クリエイター集団・ライゾマティクスによる六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#06「Skate Drawing」が、2015年2月11日(水・祝)から14日(土)にかけて東京ミッドタウンで行われました。「MEDIA AMBITION TOKYO 2015」のプログラムのひとつでもあるこちらの作品の、設営から本番までの舞台裏をレポートします。まずは作品のデモ映像と、開催当日の様子からどうぞ。
レポート前編でもお伝えしたとおり、「Skate Drawing」は、屋外スケートリンク「ダイナースクラブ アイスリンク in 東京ミッドタウン」で行われた体験型のメディアアート。マーカーを身につけて滑走するスケーターの位置をモーションキャプチャシステムでトラッキングし、その軌跡を映像に変換して特設スクリーンに映し出す作品です。こちらは、同時参加最大人数の10人で行ったデモンストレーションの映像です(再生ボタンを押すと映像を見ることができます)。
こちらは「Skate Drawing」開催期間中の様子。今回のプロジェクトを目当てに訪れた人はもちろん、「MEDIA AMBITION TOKYO 2015」を観に来た人、アイスリンクに来て初めて「Skate Drawing」を知った人も含め、4日間の開催期間中、約500名もの人がこの体験型アートに参加しました。
別室にはライゾマティクスのソフトウェアチームの姿が。映像・システムのプログラミングを担当した登本さん(右)と清水さん(左)にお話をうかがいました。
「開催本番を迎えてからも、実はシーンの切り換えの細かい調整など、常にアップデートを繰り返しています。当初はレコードした軌跡を滑ったあとに見てもらう予定でしたが、急きょ、滑っている瞬間の軌跡をリアルタイムで表示できるようにしました。バレンタインデーということで、ちょっとキラキラした感じのビジュアルを意識して。映像を観て、みなさんのテンションが上がったらうれしいですね」
「これはやってみてわかったことですが、滑っている人の姿は映らないのに、滑る軌跡にその人の個性がちゃんと出るんです。スクリーンに映し出された映像を見ると『これは自分の軌跡だ』とわかるはずなので、その楽しさを感じてもらいたいですね。実際に僕もやってみましたが、スケート自体が初めてで壁から離れられず、ほとんど動けませんでしたけど(笑)」
「以前手がけたNHK杯のプロジェクト(レポート前編参照)は、プロスケーターがリンクを滑走する姿を、客席からお客さんが見るというものでした。今回は、背格好もスケートの技術も、一緒に滑る人数も違う、不特定多数の人たちが自由に滑走する形。実際、やってみないとどうなるかわからない部分もあったんです。でも、アイスホッケーの審判をやっている方など、スケートの上手な人が先導して周囲を巻き込んでくれたり、複数のマーカーを身につけて滑ったり、お客さんのほうが積極的に楽しみ方を探してくれました。中には自作の光るスケート靴まで持ち込む、気合いの入ったお客さんもいたんですよ」
実際に、参加したみなさんの楽しみ方はさまざま。プロ並みのテクニックで美しい軌跡を描く上級者に、一生懸命ハート形を描こうとするカップル、滑っては映像を眺めて笑い合う人たち......。写真のように、たくさんの参加者が手をつないでリンクの中央で回るという大技も飛び出しました。
そのとき生まれた映像は、弧を描くラインに光り輝くエフェクトが加わり、まるで光がモニター上で渦巻いているかのよう。さらにランダムにグラフィックが変化したり、実写映像と同調したり......。この映像を生み出した参加者のひとりは、こんなコメントを残してくれました。
「子どもたちにも声をかけて、みんなで腕を組みながら滑って"風車"をつくってみました。アイススケート自体の楽しみ方が広がって、もっといろいろな技ができそうです。ぜひ継続してほしいですね!」
他にも「2人で滑った軌跡の映像をカメラで撮れて、いい記念になりました」「スケートが上手な人が華麗に滑ると、その軌跡もすごく美しかった」など、参加した人たちは作品を存分に楽しんだよう。中にはお子さんからの「鬼ごっこをしたのが映像になってて楽しかった!」というかわいらしい感想も。
