PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07「六本木未来大学」第20回「原研哉さん、原研哉のクリエイティブディレクションって何ですか?」講義レポート【前編】

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update_2019.1.16 / photo_masashi takahashi / text_azusa igeta

無印良品や蔦屋書店、GINZA SIXなど、有名企業や商業施設のビジュアルや広告、プロダクト、VIを手がける、原研哉さん。日本を代表するデザイナーのクリエイティブディレクションの背景には、「仮想と構想」がありました。2018年12月7日(金)に行われた、講義の様子をお届けします。

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躍動するエネルギーを、あえて静止画に閉じ込める。

「今日の講義のお題は、『原研哉のクリエイティブディレクションって何ですか』。実は、普段あまり考えたことがないテーマです。今日はさまざまな事例のお話をしながら、みなさんと一緒に自分のクリエイティブディレクションの方向性を探ってみたいと思います」

日本を代表するデザイナーを熱い眼差しで見つめる来場者を前に、穏やかな口調で話し始めた原さん。講義は、原さんがこれまで手がけた仕事を振り返りながら、進んでいきました。

プロダクトデザインから展覧会のディレクションまで、多岐にわたる領域で活躍されている原さんですが、原点はグラフィックデザイナーです。グラフィックデザインとは、平面上に表示される文字や画像などを使用して、情報やメッセージを伝達する手段として制作されたデザインのこと。 原さんは、昨年手がけたあるポスターをスライドに映しながら、そのおもしろさを説明してくれました。

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「これは、昨年手がけた『ヒロシマ・アピールズ』のポスターです。『ヒロシマ・アピールズ』とは、日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)とヒロシマ平和創造基金、広島国際文化財団が行っている活動で、核兵器廃絶や平和の尊さを訴えるもの。ここに描かれているのは、キノコ雲を真下から見上げた様子です。『頭上で核兵器が炸裂した』という戦慄すべき事実に意識の照準を合わせることが、平和への祈りに通じると思い、リアルなタッチで表現しました。グラフィックデザインとは、静止したビジュアルとしてモノの本質やメッセージを凝縮していく仕事です。動く現実を静止させることに多大なエネルギーを使う。そこがグラフィックデザインのおもしろいところです」

次に映し出されたのは、グラフィックデザイナーとして手がけた「NOH」のポスター。

「UCLAと早稲田大学による日本の伝統芸能紹介プロジェクトが36年ぶりに開催されました。前回同様12名のグラフィックデザイナーが指名を受け、狂言、能、三味線、日本舞踊などをテーマにポスターを競作しました」

原さんは「能」を担当。イメージが能面の上にかたちをなしはじめる様相を表現しています。

【クリエイティブディレクションのルール#1】
動く現実を静止させる

"共通の記憶"を背景につくられた、長野オリンピックのプログラム。

続いてスクリーンに映し出されたのは、1998年に開催された長野オリンピックの開会式と閉会式のプログラム。原さんが使用したのは、雪を彷彿させる白いふっくらした紙。そこに凹型に押された半透明の文字は「雪を踏んだ時の足跡」をイメージしたものだそう。これは、「みんなが持っている共通の記憶」を意識して生まれたデザインです。

「プログラムが本来果たす役割は、会の進行をわかりやすく伝えること。しかし僕は、"冬季五輪の記憶を持ち帰るメディア"と考えて、アートディレクションを行いました。冬季五輪は『雪と氷の祭典』ですから、それを紙に落とし込んだ。雪を踏んだときの記憶は誰にでもあるはずです。選手入場のページは、"瑞雲に乗った五色の神々"、聖火点火のページは"火の玉"を、イラストレーターの谷口弘樹さんに描いてもらい、現場の高揚感を表現しています」

【クリエイティブディレクションのルール#2】
「空っぽ」を運用し、多様なイメージを受け入れる

"原研哉の「記念碑」となった、"洗濯できる"サインとは?

