PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07「六本木未来大学」第20回「原研哉さん、原研哉のクリエイティブディレクションって何ですか?」講義レポート【後編】

六本木未来大学第20回_原賢哉_main03

update_2019.1.16 / photo_masashi takahashi / text_azusa igeta

無印良品や蔦屋書店、GINZA SIXなど、有名企業や商業施設のビジュアルや広告、プロダクト、VIを手がける、原研哉さん。日本を代表するデザイナーのクリエイティブディレクションの背景には、「仮想と構想」がありました。2018年12月7日(金)に行われた、講義の様子をお届けします。

六本木未来大学第20回_sub

六本木未来大学第20回_11

ステレオタイプの「日本」からの脱却。

授業の後半では、原さんが総合プロデュースを行う「JAPAN HOUSE」と、羽田空港の国際線ターミナルのポップアップショップ「A Piece of Japan」のクリエイティブディレクションの背景が明かされました。

外務省が対外発信強化の一環として取り組んでいる「JAPAN HOUSE」。サンパウロ、ロサンゼルス、ロンドンに拠点を置き、日本の魅力の諸相を「世界を豊かにする日本」として発信していく活動です。「多様な才能を編集することも好きなので、プロデュース的な視点で仕事をすることが増えてきた」と話す原さんは、「JAPAN HOUSE」の総合プロデューサーを務めています。

「東京オリンピックの後だと、日本は"体力不足"になっているかもしれないので『自分のクリエイティブディレクションで貢献できることがあるのではないか』と思い、総合プロデューサーをお引き受けすることにしました。

まずは方向性がブレないようにするために、『10箇条の原則』をつくりました。大方針は、日本のことを考えたこともない世界の大半の人々に『日本をいかに知らなかったか』に目覚めてもらうことです。サブカルチャーからハイカルチャーまで、ハイテクから伝統文化まで、日本文化を偏りなく扱っていきます。

ステレオタイプを振りかざすのではなく、少し地味でもじっと耐えて、"わかる衝撃"、"日本を知る感動"まで引っ張ってくることです。高度成長期以降、非常にチープな日本文化紹介が海外に広まってしまった。ものづくりとエレクトロニクスの融合で成功を収めた大手企業が海外に進出するのに伴い、カラオケや寿司、法被を着て太鼓を叩く、鶴を折るといったステレオタイプなイメージが世界に広まりました。実際、日本人の中にも『赤い和傘の下で抹茶を供すことがおもてなし』だと考えてしまう人がいる。本来は、そういった"初見の驚き"ではなく、"わかる衝撃"へと導く仕組みを考えていくべきなのですが......。

日本人ですら、日本文化の一端に深く触れたとき『ああ、こういうことだったのか』と衝撃を受けることがあると思います。異国の人にも、同じように感じてもらわなくてはいけない。そんな想いで『JAPAN HOUSE』のクリエイティブディレクションを行なっています」

"なんちゃって"ではない文化を発信すれば、世界中が日本に目を向ける。

サンパウロ、ロサンゼルス、ロンドンにある「JAPAN HOUSE」の拠点では、日本の魅力を発信するさまざまな企画展が開催されています。

「厳正な選考を通過した展覧会を3展示分選定し、サンパウロ、ロサンゼルス、ロンドンの3拠点で巡回させていく、『巡回企画展』を毎年開催しています。日本の伝統技法、ロボティクス、あるいはトイレや盆栽などもおもしろいかもしれない。内容はできるだけ広げたい。3つの展覧会を3都市で巡回させていくと、日本からの脈動や血流のようなものが生まれます。もちろん、3都市独自の企画展も行い、他の施設に流用することもやる。そうすることで、3拠点にクリエイティブな連携が生まれます」

2017年、ロンドンとロサンゼルスに先駆けてオープンした「JAPAN HOUSE São Paulo」は、市民に親しまれるパウリスタ大通りに面した銀行のビルの中につくりました。地球の真裏にあたるこの場所には、隈研吾さんをはじめ、日本のさまざまな領域のクリエイターたちの仕事が織り込まれています。

「『JAPAN HOUSE São Paulo』は、隈研吾さんが手がけたヒノキによる『地獄組み』のファサードが特徴的。このファサードだけで期待感が高まります。中に入ると、和紙で覆われた金属メッシュの不思議なパーテーションが出現します。これは、和紙職人の小林康生さんが手がけたもの。オープニング企画となる『BAMBOO展』では、入り口に竹で囲まれた畳敷きのシアターをつくり、スタジオジブリの『かぐや姫』のトレーラー映像を寝転んで観るという趣向。1階は廣島一夫さんという、宮崎のすばらしい竹の民具の仕事をはじめとする日本文化の中の竹の広がりを転換するとともに、3階ギャラリーでは、竹工芸家の田辺竹雲斎さんをはじめとする竹工芸作家のオブジェクトを展示しました」

