現在、東京ミッドタウン・デザインハブでは、企画展「ハブとマングース」が開催されています。多様化が進む現代社会において、理想のクリエイティブスタイルとは一体何なのか。その可能性を、グラフィックデザイン、映像、音楽、エンジニアリング、アート、ファッションなど幅広い分野で活躍するクリエイティブチーム、TYMOTE(ティモテ)のクリエイションを中心に展示しています。
12月初旬に行われたオープニングレセプションでは、本展の企画・運営である武蔵野美術大学の学長・長澤忠徳さんが登壇し、「今回は、デザインの"仕方"を見せてくれる展覧会です」と展示の概要について一言。
また、「パンフレットには、自然言語リテラシーで理解できる言語が書かれていますが、展示の中には言語が一切ありません。ところが、作品から何か分かる、感じる部分があります。これはひょっとすると、感性言語のリテラシーを僕たちが持っているのではないでしょうか。そして、それを教えてくれるのが美術やデザインなのではないのでしょうか」と、我々が普段使う言語の領域を超えた、特別な展示が行われていることを語っていました。
学長のコメントの後には、TYMOTE代表の井口皓太さんをはじめ、飯高健人さん、石井伶さん、浅葉球さんが出展者挨拶に応じ、井口さんが「今回の展示のテーマはコラボレーションです。TYMOTEは結成10年目になりますが、最初で最後の気持ちで展示に挑みました。どうぞ、楽しんでいってください」と本展への意気込みを語りました。
本展では、"ハブ"と"マングース"の出会いから別れまでが、6つの章から成り立っています。来場者は、入口から少し歩いた先に置かれた大きなパンフレットを手に取り、それを地図のように眺めながら展示会を楽しむという趣向になっています。
この会場構成について、小松健太郎さんは「エリアが話の中で分かれていながら、ストーリー全体を追える構成になっているので、探検するように楽しんでいただければ」と本展の見方を教えてくれました。
入口を入ってすぐのChapter 1「Departure-旅立ち-」では、船の上ではためくマストを連想させるような旗が立っていました。たゆむことなくピンと張った旗からは、出発への強い意志や、風を切って進む覚悟を感じることができます。
Chapter 2「Solitude-孤独-」では、大海原へ飛び出したマングースが登場。全世界を手に入れる意気込みでいた彼女ですが、旅の中で自分がいかに小さな存在かを悟ります。それでも彼女は一人で進んでいくことを決め、オールを漕ぎ続けるのです。Chapter 2のモニターでは、まるでこちらに水しぶきがかかってきそうな、迫力のある映像が流れていました。
マングースがハブと出会うのは、Chapter 3「Encounter-出会い-」。向かい合った二人のグラフィックの間に置かれた黒い門の下に立つと、それぞれの相手に対する警戒心、それでいて密かに抱く興味や関心が伝わってくるようです。
二人の出会いの場となるのは、どこかの浜辺。このシチュエーションについて長澤学長は、「何か新しいものを作るには、ヒステリック(興奮)状態とトランキル(静寂)状態が必要なんです。それを発見することができるのは、浜辺。海水がヒステリックに打ち寄せて、トランキルに引いて行く、この2つの力があるからこそ波というカタストロフ、つまり(デザイン過程においての)クリエイションが起きるんです」と、浜辺が大きな変化を巻き起こす出会いにぴったりの場所であることを説明しました。
Chapter 4「Puzzled-困惑-」では、相手と関わり合う中で消えていく自分という枠組み、相手を介して見えてくる自分自身の姿に困惑する二人が、映像と鏡によって表現されています。このモニターは計4つあり、ハブの前にはマングース、マングースの前にはハブ、と2つずつが向かい合うように置かれています。ハブの鏡に映り込むマングースの一部や、その逆を見ていると、彼女たちの中の不思議な変化を感じることができます。
「Puzzled-困惑-」を経た彼女たちは、Chapter 5「Rebirth-新生-」を迎えます。共生による自己の喪失は、崩壊であると同時に新たな構築だったのです。相手を肯定することで、より自分自身が解放され、今まさに新しい創造性が生まれようとしている瞬間がグラフィックを通して描かれています。飛び散るような赤色はまるで血を、張り巡らされた幾何学模様は細胞を表現しているようです。
二人が最後に行き着いた先は、Chapter 6「Parting-別れ-」でした。まん中に置かれた大きなモニターでは、二人の歩く姿が交互に映し出されます。長澤学長はここに、世界中のデザイン・建築界に大きな影響を与えた1981年結成のデザイングループ、Manphisが発表したマニュフェストに近いものを感じたと語ります。「35年ほど前に出現したポスト・モダンに近い、さらに新しいポスト・ポスト・モダンのようなものが見え隠れしているように思いました」
時間軸さえも越え、お互いを取り込んだ彼女は、次はどこへ向けて「Departure-旅立ち-」の帆を立てるのでしょうか?
ここに使われている椅子は、今回のために家具工房ROOTS FACTORYの代表である阪井信明さんが手掛けたもの。カラフルでありながらも主張しすぎない色合いが、より一層ハブとマングースの存在を際立たせていました。この椅子に座って、絶えず映し出される二人をずっと眺める人も。
自分と他者の狭間で模索しながら前に進む、コラボレーションでのクリエイティブのプロセスを紐解いた本展ですが、そこには、他者と共生するすべての人に当てはまるものが多くありました。デザイン"ハブ" から着想を得た「ハブとマングース」で、自身の存在を改めて考えてみませんか?
編集部 髙橋
information
第70回企画展「ハブとマングース」
会場:東京ミッドタウン・デザインハブ
会期:2017年11月27日(月)~12月24日(日)
開館時間:11:00~19:00
休館日:会期中無休
入場料:無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://d-lounge.jp/2017/10/11271