参加者が思い思いの軌跡を描き出した「Skate Drawing」。六本木未来会議編集部では、開催に至るまでの間も、ライゾマティクスのみなさんに随時取材を重ねてきました。せっかくなので、ここからは当日までの設営の様子など、裏話を中心にレポートします。
開催日からさかのぼること、およそ2週間前。作品の舞台となる「ダイナースクラブ アイスリンク in 東京ミッドタウン」に、ライゾマティクスの面々が集まりました。その目的は、ハイスピードカメラやマーカーといった、スケーターの軌跡をとらえるための機材をテストするため。時間はアイスリンクの営業が終了した22時。深夜の冷え込みの中、全員が防寒着を身につけて作業が始まりました。
検証したのは、LEDで発光するマーカー(写真)を使用するプランと、赤外線を反射するマーカーを使用するプランの2つ。アイスリンク自体が光を反射するため、どちらの方法が適しているか未知数だったそう。そして広い屋外での位置解析の精度を含めた検証の結果、今回は赤外線を使用するプランでいくことに。マーカーをテストする間に映像プログラムの準備も進みました。
そして開催日直前の深夜、今回のプロジェクトで使用する機材が大量に持ち込まれ、いよいよ本番に向けた設営がスタートしました。ケースに収められたハイスピードカメラが今回の主役。マーカーに反射した赤外線を認識することで、その位置をとらえることができるというものです。
主にハードウェアのセッティングを担当する石橋さんは、リンクの端から端まで動き回り、カメラを調整してはパソコンでチェックするなど、一晩中大忙し。
「テストのときよりもカメラの台数を増やして、トラッキングの精度をさらに高めています。今回はリアルタイムで人の動きが映像に反映されるわけではなくて、滑り終わった人が映像を観られるように、レコーディングしたデータをプレイバックする仕組み。自分が今どんな軌跡を描いているのかを想像して滑ってもらうんです。技術だけを見れば最新というわけではありませんが、きっとこれまでにない体験になると思います」
スケート場内の別室では、ソフトウェアを担当するチームが作業中。ここでカメラでとらえた軌跡を解析して、ビジュアル化していきます。カメラとの連動、プロジェクターの位置、ビジュアルを動かすプログラムの動作チェックなど、こちらも大忙し。千葉さん(写真左)がその様子を見守ります。
「プロジェクトに関わっているのは8名。いつものメンバーなので、安心して任せています。システムもバッチリ、映像も真鍋(大度)からゴーサインが出ました。ただ、精密な機材にとっては屋外という条件が厳しくて、当日の天候だけが心配です。天気に始まり、天気に終わるみたいな感じですね」
機材のセッティングが終わると、「じゃあ、いつもの儀式を」と、スタッフの方がマーカーをつけた棒を上下に振りながら、リンクを端から端まで歩きはじめました。この作業は「キャリブレーション」と呼ばれるもので、複数台のカメラの位置関係を計測して、マーカーの位置が算出できるようにするための処理だそうです。
このキャリブレーションによって、ようやくシステム全体が機能するのだそうで、全員揃ってその作業を見守ります。ちなみに、精度の良し悪しは6段階で評価され、結果は「ベリー・ハイ」(「上々」の精度)。パソコンをチェックしていたスタッフがそう告げると、みな安堵の表情を浮かべていました。気がつけばすでに朝方となり、この日はここで撤収。本番を迎えるまでの間、さらに微調整は続けられました。
開催期間中の2月12日(木)には、第19回六本木デザイン&アートツアー「四方幸子氏と巡る『MEDIA AMBITION TOKYO』ツアー」でも、会場を訪れました(こちらのレポートもどうぞお楽しみに)。また「めざましテレビ」や新聞、ウェブ媒体にも数多く取り上げられるなど、メディアからの注目も大きかった「Skate Drawing」。来年以降、さらに進化した形で、私たちの前に登場してくれることを期待します!