日本を代表するデザイナーとして、業界の先を走り続ける原さんですが、デザインの着眼点を意識した仕事は、今から25年前に手がけた、山口県の光市にある産婦人科「梅田病院」のサイン計画だったそうです。

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「考えてみると、病院の空間の最大の価値は、清潔さであると気づいたんです。そこで、『洗濯できるサイン』をコンセプトに、白い布を用いました。カバーを取り替えるような着脱式なので、いつでも洗濯ができる。だから常に清潔な状態を保てる。布のサインですから、ふわっとした感じや皺の出方に気を遣っています。先日、10数年ぶりに布をすべて新しくしたので、制作から25年経った今でも新品です。サインデザインの意味を誘導に限定しない、二次的な性質に、プロジェクトの本質を見つけたのは、このときが初めてです。まさに、自分の"記念碑"と言える仕事ですね」

原さんが多く手がけているのが、企業が伝えたいイメージを効果的に表現することが求められる、「VI(ビジュアル・アイデンティティ)」の考案です。これまで数々の企業の思想が伝わってくる、ロゴやシンボルマークを手がけてきました。

六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズなど、東京都港区を拠点に数々の商業施設を運営する森ビル株式会社のVIも、原さんによるものです。

  

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「VIとは、その企業や組織が目指すものを端的に表現することです。森ビルのVIを手がけたのは、六本木ヒルズができる前で、愛宕グリーンヒルズができた頃のことです。当時の森稔社長が理想としていたのは、コルビジェの『輝く都市』に着想を得た『立体緑園都市』だと聞いて、仰ぎ見る「高層都市群」を森ビルの頭文字『M』で表現しました。それまでの「51森ビル」みたいな表現からの離陸です。このマークは、森ビルの運営するすべてのビルについているので、東京の街では見る機会が多いと思います」

同じ言葉でも、フォントを変えるだけで受け手のイメージは大きく変わります。原さんは「企業の顔つき」を表現するために、数々のロゴタイプを生み出してきました。100年以上の歴史を持つ、老舗出版社の講談社のロゴ制作も、そのひとつ。

「海外とコンテンツビジネスを行う"講談社の顔つき"を、ロゴタイプで表現しました。和文、英文どちらも手がけたのですが、意識したのは大衆性とは真逆の真摯な企業姿勢。海外との契約・折衝業務をサポートするロゴです」

【クリエイティブディレクションのルール#3】
本質を見極め、可視化する

こだわりの建築物の中には、ひたすらわかりやすい"サインを取り入れる。

図書館や美術館など、公共空間の演出を手がけることも多い原さん。建築からインスパイアされて、アイデアが生まれることも多いのだとか。

岐阜の複合施設「みんなの森 岐阜メディアコスモス」内にある、岐阜市立図書館のサイン計画を行なった際には、建築家の伊東豊雄さんが設計した"不思議な建築"から、インスピレーションを得たと話します。

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「伊東さんが設計したのは、幻想的で不思議な空間。2階の図書館は広大な空間だったので、まずは来場者に全体を把握してもらう必要がある。そこで"わかりやすい"サインを建築に取り入れていただいたのです。具体的には天井からぶら下がっているグローブと呼ばれる巨大な傘に不織布を用いたグラフィックパターンを張り込みました。『児童書』や『純文学』など、テーマ別に異なるグラフィックパターンが展開されています。これがあれば、文字が読めない子どもでも、どこに何があるのかの目印ができて空間はわかりやすくなる。

こんなふうに、建築からインスパイアされることが多くあります。アイデアが建築にぴたりとフィットするとすごく気持ちがいい。隈研吾さんと仕事をしたときには、三次元の矢印をつくりました。トイレを示す矢印が壁に突き刺さっているんです。ストレートに方向を示しているのですごくわかりやすい。サインというのは、ひたすらわかりやすくないといけません。居丈高に『こっち、あっち』とするのではなく『こちらですよ』といったニュアンスを込めてつくらなければいけません。ホッとする雰囲気が大事なんですね」

【クリエイティブディレクションのルール#4】
わかりやすさが美しい

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