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INTERVIEW
119
山本太郎美術家 Taro Yamamoto / Artist
Taro Yamamoto / Artist

『“生きた美術”を生活の中で楽しむ』【後編】

目線を変えることで見えてくる美しさ。

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  • NO119 山本太郎 『“生きた美術”を生活の中で楽しむ』【後編】
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update_2020.08.12 photo_tada / text_akiko miyaura

圧倒的な強さと繊細さを併せ持つ伝統的な日本画の空気の中に、ある種、異物とも言える現代のモチーフが散りばめられている山本太郎さんの作品。とても美しいのにクスッと笑えたり、とても強いのに胸を締め付けられるような繊細さを感じたり。そんな不思議な世界観を発する山本太郎さんの“ニッポン画”の起源は、いったいどこにあるのでしょう。リニューアルオープンしたばかりのサントリー美術館にてご自身の展示作品を前に、柔軟な発想を生み出す日常の視点や、人々が生活を営む街で取り組むアートへの思いなどをうかがいました。

前編はこちら

その土地に住む人々の物語を読み解く美しき屏風たち。

 地域に根差したプロジェクトの中で、ひとつ大きな経験になったのが地元・熊本で行った、熊本「ものがたりの屏風プロジェクト」。今も水害で大変な中ですが、2016年の制作時も熊本地震で大きな被害を受けていたんです。そういった時、作品をつくるアーティストは即時に力になれないと感じた部分もあって......。例えば音楽のアーティストであれば、すぐに現地入りしてチャリティーライブができる。でも、物をつくるとなるとどうしても時間が必要で、即時に動けないんです。そんな時、偶然にも地元で建築家をしている高校時代の先輩に声をかけていただいて、チャンスを得ることができました。先輩が古い家のリノベーションを主な仕事にしていたご縁で、今はなき老舗の表具材料屋さんから廃棄予定の屏風をいただき、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)の学生たちとプロジェクトをスタートさせたんです。まずは屏風を修復した上で、じゃあここに何を描こうとなった時、熊本の方たちから所縁のある品々と共に物語を募集し、それを屏風の中に閉じ込めることにしました。

熊本「ものがたりの屏風プロジェクト」

熊本「ものがたりの屏風プロジェクト」

熊本地震による災害で、やむを得ず店をたたむことになった老舗「森本襖表具材料店」から譲り受けた屏風を、京都芸術大学の学生とのプロジェクトの一環として修復。美しく生まれ変わった屏風に、熊本県民から公募で集めた思い出品々を、応募者の物語とともに「誰が袖図屏風」の形式で描いた。

 現在、サントリー美術館のリニューアル・オープン記念展Ⅰ『ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』で展示しているのが、熊本で制作した作品。使った屏風は、衣桁という調度品にいろいろな着物がかかった風景を描く「誰が袖図屏風」と呼ばれるもので、江戸時代の生活の空気を感じるものです。見る側が「この着物を着るのはどんな人で、どんな生活しているのかな?」、「こちらの着物は床に置いてあるけれど、あちらは衣桁にかけてある。どういうことなのかな?」と、物語を読み解いていく形式の屏風だと個人的には感じています。生活というのは、淡々とした日々の積み重ねでもありますが、同時にひとりひとりの小さな物語の積み重ねでもある。今回並ぶ屏風も、「このモチーフにはどんな意味合いがあるのかな」「モチーフの裏には、どんな物語が潜んでいるのかな」と想像すると、より楽しんでいただけるのではないかなと思います。

『ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』

リニューアル・オープン記念展Ⅰ『ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』

サントリー美術館のリニューアルオープン記念として『ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』を開催。あらためて美術館の基本理念に立ち返り、酒宴で用いられた調度、「ハレ」(=非日常)の場にふさわしい着物や装飾品、豪華な化粧道具などから、異国趣味の意匠を施した品々まで、生活を彩ってきた華やかな優品を厳選。山本さんをはじめ古美術に造形の深い現代作家とサントリー美術館のコレクションをクロスさせた特別展示が行われている。2020年9月13日(日)まで開催予定。
展示風景 国宝 浮線綾螺鈿蒔絵手箱 サントリー美術館

