点在していて。しかも、ごはんもおいしいんですよ。炭がまわりについたチーズがおいしすぎて、あのチーズを食べにまたグアナファトに行きたいくらい。魅力がたくさんあって、大好きな街です。
そして、2022年が始まりましたが、私が今、興味があるのは体づくり。突然アートやエンタメから離れちゃいましたが(笑)、いろんなお仕事や表現をするためには、やっぱり体力が必要だな、と思うんです。特に、昨年はアクロバティックな動きが必要とされる舞台に出演したりもしたので、より体力の必要性を感じました。明るくパワーのあるアートやエンタメを届けるために、体力や筋力をつけてパワフルに動ける体を手に入れられたらなと思います。
撮影場所:東京ミッドタウン・デザインハブ『ゼミ展2022』展(開催中~2022年2月15日)
東京ミッドタウン・デザインハブ第95回企画展「ゼミ展2022」
会場:東京ミッドタウン・デザインハブ(東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー5F)
会期:2022年1月10日(月・祝)~2月15日(火)
開館時間:11:00~19:00
休館日:会期中無休
お問い合わせ:03-6743-3776
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://designhub.jp/
取材を終えて......
のんさんをコメディエンヌと評する人がいますが、それはコメディをうまく演じるという意味合いより、本来滑稽でコミカルな生き物である人間を、とてもチャーミングに愛おしく伝えてくれる人という感覚が近い。『Ribbon』を拝見して、そんな風に感じました。誤解を恐れず言えば、決して言葉を自在に操る人ではないけれど、一つひとつの言葉に突き刺さるような熱と確固たる意志、優しさが宿っている。だから、人は彼女に心揺さぶられ、惹きつけられるのだと思います。(text_akiko miyaura)