「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014」の中で行われた、「森の学校」。1コマ90分の授業が各日4限ずつ、合計4日間にわたって開講されました。本やカメラなど身近なものから、手旗信号やピクニックなどちょっと変わったテーマまで、授業の内容は実に多彩。第1回のレポートでは、2014年10月25日(土)、26日(日)の様子を、先生方のコメントと写真でお届けします。まずは1日目の授業からどうぞ!
「最近、本から答えを求めようとする風潮があると思います。仕事に役立ったり何か得をしたりと、本の値段×読書時間分の利益を得ようとするような。そうすると、どうしても『この本を読むと5kg痩せます』というような即効性ばかりをうたった本が増えすぎてしまう。でも、損得で手にしないほうが、本と長く付き合っていけるんです。僕の場合、答えではなく新たな疑問を得て、考え続けるための駆動力をもらうのが本だ、と思っています」
授業の前半で幅さんが本について最近思っていることをじっくり語ったあとは、参加者が持参した「お気に入りの本」を1人90秒でプレゼン。「自分の言葉で紹介するということは、本を血肉化するということなんです」と幅さん。授業の最後は、こんな言葉で締めくくられました。
「今日紹介された本を、ぜひ書店で手に取ってみてください。読む前から情報が入りすぎてしまうネットとは違って、実際にパラパラとめくることで、著者と読み手が一対一の関係になれます。もしそこでピンとこなくても大丈夫。本は、いつでも待っていてくれますから」
地球の様子を映し出すインタラクティブ・デジタル地球儀「触れる地球」を使って行われるはずだった竹村真一さんの授業は、太陽の光で映像が見づらいため、急きょ、講義形式でスタート。「森」というワードから、話はどんどん広がっていきました。
「実は僕たちの存在そのものが、森との関わりで成り立っています。地球で大きな樹木が育ちはじめたのが、だいたい5000万年前。我々の祖先は肉食獣に捕食されないように、木の上で暮らすようになりました。枝を掴むために手が発達し、さらに枝から枝へ飛び移れるよう、立体視もできるようになっていった。僕たちの生物としての特徴は、森との共生の中で生まれていきました」
「人間は森と共生してきたし、自然は確かに大切なものです。でも、都市は地球にとって悪いものなのかというとそうではない。かつて地球の大気に満ちていた二酸化炭素を利用して植物が酸素を生み出し、酸素をうまく使うことで動物は進化してきた。生命は、かなりクリエイティブに、地球とコラボレーションしながら生きてきたんです。人類はまだ幼年期で地球に負荷をかけているけれど、地球を"改造"するのはある意味では自然なこと。地球と共進化しているという視点が、ここ数十年で得られた画期的な成果です」
写真のような、奇抜な格好で音楽を奏でながら登場した"ともとも"こと山口ともさん。参加者の待つ会場に着くなり「脚が上がらなくなってきましたよ、途中で......」とボヤいて、会場はひと笑い。履いていた缶は、キムチが入っていたものを再利用したそう。
「授業のタイトルは『地球を叩く』としましたが、"地球にあるもの"を叩くということでしょうか。そういったものをいかに楽しむかということで授業をやらせていただきます。今日は私が持ってきた楽器のいろいろな音を聴いていただいてから、ペットボトルのシェーカーをみんなでつくって演奏したいと思います」
用意された楽器はどれも、廃材を利用してつくられたもの。それらを使って、さまざまな音色を次々と奏でていく山口先生。
「どれも、正しい音階が鳴るようにはつくっていません。正しい音にすると曲を演奏しなくちゃいけない。そうすると練習しないといけないじゃないですか。譜面が読めないとダメ、とかね。そうじゃなくても、音を楽しむことを大切にして、自分が気に入った音ばかりを並べてみる。そういうことがとても楽しいんです。どう叩いても間違いじゃない。そういうことでいろんな楽器をつくっています」
演奏のあとには、ペットボトルやフィルムケースを加工して楽器をつくるワークショップが。最後にみんなでつくったペットボトルシェーカーを持って「ドレミの歌」を演奏しました。
「最初に言ったように、地球にあるものはなんでも叩けば音が鳴ります。自分が気に入った音を死ぬまでにいくつ発見できるかが楽しい人生につながっていくと思いますので、ぜひ探してみてください。みなさん本当にありがとうございました。またね〜」
「夢っていうと立派なものを想像しがちだけど、もっと気軽に考えてもらいたいんです。夢を『企て』たり、『捏造』したりね。そういう"夢の時限爆弾""タイムカプセル"みたいなものを持っておくと、いつか使えるときがくるんだよね。何かやりたいけど何をやっていいかわからないことってあるでしょう? そんなときに、やりたいことを紙に書いておけば、思い出せる。自分で自分に魔法をかけるんです。今日はそんなワークショップをやりたいと思います」
「私、こうして話すときに『四行詩』っていうのを伝えるんです。『やりたいということ』『必然性』『意義』『なかったという価値』の4つ。たとえば何かをはじめようとするとき、この4つに照らし合わせて考えると、本当にやりたいことかどうかがわかるんです」
そんな言葉から始まった遠山さんの授業。自身が「Soup Stock Tokyo」などのビジネスを立ち上げたときの話を交え、「夢」についてさまざまに語りました。
その後、参加者には裏が白紙になったトランプが配られ、そこに「やってみたいこと」をそれぞれ書いていきます。それを回収して、ランダムに読み上げていく遠山さん。「新しいストレッチを開発」「英語を話せるようになりたい」「夫婦仲良く」などなど......。最後は、それぞれに遠山さんからのアドバイスも。
