「本物のクリエイティブディレクターを養成する学校」というコンセプトを掲げ、2015年からさまざまなクリエイターを講師として招き、彼らの思考を学ぶための講座を開いてきた六本木未来大学。今年から始まる「アフタークラス」では、対話を通して学んだことを考え、実践につなげる場をつくっていきます。講師でありファシリテーターを務める横石崇さんに、アフタークラスで目指すこと、そして「これからの学び方」について聞きました。
様々な領域のクリエイターを講師に招き、彼らの思考から「クリエイティブディレクション」のヒントを学ぶ六本木未来大学では、今年立ち上がったばかりの「東京ミッドタウン・デザイン部」とのコラボレーション企画として、「アフタークラス」と呼ばれる新しい授業を開講します。六本木未来大学で行われる講義に対して、アフタークラスでは、講義で学んだことについてさらに考え、対話し、実践していくための場をつくっていきます。
アフタークラスの講師は、株式会社&Co.代表、そして2012年から毎年秋に開催されている働き方の祭典「TOKYO WORK DESIGN WEEK」(TWDW)オーガナイザーの横石崇さんが務めます。「働く」だけでなく「学ぶ」というテーマでも長らく活動を続けてきた横石さん。アフタークラスでどのような「学びの場」をつくっていくことを目指していくのでしょうか。
東京ミッドタウン・デザイン部
はじめに横石さんにアフタークラスの講師を引き受けていただいた理由を伺うと、なによりも「クリエイティブディレクターには学ぶべきことがたくさんある」という六本木未来大学のコンセプトに共感したと話してくれました。
「もともとぼくは、30代半ばまでクリエイティブエージェンシーで働いていました。そのときに日本を代表するようなクリエイティブディレクターの方々から学んだことが今の自身をつくっています。『クリエイティブディレクターを養成する学校』を目指して活動をされている六本木未来大学のビジョンに、自分自身のキャリアをつくってきた考え方に重なるものを感じました」
TOKYO WORK DESIGN WEEK
TWDWのほかにも、「WIRED日本版」のコミュニティ・コントリビューションや旅する勉強会「ラーニングキャラバン」、デザインとプログラミングのスキルを備えたクリエイターを育てる「BAPA」、ミレニアル世代のためのリーダーシップを学ぶプログラム「Next Leaders Boot-camp」をはじめ、年間150、累計500を超える「未来をつくるための対話の場」を手がけてる横石さん。かつて自身も住んでいたことのあるというここ六本木で、新たに「未来の大学」をつくっていくチャレンジをしていきたいと続けます。
「ぼくが住んでいたのはちょうど10数年前、六本木ヒルズも東京ミッドタウンもまだなかったころからです。何もなかったエリアに情報が集まって、おもしろい人が集まって、いまの六本木という街がつくられていく様子を住人としてリアルタイムで見ていました。あのときから10年経った六本木で、新しいチャンレンジを始められるというのはわくわくすることです」
では、アフタークラスでは具体的にはどんなことをやっていくのでしょうか? 横石さんは「交流と発散」というキーワードを挙げて説明します。
「どんな学びのプログラムにも、『理論』と『実践』があると思います。いままで六本木未来大学の講義が『理論』の部分に力を入れていたなかで、欠けているものは『実践』に相当する部分。ただ、実践というのはなかなかハードルが高く、いきなりそこに踏み出すのは難しいですよね。ぼくはそこの間に『交流と発散』ができる場所があるといいのではないかと考えています。つまり理論と実践でもない中間領域、『3番目の学びの場』とも呼ぶべき場所として、このアフタークラスが機能するとおもしろいんじゃないかと。
六本木未来大学では講義が終わるとすぐに帰ってしまう人も多いと聞きますが、参加している人のなかには、自分の考えを話してみたい、あるいは同じような悩みや課題を感じている人たちと出会って、アイデアを共有したり交換したりしたいと思っている人も少なからずいるのではないでしょうか。アフタークラスでは、クリエイティブディレクターである講師から聞いた話を受けて、『自分たちならどう考えるか?』ということを話せる場をつくることが大事だと思っています。教えてくれた講師が不在になるということもあり、賛成や反対もあったりして、放課後のように、みんなでわいわいと肩肘張らず伸び伸びやれるといいですね(笑)」
アフタークラスには、好奇心旺盛な人や何かにチャンレンジしている人、さらに言えば、課題を前にして「悩める人」にこそ参加してほしいと横石さんは言います。とはいえ、アフタークラスはその「答え」を見つける場所ではありません。
「そもそもワークショップで何か答えを見つけたり、自分を変えたりすることを期待するのはナンセンスだとぼくは思っているんです。人は本業で働く時間が5割だとすれば、残りの5割を自ら学んだり、遊んだりする時間にあてられますよね。つまり自分を変えるためには、ワークショップに参加している"残り時間"だけではなく、トータルで自分を磨くということをしなければいけない。そういう意味では、ワークショップとは本業の仕事と補い合う関係にあるべきものだと思います。
アフタークラスは、講義から生まれたある問いがあって、たとえば30人が参加したらそこから30の新しい問いが生まれていく場所です。決して、問題の解決をするだけの場にはしたくない。参加したみんながまたそれを持ち帰って、その問いが自身の仕事や生活で新たな気づきとなって広がっていく。だからアフタークラスは答えを見つける場所じゃなく、問いが問いを生んで、それがやがて社会を変えていく──そのためのきっかけになればいいと思っています」
そうした問いを広げていくためにも、アフタークラスでは「対話」を中心とした場作りを目指していきます。
「1回話を聞いて、それを自分の血肉にするというのは簡単ではありません。そのためにはただ話を聞くだけではなく、内容を咀嚼して理解をする、つまり自分で『編集』をしていく必要があります。ただ、その編集を1人でするのは難しい。だからこそ、自分の考えを整理したり、1人では得られなかった気づきを得るために人と話すことが大事なんだと思います。なにげない会話から『自分はこんなことを考えているんだ』『あのときの話はこういうことだったかも』と気づくことがありますよね。そうやって対話を中心に、それはおしゃべりと言ってもいいかもしれませんが、いろんな人が問いを『自分ごと』にできるような場を作っていきたいと思っています」