サントリー美術館では2021年2月28日(日)までサントリー美術館リニューアル・オープン記念展 Ⅲ「美を結ぶ。美をひらく。 美の交流が生んだ6つの物語」が開催されています。リニューアル記念展もいよいよ第3弾。今回は東京ミッドタウンに移転開館して以来掲げてきたミュージアムメッセージである「美を結ぶ。美をひらく。」をテーマに、珠玉のコレクションが公開されています。
今後、新型コロナウイルス感染症の影響で開館状況などが変更になる可能性も。予定していた通りに美術館に足を運べない方も、ぜひこの展覧会レポートで会場の雰囲気を味わっていただければ幸いです。
展示は6つに分かれており、Story 1は「ヨーロッパも魅了された古伊万里」。17世紀初頭にヨーロッパ諸国の王侯貴族らに喜ばれていた中国磁器が、17世紀半ばの中国での動乱によって輸出が激減。それをきっかけに古伊万里が本格的に輸出されるようになりました。
酒井田柿右衛門が開発した独特の乳白色素地に華やかな色絵を施した「柿右衛門様式」の伊万里焼には、輸出品ならではの鉢や皿、壺、花瓶、水注、水滴や人形といった様々な形のものがあります。古伊万里は数十年後にドイツのドレスデンで誕生するマイセン磁器にも、大きな影響を与えたそうです。
Story 2は「将軍家への献上で研ぎ澄まされた鍋島」。「鍋島焼」は伊万里焼と同じ佐賀藩で作られたものですが、古伊万里は海外にも広く輸出され、一方、鍋島は国を司る将軍家への献上品でした。献上品は毎年欠かさずまとまった数量を、高い品質を維持して納めなければならなかったため、鍋島焼は研ぎ澄まされた美しさに成長しました。
種類豊富な形を持っていた古伊万里とは対照的に、鍋島の多くは将軍の正式な食事に使われる漆器を模した4種類の大きさの円形皿と形が決まっていたため、豊富な絵柄と構図の良さで勝負。その制限が、さらに魅力的なデザインを生んだのです。
ここまでの焼き物の世界から一転してStory 3は「東アジア文化が溶け込んだ琉球の紅型」。紅型はビビッドな色彩と多様なモチーフを持つ、琉球を象徴する染織です。
型紙の一部はガラスケース内のガラス面に載せられており、下面にその影をくっきりと見ることができます。それは影絵か切り絵のような美しさで、鳳凰や牡丹、桜、扇など中国的な意匠と日本的な模様が組み合わさった、琉球らしい紅型ならではの模様となっています。
Story 4は「西洋への憧れが生んだ和ガラス」。16世紀中頃にポルトガルやスペインの宣教師たちが将軍らに献上した品々の中に、ヴェネチアなどのガラス器がありました。実用性と豊かな装飾性を兼ね備えたヨーロッパのガラス器への憧れから、続く江戸時代に「びいどろ」「ぎやまん」と呼ばれる和ガラスが生まれたのです。本展では櫛や簪、文房具など、和ガラスが日本人の生活の中に広がっていった様子を知ることができます。
Story 5は「東西文化が結びついた江戸・明治の浮世絵」。大衆文化を背景に生まれた浮世絵版画は、常に最新のモードを取り入れて江戸の「今」を描き、西洋絵画の遠近法・明暗法も取り入れた新たな表現を生み出しました。
幕末には開港した横浜の西洋風俗を描いた「横浜浮世絵」が、明治時代初期には文明開化で発展した東京を描いた「開化絵」が、さらに明治時代に西洋美術が本格的に伝わると、伝統と結びついた新しい表現の近代版画が登場しました。
最後のStory 6は、「異文化を独自の表現に昇華したガレ」。日本の美意識に共感し、新たなグラス・アートの扉を開いたフランスのガラス作家エミール・ガレの作品群です。ガレが19世紀、万国博覧会の時代に世界中の異文化を取り込んで、自分の表現に昇華させた変遷を辿ります。
新収蔵品である壺「風景」は、ガレのガラス作品の中でも日本美術とかかわりの深い作品と共に、特に森を思わせる演出の中で展示されていました。
多様で豊かな美の世界、そしてその歴史にどっぷりと浸ることのできる本展。いつにも増して圧巻の展示内容に、心が落ち着きながらも高揚するという不思議な満足感を味わえます。次はいつ展示されるかわからないコレクションの数々を、ぜひご堪能ください。
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編集部 月島
リニューアル・オープン記念展 Ⅲ 美を結ぶ。美をひらく。 美の交流が生んだ6つの物語
会場:サントリー美術館
会期:2020年12月16日(水)~2021年2月28日(日)
時間:10:00~18:00
※2月10日(水)、2月22日(月)は20:00まで開館
休館日:火曜日
※2月23日は18:00まで開館
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2020_3/
※最新情報はサントリー美術館公式ウェブサイトをご覧ください