「自分が書いたカードは持って帰ってくださいね。そして将来、ここに書いた夢がいつか実現するかもしれませんよ」
2日目、10月26日の授業ラインナップも、実にバリエーション豊か。芝生の上でくねくねとダンスをしたり、参加者と先生がひたすら対話を繰り返したり......。最後の授業は、夕暮れを過ぎて暗くなるまで行われました。その様子をどうぞ。
「もう少し早くやってみましょう。周りの人とぶつかりそうなときに、ちょっとフェイントを入れてみてください。いわゆる大人の駆け引きでしょうか? 大丈夫、恥ずかしくないですよ。はい、どうぞ!」
振付家の井手さんの授業は、芝生の上で靴を脱いで、体操をすることからスタート。先生のレクチャーで体を動かし、ふだんしないような動きを全員で行いました。
体の動かし方は、少しずつ複雑になっていきます。井手さんの手拍子に合わせて徐々にリズムを取っていき、最後には「ラジオ体操」の音楽に合わせてダンスをすることに。
「今日は、こうやって体をほぐすことから踊りに発展してもいいかな、と思ってやってみました。ダンスって、もちろん形から入るものなんです。だけど、こういう入り方があっても面白い。踊りというか、体を動かすこと自体に興味を持っていただければいいかなと思っています。今日はありがとうございました」
「今は忙しい時代だけど、『見つめる』ってことが大事なんです。じっと物を見る。2番目は、『思いつめる』。何かないかなって、24時間、考え続けるわけですよね。すると、ここでアイデアが出ます。それが『息を詰める』。"しめた"って感じですね。最後は『根を詰める』。この一連の流れで、ひとつの表現ができるんです。今日はこれだけ覚えて帰ってもらえればいいですね」
そんな話を皮切りに、書道のこと、卓球のこと、漢字のことなど、主に文字をテーマにさまざまな話題が飛び出しました。そして浅葉さんが少年時代のボーイスカウトで身につけたという、手旗信号のレクチャーが始まります。
「手旗信号は、14種類の基本的な形である原画(げんかく)を組み合わせて、カタカナの形をつくって発信します。今日はそれを覚えていきましょうね。じゃあ、一番大事な、『アイシテル』を発信してみよう」
この日使った手旗は、参加者のみなさんが持ち帰ることに。「手旗って、意外とどこで売っているかわからないの。ときどき出してやってみてよ。けっこう楽しかったでしょう?」と浅葉さん。
「ファッションという言葉は、チープというかチャラいというか、薄っぺらい印象で語られることがありますよね。でも、実は知れば知るほど深いということを、今日はお話したいと思います」
最初は、グループディスカッションから。「ファッションとは何か」を参加者で話し合い、出てきたのはエンターテインメント、内面とつなぐ装置、思想など、さまざまな意見。山縣さんは一人ひとりに問いかけながら、「ファッション」の日本語訳である「流行」を軸に話をはじめました。
「ここにいる全員がデニムを身につけていたらどうですか? 同化しすぎると気持ち悪くなっちゃいますよね。その一方で、人はみんなと同じでいたいという共感感情も持っている。反発と共感、この両方が流行をつくり出しているから、ファッションはややこしいんです」
「この木だって、環境に合わせて枝が伸びたり枯れたり、変化していくじゃないですか。ファッションも同じで、自分が生きていくために、主張するし、共感するし、日々変化していく。僕は、ファッションも変化していく自然の現象の延長線上にあると思っています。ここにある森と同じなんです」
この日最後となる授業の先生は、クリエイティブ集団「graf」代表の服部さん。grafが制作を担当した黒板をフルに使って、コール&レスポンスで進む授業を展開しました。「最後の授業だから、放課後まで突入してみんなで飲みにいくとか、やろうぜ!」という力強い言葉からスタート。
「これまではユーザーに届くまでをデザインと言っていましたが、これから考えないといけないのは、生産者から商品、商品からユーザーまでのサイクルをいかに回していくのか。そこで、4つのチームに分かれて、『伝統工芸をデザインすれば○○になる』というテーマで、『デザイン』という言葉を使わずに議論してみてください」
20分程度のディスカッションを経て、各チームがそれぞれ議論の結果を要約して発表することに。あるチームの意見は、こんな内容でした。
「伝統工芸は地元の産業に密接に関わっていて、昔の人はそれを生活の中で使っていました。でも、ものがあふれ、選択肢が増えて、次第により機能的なものを選ぶようになってきた。では、どうすれば使ってもらえるのか? そのアイデアがいろいろと出て、お皿だったものをオブジェにしたり、価格を下げて100円ショップで売ったり。つまり形を変えて需要を増やしていく、そんなふうに考えました」
すべての発表が終わると、服部さんから「今までデザインって形の話ばっかりだったんですけど、今日は"モノ"を取り巻く状況の話が出たのがとてもよかったですね」という感想が。
「デザインには、言葉を分析するという思考プロセスがあります。伝統には『技術』『思想』『習慣』の3つの要素がある。つくり続ける以上、『技術』は更新されていきます。『思想』はコンセプトの部分だから変えてはいけない。最後の『習慣』は、唯一変えられるもの。みなさんから出たアイデアも、この習慣に属するものでしょう。こういうふうに分析すると、まず方法論が見い出されて、そこから形につながるというサイクルができます。みなさん、今日は寝る前にもう一度『ああ、デザインって......、伝統って......』って、思い出してみてくださいね」
好天に恵まれ、まさに「青空教室」となった10月25日、26日の森の学校。心地よい秋の日差しの中、合計で211名の参加者が"先生"たちの授業を受けました。11月1日、2日に行われた後半の様子は、12月17日(水)に公開。こちらもどうぞお楽しみに!