PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#15 「六本木、旅する美術教室」 第1回 グラフィックデザイナー長嶋りかこの美術展の見方【後編】

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『試着室』 2008年

update_2017.12.27 / photo_yuta nishida / text_akiko miyaura

クリエイターインタビューで生まれたアイデアを実現するプロジェクトの第15弾は、六本木の美術館やギャラリーを舞台に繰り広げられる「六本木、旅する美術教室」。アートディレクター尾原史和さんがインタビューで語った「アートの受け手側の"考える力"は、教育的なところから変えていくべき」という提案を実現するべく、クリエイターやアーティストのみなさんに先生になってもらい、その人ならではの、美術館やアートの楽しみ方を教えていただきます。

第1回の先生は、グラフィックデザイナー長嶋りかこさん。ガイド役は、森美術館キュレーター椿玲子さんです。教室の舞台となったのは、『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』。一体どんな美術教室になったのでしょうか。

前編はこちら
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作家の思考に触れ、どう社会にメッセージを届けるかを学ぶ場所、美術館。

 自身が設立したデザイン会社「Village®」で、グラフィックデザイナーとして、多くのデザインを世の中に送り出している長嶋りかこさん。刺激やヒントを求め、積極的に美術館へ出向くようになったのは「仕事を始めてから」だと言います。

「やっぱり、仕事になると"何のためにデザインするのか"って自分に問いかけるようになるんです。デザインって、言ってしまえば"受注"の仕事。"こうしたい"とビジョンを持ったクライアントがいて、それをどう形にするのかの答えを出していくのがデザイナーだと思うんです。
一方、アーティストは自分のなかに"こうせざるを得ない"という切迫した必然性や答えがあって、それを形にしていく作業をしていると思うんです。そういう意味でデザインとアートは成り立ちがまったく違う。ただ、デザイナーがアーティストの持つ姿勢なくして、クライアントの受注に答えを出していくことが正しいのかと思うと、そうではないと感じることが多いんです」

 相手のなかにある答えを見つけるデザイナー、自分のなかにある答えを形にするアーティスト。一見まったく違うアプローチにも感じますが、デザイナーとして"アーティストの姿勢"を知り、感じ取ることが大事だと長嶋さんは考えます。

「美術館は、アーティストが世の中にどうリアクションして、作品を通じてどう社会にメッセージを送っているのかを感じとれる場所。作家の思考に触れるたび、デザイナーとしても、その姿勢を持って仕事をしたいと感じるんです。自分発信のプロジェクトであれば当然ですが、受注仕事の場合でもです。たとえばプロダクトでも建築でもグラフィックでも、そもそもの依頼に社会的な意義を感じない場合、その仕事を受けない、という判断ができる。人の思いを形にすることはデザイナーの大きな役割ですが、そもそもの起点が正しいのかを疑ったり、クライアントと共に掘ったりする姿勢が必要なんです」

長嶋さん流、美術館の楽しみ方。

「展覧会全体のテーマが掲げられた、入口のテキストはしっかり読みますね。でもそれ以降は文章に目を通さず、先に作品を見ることがほとんど。作品を通じて作家が伝えたいのは、こういうことかなと自分なりに答えを出してから、作品の説明を読みます。あらかじめ見てしまうと想像が広がらず、それだけになってしまうから。まずは勝手にあることないこと考えて(笑)、自分がどう思うかを咀嚼してから、作家やキュレーターの意図を情報として入れます。合っているときは"合っていた!"って嬉しくなるし(笑)、合っていなくても"そういう考えがあるのかと視座が増える。そこに正解はないと思うんです」

【アートの見方#4】
作品解説は最後に読む。アート作品が何を表現しようとしているか、
まずは自分なりの答えを出してみる。そこに正解・不正解はない。

 まっさらの状態で作品から感じ取り、自分で思考してから、作家やキュレーターの意図を知る。ひとつひとつの作品を丁寧に見るため、「すごく時間がかかるんですよ」と長嶋さんは笑います。

「だから、1日でいくつもの展覧会をまわることはできなくて(笑)。行けて、せいぜい2か所。それに、あまりたくさんの情報を入れすぎると情報として入ってきやすい外側だけを見ることになるので、つまらないじゃないですか。できるだけ流れにそって、1作品ずつじっくり内側も見たいんです。作家が思考したであろう道筋を辿ることで、デザイナーとしてものを考えるときのヒントになりますし、自分が気になるポイントを通じて現在の自分自身が抱いている思いや疑問に気づけます。

そう考えるとアートを見るときって、自分の心のあり様を問われている感じがするんです。あと、自分が感じたこと、捉えたことをメモしたり、人と話してシェアしたりもしますね。異業種の友人と一緒に展覧会を見るのもおもしろい。その場で意見交換ができて、思わぬ広がりがあります」

【アートの見方#5】
作品から感じたことを書き留めたり、人と話したりしてシェアする。