サントリー美術館

サントリー美術館

1961年にオープンし、2007年より東京ミッドタウンへ移転。「生活の中の美」を基本理念とし、日本の古美術をはじめ約3,000件の品々を収蔵する。移転後、美術館の設計を手がけたのは建築家・隈研吾。「都市の居間」をテーマに特徴的な縦の格子状のデザインやウイスキーの樽材を再利用した床などで構成されている。2020年7月にリニューアルオープンし、展示機能の強化や隈研吾監修によるエントランスなどの全面リニューアルが行われた。
写真:© 田山達之

歴史や時間を重層的に見る視点、文化の多様性を受け入れる視点。

 日常生活の景色というのは、私自身、コロナ禍でより見えてきた気がするんです。緊急事態宣言と桜の満開時期が、ちょうど被っていて。ふらりと出た散歩の最中に、人間の生活は変われど、花が満開になって散り、葉っぱになるという自然現象は変わらず営みが行われているということを実感しました。自然だけでなく、信号はけなげに点滅し、道路交通標識は当たり前にそこに存在している。"変わるもの"と"変わらないもの"が、いっそう明確に見えた気がしました。

 そうやって、目にして感じたことはあるものの、普段、自分がどんな視点で物事を見ているかは、正直わからないんです。もっと言えば、特別、他の方と違った視点を持っている自覚もなく(笑)......。ひとつ言えるとするなら、昔から受け継がれてきた日本の伝統――先の文脈で言うと"変わらないもの"と"時代とともに洗練されてきたもの""時代とともに変わる現代の風物"といった、歴史や時間を重層的に見ていく視点、文化の多様性を受け入れる視点はあるのかなと思っています。

 特に私が住んでいる京都は、わかりやすくそういった景色が街中にあふれていて、実はどこでも発見できるものなんですよね。歴史ある寺社仏閣は修理などを経て変わっていく部分もあるけれど、雰囲気はそのまま。歴史や伝統の重みを感じる場所でありながら、一方で私たちの生活はコンビニに寄ったり、ファーストフードを食べたりという中で成り立っている。その両方が組み合わさっているのが面白くて、それが自分たちの生活なんじゃないかなとも感じるんです。私の作品の中には、松の木と信号、桜とアメリカ国旗と言った異質の組み合わせが描かれているものが多くて、時にご年配の方が「松の木と信号が並んでいるなんて!」とおっしゃることもあるのですが、実はどこにでもある風景なんです。何となくよくない風景のように感じるけれど、描き方によって美しくもなる。そういった目線で見ると、日常の何気ない風景が面白く見えてくるんじゃないかと思うんです。

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美術館の中から、外の日常の世界へ。地続きのアート。

 個人的に、コロナ禍でもうひとつ発見したことがあるんです。自粛期間中、舞台芸術の方々は公演がまったくなく、必然的に無収入になっていた。そんな中、京都の茂山千五郎家の狂言師たちが、3月の頭くらいから「YouTubeで逢いましょう!」という動画配信を始めたんです。SNSで「仕事ないからやりま~す」くらいのテンションで、しかも無料で。また、その番組がすごくはっちゃけているんです。最初は練習用の舞台に集まって配信していたのですが、外出自粛でなかなか全員が集まることができず、途中からZoomで参加する人も出てきて。それならと舞台に来られる人は"体だけ"で芝居を、Zoomで参加する自宅待機組は"声だけ"を担当して"アテレコ狂言"を始めたんです。同世代が何人かいて以前からおつき合いがあるのですが、千五郎家の人たちって、いい意味でふざけた人たちなんです(笑)。伝統芸能なので本来は型が決まっているはずなのに、声を担当する人たちが型とは全然違うことをどんどんアドリブで入れ始めて、動く人をすごく困らせるっていう。まさに、この環境でしかできない展開でとても面白く感じました。

