「たとえば、インタラクティブなものを提案するのであれば、スケートをやってるあそことか、何か条件が限定されていたほうが思い浮かびやすい。スケーターの軌跡入力データとして使うとかね」 2014年2月16日開催された六本木未来会議の公開インタビューで「六本木で何かプロジェクトをやるとしたら?」と問われた、ライゾマティクスの真鍋大度さん。そのときのアイデアが、都内最大級の屋外アイスリンク「ダイナースクラブ アイスリンク in 東京ミッドタウン」を舞台に実現することになりました。メディアアートの祭典「MEDIA AMBITION TOKYO 2015」のプログラムとしても開催される、「六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#06」の裏側をレポートします。
スケートをテーマにしたライゾマティクスの作品といえば、2012年のNHK杯国際フィギュアスケート競技大会のエキシビション「2012 NHK TROPHY / ARIGATO SKATING」。滑走するスケーターの位置をハイスピードカメラでトラッキングし、スケートリンクへと映像を投影した作品は、フィギュアスケートと映像を組み合わせた新しいパフォーマンスとして話題を呼びました。
これをより一般向けの体験型メディアアートとしてアレンジしたのが、今回、「ダイナースクラブ アイスリンク in 東京ミッドタウン」で行われるプロジェクト。その詳しい内容を聞くために、2014年の年末、ライゾマティクスのスタジオに、真鍋さんを訪ねました。
「今回の企画は、2人1組を想定しています。たとえば2人で同じように滑ると映像が変わったり、"隠しコマンド"も入れられるといいですよね。参加することでスケート自体がもっと楽しくなるのが一番大事だと思っています。実は僕、小学生のときにスケート合宿に参加していたこともあって滑るのは得意。デートでは『俺の滑りを見ろ』系なんです(笑)。もちろんそういう人もいれば、仲良く手をつないで滑る人もいるでしょうから、どのあたりを盛り上げるか、ですね」
「こういうマーカーを2人で身につけて、ハイスピードカメラでその軌跡をトラッキングする仕組みですが、それだけではなく、ちょっと"お話"が入ってくるといい。2人の関係性の中で何かが生まれて、スケートで愛が伝わるというような。時期的にバレンタインデーと重なるので、せっかくだから、タイトルもバレンタインにちなみたいですよね。Perfumeの曲『チョコレイト・ディスコ』に引っかけてもいい(笑)。『あなたが滑った軌跡がチョコレートになる!』みたいな」
年が明けた2015年1月。この日は、ライゾマティクス設立メンバーのひとり、千葉秀憲さん(写真手前)、画像解析を担当する登本さん(写真中央)、真鍋さんとともに「4nchor5la6(アンカーズラボ)」を主宰する石橋素さん(写真奥)の3人が、ダイナースクラブ アイスリンク in 東京ミッドタウンに集まりました。
「まずは実際に滑ってどれくらいの精度が出るのか確認したいですね。スケートが上手だっていう真鍋に滑らせてもいいんですが、ケガでもされたら一大事(笑)」と千葉さん。現場では、カメラや映像を映し出すスクリーンの設置方法などについて事細かにチェック。完全な屋外の環境で、マーカーの軌跡を捉えるカメラを設置するのは初めてのことだそう。このあと、テストを重ねて調整していくことになりました。
現場視察後、このプロジェクトにかける意気込みを聞いてみると「僕らは裏方だから......」と恐縮しながらも、こんな答えが。
「NHK杯のプロジェクトが土台になると思いますが、今回はお子さんも多い場所ですし、より楽しいものになりそうだなと期待しています。かわいらしかったり、気持ちがほっこりしたり、そんな方向で考えていきたいですね。バレンタインだから、告白のお手伝いをできたら、とかね(笑)」(千葉)
「これまでのライゾマティクスのプロジェクトでも画像解析を担当してきて、そのつどチャレンジングな課題も多くありました。今回のように完全な屋外でやったことはあまりないのですが、むしろ何も条件がないほうが難しいんです。試行錯誤することが今後のノウハウにもなりますしね」(登本)
「自然の条件下では何が起こるかわかりません。だから今の段階で簡単なことは言えませんが、新しい試みは入れていきたいです。これまでは男性的でエッジが効いた企画が多かったので、カップル向けの演出は勉強になるし楽しみ。かっこよくて、カップル向けの甘さもあるものにしたいですね」(石橋)
「『Skate Drawing』Rhizomatiks / Presented by 六本木未来会議」が開催されるのは、2月11日(水・祝)から、バレンタインデー当日、2月14日(土)までの4日間。いつものスケート場が、どのようにメディアアートへと変貌を遂げるのでしょうか? その様子は、3月4日(水)にレポート後編としてお伝えします。
今回のプロジェクトは、男女のカップルだけではなく、同性同士、友人同士、親子でも参加可能。大切なあの人と、ぜひこのプロジェクトを体験してみてください。もしかすると、氷上で絆を深める、特別な仕掛けが施されているかもしれませんよ。