PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07 「六本木未来大学」第10回 「齋藤精一さん、プロジェクトを成功させるディレクションって何ですか?」講義レポート【前編】

update_2017.3.1 / photo_ tsukao / text & edit_yosuke iizuka

六本木未来大学の第10回講師は、ライゾマティクスの代表を務める齋藤精一さん。現在10年目、インタラクティブな広告プロジェクトや先鋭的なメディアアート作品で注目されるクリエイター集団・ライゾマティクスが手がけてきたさまざまなプロジェクトは、どのような考え方でつくられてきたものなのでしょうか? 2017年1月31日(火)に行われた講義の様子をお届けします。

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最初に自分たちが道具をつくり、次に道具が自分たちをつくる。

「ライゾマティクスの強みのひとつは、前例がないものをつくるということです。言うのは簡単なんですけれど、これが非常に難しい。『前例がないものをつくってください』と言われて提案しても『参考事例はありますか?』と言われたりして、それを今つくっているんだよって話をするんですけれど(笑)」

これまでさまざまなプロジェクトに取り組んできた齋藤さんが、最近考えているのが「クリエイティブは追うものなのか、追うものをつくるものなのか」ということ。道具論的には、最初に自分たちが道具をつくり、次に道具が自分たちをつくるという構造がある、と齋藤さんは言います。

「個人的に21世紀で一番すばらしい"道具"は、スマートフォンのように集積回路が小さくなったことと、人工衛星によって位置情報がとれるようになったということ。僕らはそういった技術を加味しながらものをつくっています。たとえば家をつくるとき、既存のカタログから選ぶのか、それとも何もないところから選ぶのか......。僕らがいい提案をするのは当たり前のことだとして、その上で僕がよくやっているのは、クライアントの担当者を、決裁や予算取りができる"経営者"的に動けるようにするということ。担当者に武器を持たせて『僕が言うんだからやりましょう』というくらいの人になってもらうんです。前例がないものをつくるときのクリエイティブディレクションでは、いかにいいチームをつくるかということがすごく大切です」

【クリエイティブディレクションのルール#1】
クライアントに「武器」をもたせる

アートとコマーシャルを融合し、下流から上流へ。

では、これまでライゾマティクスは前例のないプロジェクトをどのようにして生み出してきたのでしょうか。その基本的な考え方は「下流から上流へ移行する」というもので、きっかけは、当初、バナーの制作やインサイトの構築を手がけていたライゾマティクスに、ある商品のキャンペーンサイト制作の依頼がきたことでした。

「僕は『この商品は売れないので、そもそもプロモーションをする必要がない』と言ったんです。もっと、商品をイチからつくっていくことを一緒にしたほうがいいんじゃないかと。商品を開発するとき、企業はR&Dを行って、どういうマーケットでどういう商品が売れそうだということがわかるんですが、最終的に商品化されたときには、R&Dチームは、いつ、どんな商品名で、どんな価格で、どういうキャッチコピーで売られているのかも知らないということがよくある。でも、最終的に広告をつくるのであれば、商品開発のところまで携われればコミュニケーションが、商品の強みがしっかりしてくるような気がしたんですよね」

そもそも、齋藤さんがライゾマティクスを設立したのは、「アート」と「コマーシャル」の両方を融合させるため。齋藤さん自身は東京理科大学とコロンビア大学の建築学科出身、ニューヨークの建築事務所から広告代理店に移り、その後ずっとやりたかったというアート業界へ。そこでアートだけでは成り立たないことを痛感したのだそうです。

「アーティストも食べていかなければいけないので、お金を稼ぐための活動もします。でも、僕も含めて、アーティストって、そういう仕事ではあまり名前を出したがらないんですよ。最初に、真鍋(大度)と千葉(秀憲)と話したのが、アートをどうビジネスにするのかということ。ライゾマティクスはアートのような聖域の仕事とコマーシャルというか消費と結びついた活動の両方を含んだ会社にしよう、作品もつくるし、それをコマーシャライズしてお金を稼ぐというような会社をつくろうと思ったんです」

「これがウチの会社なんですけれど、ごちゃごちゃです(笑)。ケーブルがいっぱいありますけれど、デバイスチームがセンサーやモーターなどいろんなものをつくっている一方で、プロジェクトマネジメントをやる人もいる。基本的には、『アート』として僕らがやりたい方向をつくり、『コマーシャル』として代理店やプロダクションと一緒に形にしていく。たとえばアートは問題提起をする側なら、コマーシャルは問題解決をするというように、それぞれ持っている概念が違うんです」

特に齋藤さんが重要だと思っているのが、一般的な企業でいう「R&D」の分野。研究開発のチームがいろんなセンサーやデバイスをつくり、それをコマーシャルではどう使ってマネタイズをしていくかを考える。アートの新しいアイデアをコマーシャライズして資金を生み出し、それを元にまた新しいものをつくっていくというサイクルを重ねて、ライゾマティクスは成長してきました。また、エンターテインメントに特化しつつ、アカデミックな側面にも比較的精通していることも特徴のひとつなのだそうです。

前例のないものを生み出す、「ハック」という考え方。

アートとコマーシャル、アカデミックとエンターテインメント。一見、相反する2つを融合することで、前例のないプロジェクトを生み出してきたライゾマティクス。その根底にある考え方は、「ハック」だと齋藤さんは言います。

「ハックって、もう半分死語みたいになっていますけれど、僕はすごく好きな言葉。要は『疑ってみる』ということですね。たとえば、ペンはどうしてこういう形なんだろうとか、今、どうして僕がみなさんの前で話をしているのかとか、全部疑ってかかるということをライゾマティクスではやっている。この視点は何にでも使えます。『下流から上流へ移行』ということでも、ウチの会社って何なんだろうと疑いながら次の方向に向かってきたわけです。広告だけじゃなくて商品開発をやりたいとか、R&Dだけではなくて本当の商品をやりたいとか。要は、疑ってかかるという"自主トレ"をずっと続けてきました。そこから生み出したものをエンターテインメントとして楽しんでもらい、少しでも何かを持って帰ることができるようなプロジェクトをつくろうと、いつも思っています」

【クリエイティブディレクションのルール#2】
あらゆることを疑ってみる