今年2月、服部滋樹さんのクリエイターインタビューをきっかけにスタートした「六本木未来会議BOOKキャラバン by 服部滋樹」がいよいよ実現しました。2016年5月28日(土)には完成した「移動式本棚」のお披露目イベントを開催。六本木未来会議に登場したクリエイターのみなさんが推薦した本を並べてミッドタウン・ガーデンに設置、誰でも自由に本を読めるようにしたほか、本棚を使ったワークショップも行いました。その様子をお届けします。
こちらが完成した「移動式本棚」。服部さんが設計し、grafの工房で製作を行いました。自転車と本棚が合体したようなデザインで、設計の大きなポイントは「かわいらしさ」だと服部さん。
「フレームと車輪は白でまとめて、そこにウッドのシェルフを付けました。高さは一般的な人のアイレベル、だいたい1,550ミリくらいに収めて、棚に並べた本が目に入りやすいようにしています。この一輪タイプのほかに、バックパック型の本棚も検討してたんやけど、それだと背負う人の個性が出過ぎるでしょう? 全体的にかわいらしい感じに仕上げて、人が立ち寄りたくなるような本棚をめざしました」
裏面には黒板が設置されています。これは移動先で「会議」ができるようにというアイデアから。黒板は取り外し可能で、棚に付け替えることで本棚の容量を増やすことが可能です。
「当たり前ですけど、本棚ではなく本が主役なので、棚も(表紙を見せて陳列する)フェイスアウトができるタイプを用意しています。容量はだいたい100冊くらい。このサイズ感なら書店や図書館の中に置くこともできるし、100冊くらいがテーマ別に編集して本を並べられるちょうどいいボリュームなんじゃないかな。今並んでいるのは、『デザイン&アートの本棚』としてクリエイターのみなさんが推薦してくれた本。つまりこれが六本木未来会議の"人格"を表しているんです」
「日本人って、実はこういうアクティビティに慣れているんですよ。古くはおそばやお寿司も移動しながら販売していたくらい。今でも、屋台や移動販売ってよく見かける。だから、街なかに突然本棚が出現しても、きっと受け入れられるやろうなと思っています」
ちなみにこの日は移動式本棚を東京ミッドタウンの芝生広場に設置。棚には「デザイン&アートの本棚」で紹介しているクリエイターおすすめの書籍を並べました。服部さんが言うように、多くの人が自然に本を手に取って、芝生の上で自由に読書を楽しんでいました。
こちらの親子は、本棚から何冊かの絵本をチョイス。「絵本があると子どもたちが落ち着いてくれるから、そういう点でもこういう本棚があるのはうれしいですね(笑)」とのこと。そのほか、じっと棚を眺める人、気になった本を次々と借りていく人、立ち読みする人など、その使い方はさまざま。
「この本棚はどこへでも移動させることができます。もちろん僕も実際に運んでみましたが、ちょっとコツが必要。今では『あらよっと』っていう感じでスイスイ運べますけどね(笑)。僕らは『便利』という機能性に束縛されているところがあるんです。本来、道具は慣れて使いこなしていくものだから、この本棚をどう使っていくのか、ぜひ習得してほしいですね。あとはフラッグをもう少し大きく、高くしたい。旗ってコミュニケーション手段として重要なんですよ。移動先で『ここに本棚があるよ』って、しっかり伝えられるといいなと思います」
ここからは、当日開催されたワークショップの様子をご紹介。内容は、服部さんが講師をつとめて「移動式本棚の使い方をみんなで考える」というもの。集まったのは十数名、ここからたくさんのアイデアが生まれました。
「今日は、さまざまなクリエイターが推薦してくれた本をシェアしながら、みんなで『未来の会議』をしたいと思います。まずは本棚から気になる本を1冊、選んできてください。どんな本でもいいですよ」
服部さんのそんな言葉で、ワークショップがスタート。参加者は、学生から社会人までさまざまな人たち、中には写生をしに来て偶然参加することになった高校生の姿も。みなさんが選んだのは、『弓と禅』や『パワーズオブテン』、絵本『スイミー』からマンガ『人間ども集まれ!』など、ジャンルレスな本たち。
「まずはこれから『直感読みブックマーカー』(考案者は陸奥賢さん)というワークショップを行います。本を使ったちょっとしたお遊びみたいなものです。テーマを決めたら、好きな本をパッと開いて、偶然開いたページの一節をテーマに沿って解釈するというもの。これ、図書館のない街に本を集めるときに、1冊ずつ本を持ち寄ってもらってやっているんですよ」
まずはお手本をということで、服部さんが実演。テーマは「人生とは」、スヌーピーの本『A peanuts book featuring Snoopy』、を頭上に掲げて、何やら念じはじめました。そして開いたページに書かれた一節を読み上げると、こんな結果に。
「人生とは、『隣の猫とディナーを分け合ってくれると素敵だなと思うんだけど』。......なんとなくわかりました? 直感で開いたページの一節がどうテーマを表しているかを、みんなで考えておしゃべりしていきます。この場合は、『人生は分け合いながら生きていくもの』かな。ちょっと強引すぎる?(笑)」
「この姿勢、読書というよりもヨガみたいやね(笑)」と服部さん。実際に「直感読みブックマーカー」を全員で行っていきます。最初のテーマは「愛とは何か」。「愛とは『雲を数えなさい。雲に名前をつけなさい』」「愛とは『どこの馬の骨?』」など、本の内容によって意味深に聞こえるものも飛び出しました。中でも笑いを誘ったのは「愛とは『性生活がまったく欠如した結婚』」という回答、これには服部さんも「ホンマに書いてあった?(笑)」と驚いた様子。
「直感読みブックマーカー」のあとは、ディスカッションの時間。服部さんも混ざりながら、3つののグループに分かれて、移動式本棚の活用方法を考えていきました。発表は、もちろん移動式本棚に付けられた黒板を使って。およそ30分間のディスカッションで生まれたのは、次のようなアイデア。
「本棚の横に作家が座って、移動しながら黒板に物語を書いていく」
「本棚を回覧板のように巡回して読んだ人のログを残していく」
「本来本棚がない駅や体育館などに置いてその施設の個性を表現する」
さらにその後も、服部さんと全員が話す中で、21_21 DESIGN SIGHTなど美術館を巡回する、本にポケットを付けて感想を蓄積していくなど、具体的なプランが次々と生まれていきました。
「今日はいろいろな話が出ましたが、やっぱり『街に出ていく』というのがメインの使い方になりそうやね。たとえば東京ミッドタウンに入っているショップの店長が選んだ本を並べてもいいかもしれない。それぞれのお店が自分たちを表す本を並べたら、それが東京ミッドタウンの個性を表すことになりますから。本って、本来は個人のものだったけれど、実はマルチメディアなんだって思います。東日本大震災の被災地でも、本が人をつなげる、本で想いを共有するということが今も起こっているんです。この移動式本棚は、本の新しい使い方を生み出すいい機会。未来をみんなでつくるっていうのは、こういうことから始まるのかもしれませんね」