館内には日系シェフ坂本淳さんの日本料理店「坂本」や、日本のハイテク製品や工芸品の展示もあり、現在の日本の魅力をふんだんに体感できます。サンパウロのオープンプレイベントでは、フラワーアーティストの東信さんが企画し、自転車に花束を満艦飾のように積んだ30人の「フラワー・メッセンジャー」が市内の有名スポットに出現し、人びとに花を配りました。「日本にシンパシーを持った人が多い」というサンパウロでは、たちまち大人気のスポットになったと、原さんは当時を振り返ります。

六本木未来大学第20回_12

「オープン初日には、4,200名の方たちが来館してくださいました。さらに開館後初の週末には7,500名もの方が訪れ、まるでアップルの新製品発売日のような賑わいをみせていました。オープン翌日に開催したコンサートでは、坂本龍一さんと三宅純さん、そしてブラジルを代表する音楽家・モレレンバウム夫妻による演奏を、15,000人ものお客さんに楽しんでいただけました。決して日系二世三世がたくさん来てくれたというわけではなく、日本文化に興味を持ったブラジルの方たちが押し寄せてくれたんです。

今後は物販の企画と開発も行う予定です。弁当、扇風機、ロボットアームなど、ハイテクなものもそうでないものも、すべてひとつの"日本の魅力"として伝わるように、"なんちゃって"の方向に曲がらないように目を配っていこうと考えています」

サンパウロに続いてオープンした「JAPAN HOUSE Los Angeles」、「JAPAN HOUSE London」も同様に「日本の魅力」の発信基地となっています。

六本木未来大学第20回_13

今年8月にグランドオープンした『JAPAN HOUSE London』は、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館やデザイン・ミュージアムがあり、落ち着いた雰囲気で文化的な人が集うケンジントンスハイトリートにあります。ガラス張りの売り場の内装は、片山正道さんによるもの。妥協のない「日本製」をセレクトして販売しています。初めて売り場を見たときに「こんなお店は日本でも見たことがない」と興奮したのだと話します。

「日本には日本の製品をキュラトリアルな視点で揃えて売る店はありません。工芸品を扱う小さなギャラリーは別ですが。百貨店などは売れ筋の商品がおのずと並ぶせいか、引き締まらない売り場になります。しかし、ロンドンでは徹底してセレクトしたものを並べようとしているので、『ああ、これは理解してもらえるかも』と手応えを感じています。

"なんちゃって"ではない日本を、海外に向けてきちんとプレゼンテーションしたときに日本のことをよく知らない海外の人たちがどのぐらい反応してくれるのか...... 『JAPAN HOUSE』は、自分にとって試験石でしたが、関係省庁が措定した予想値の7〜8倍の人に訪れていただけました。オーセンティックなもの、つまり "本物"を発信すれば、海外の人たちが日本の魅力に目覚ましく反応してくれることが確認できました」

【クリエイティブディレクションのルール#8】
一流のクリエイターと協業し、本物を発信する

空港だからこそ実現できる、"ローテクに見えて、ハイテクな売り方"

羽田空港の国際線ターミナルには、原さんがクリエイティブディレクションを行なったポップアップショップ「A Piece of Japan」が、2018年12月に誕生。原さんはこのプロジェクトを通し、日本が抱える課題に対する解決のヒントを得たと言います。

六本木未来大学第20回_14

「国際線の出国審査ゲートを出てすぐのところに、日本中から厳選された伝統工芸品を販売するショップをつくりました。羽田空港が日本から選りすぐった良質な工芸品を、効率良く買うことができます。第1弾として販売したのは、唐津焼と越前の漆、常滑の急須です」

格子状のユニット棚に商品をセットで陳列することで、購入できる商品が明快に示されています。手づくりの一品ものですから、個別の差異はもたせつつ、お客が何を買うか迷わないように工夫されていて、棚に設置されたモニターには、制作過程を映したムービーが流れています。また、ここで買い物をする場合、必ず航空チケットを見せる必要があります。

「航空チケットを見ることで、『シカゴ便の人が常滑の急須をいくつ買ったか』『タイのバンコク行きの便に乗る人には何が売れたか』といったデータが取得可能です。『何がどんな人に何個売れたのか』がわかるので、動的に展開できるキャスター付きのワゴンは、配置を変えたり、売れない商品を下げたりと戦略的に売り場をつくることができます」

「A Piece of Japan」はパイロットケースですが、「ローテクに見えて、ハイテクな」新しい売り方なのです。

「国際空港こそ日本のショーケースになるかもしれません。一般的に空港で販売されているものと聞いてイメージされるのは、タバコ、酒、化粧品とブランド品ですが、『A Piece of Japan』で販売している伝統工芸品は予想通りに売れていて、つくり手が限定される高品質の製品は供給が追いつかないほど。このプロジェクトを通して『伝統工芸の衰退』や『地方創生』といった課題への対応策が少しだけ見えてきた気がします」

【クリエイティブディレクションのルール#9】
「本物」を、戦略的に訴求する