 さらに、観客の皆さんも、チャットで盛り上がれることが新鮮で。舞台で狂言を見るとなれば、見慣れていないお客さんは「今のセリフ、わからなかった」と疑問が出ても、そのまま見続けるしかない。でも、YouTube狂言では「今の、どういう意味ですか?」と書き込むと、よく知っている人が答えてくれるんです。しまいには、演目に出ていない狂言師が答えたり、狂言師仲間が「今、(演じている人が)間違えました」とツッコミを書き込んだりして(笑)。やる側にとってはもちろん、見る側にも新しい伝統芸能の楽しみ方が生まれていたんですよね。

 私もゲスト出演させてもらったのですが、話の流れで「『YouTubeで逢いましょう!』のTシャツつくってよ」っていうことになって。学生と一緒にデザインをして、販売することが決まったんです。私の中ではTシャツが視聴者の方に届いたら終わりではなく、皆さんがそれを着て出歩くところまでが重要。Tシャツのデザインではあるけれど、ある意味、一連の流れを含めアートだとも思ったんです。SNS、YouTubeというオンラインから始まったものが、最後は実際に着て街中に出ていくとオフラインで拡散される。その多重的な広がり方が、とても面白いなと感じました。そして、気づけば、一連の流れが結構大きなプロジェクトになっていたんです。自分が何か意図的に仕掛けたわけではなく、いろんなことが組み合わさり、目の前で起こることを面白がってどんどん転がしていった結果、今までにはない伝統芸能の形ができた。こういった思いもよらないアートの繋がり、広がりが今後も生まれるといいなと自分でも期待しています。

「YouTubeで逢いましょう!」Tシャツ

「YouTubeで逢いましょう!」Tシャツ

茂山千五郎家が狂言やトークを楽しんでもらえたらと始めた、動画配信「YouTubeで逢いましょう!」。茂山家とも交流のある山本さんが、京都芸術大学の学生たちとともに、番組オリジナルのTシャツをデザインするというコラボレーションが実現。茂山家が装束などで使用してきた「達磨と木兎」の紋様を現代的にアレンジした Tシャツが完成した。

 街にアートが出ていくというのは、私自身も大事にしているところ。映画を見終わって、外に出た時にちょっと目線が変わっていることってありませんか? 例えば......ブルース・リーの映画を見てきた男性が、すべからくブルース・リーになってしまうのもそう。『アナと雪の女王』が流行っていた頃に、隣のトイレから4歳くらいの女の子が女王になり切って歌いながら出てきたのを目撃したのですが(笑)、それも目線の変化のひとつと言えるかもしれません。同じように、サントリー美術館で《誰か袖屏風》を見て家に戻った時に、いつもは雑多で残念に思っていた自分の部屋が、実は素敵な空間だと感じるかもしれない。そうやって美しいと思っていなかった景色が、美しく見えたり、日常にある当たり前の風景に気づけたりというのも美術作品の面白さのひとつ。そういう意味では、以前にやった『日本°画屏風祭』のような街全体を巻き込んだ、回遊式の展覧会を東京のような都心でいつかやれたらおもしろいなと思います。

取材を終えて......
普段、多くの人が思いつきもしないであろう発想や、何げない風景を見逃さない力は、実はとても純粋で真っすぐな視点から生まれるのだと感じさせられました。そして、人とのつながりを大切にしながら、目の前にあることを面白がる山本さん。その思考から発せられるお話はユーモアにあふれ、笑いにあふれたインタビューとなりました。(text_akiko miyaura)

前編はこちら

山本太郎

山本太郎 / 美術家
山本太郎 / 美術家

京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)美術学科日本画コースで学ぶ。在学中に、伝統日本画の技法をベースにした古典絵画に、ユーモアやパロディを感じさせる現代的な要素を加えた「ニッポン画」を提唱。2013年より秋田公立美術大学の准教授を務め、2018年からは母校京都芸術大学で准教授を務める。日本での展覧会やプロジェクトなどの活動をはじめ、企業とのコラボレーションや海外での活動も行っている。2007年の『VOCA大賞』、2015年の『京都市芸術新人賞』など多くの受賞歴を持つ。

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