PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#15 「六本木、旅する美術教室」 第1回 グラフィックデザイナー長嶋りかこの美術展の見方【前編】

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『建物』 2004 / 2017年

update_2017.12.20 / photo_yuta nishida / text_akiko miyaura

クリエイターインタビューで生まれたアイデアを実現するプロジェクトの第15弾は、六本木の美術館やギャラリーを舞台に繰り広げられる「六本木、旅する美術教室」。アートディレクター尾原史和さんインタビューで語った「アートの受け手側の"考える力"は、教育的なところから変えていくべき」という提案を実現するべく、クリエイターやアーティストのみなさんに先生になってもらい、その人ならではの、美術館やアートの楽しみ方を教えていただきます。

第1回の先生は、グラフィックデザイナー長嶋りかこさん。ガイド役は、森美術館キュレーター椿玲子さんです。教室の舞台となったのは、『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』。一体どんな美術教室になったのでしょうか。

後編はこちら
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真っ暗な部屋に浮かぶ5艘のボートを、最初の展示作品にした理由。

『反射する港』 2014年 ②《反射する港》.jpg

撮影:長谷川健太
写真提供:森美術館

 さまざまなグラフィックのデザインを手がける、長嶋りかこさんが訪れたのは、森美術館で開催中の『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』。本展覧会のキュレーションを務めた椿玲子さんとともに館内へと足を踏み入れると、真っ暗な部屋にゆらゆらと5艘のボートが浮かぶ作品『反射する港』が目に飛び込んできました。

椿玲子 この作品、どうなっているかわかります?

長嶋りかこ えっと......あ、水があるわけじゃなくて、水面に映った舟も立体物なんですね。おもしろい!

椿 そうなんです。"ボートは水に浮いているもの"という思い込みで、水があるように見えただけなんです。いかに私たちが固定概念をもって、ものを見ているかに気づかされます。"イメージ"は実際に存在するものを超えていけるんじゃないか、という強さも感じる作品。この作品は『反射する港』というタイトルですが、まさに"この港 から、作品と戯れる場所へと旅立ちますよ"という意味も込めて、最初の展示作品にしたんです。

長嶋 なるほど。展示の編集次第で、展示の読後感が変わりますもんね。だからこそ、展覧会に来ると、作家やキュレーターの意図を感じ取りたくなるんです。なぜ、この作品を1番目に配置したのか、そう考えるだけでもおもしろいですよね。

 今回、エルリッヒの展示としては過去最大級。彼の作品は視覚的な錯覚を利用して、見る人の"当たり前"や"思い込み"に揺さぶりをかけます。一見、楽しい体験型アートに見えて、その奥にはメッセージ性を透けさせた作品も少なくありません。

椿 エルリッヒは前面にメッセージを押し出すアーティストではないのですが、社会的な批評性を持った作品ももちろんあります。ただ、日本では彼のそういった部分を見られる展示がなかったので、今回は見せていきたいなと思っていました。

長嶋 やっぱり、世の中のできごとへのリアクションがあるアーティストなんですね。過去に金沢21世紀美術館で彼の作品展を鑑賞したときは、日常をどう捉え、視点をいかに揺さぶるか、という、見た人の心の持ちようの提案をする部分を強く感じて。なので、どちらかというと、政治や環境問題など、社会で何か起きたときに、リアクションとして作品を作るタイプではないのだろうなと思っていたんです。

椿 エルリッヒはオープンで誰もが楽しめる作品を作れる、すごく頭のいい人。空間への認識力が高く、"こうしたら、人はこう動く"というのをわかって、作っているんだと思います。

作家の社会的視点をよむ。

雲 2016年 ⑤《雲(日本)》.jpg

撮影:長谷川健太
写真提供:森美術館

 2番目の作品『雲』は、思わず写真を撮りたくなってしまう、シンプルで美しい作品。ただ、一歩踏み込んだ見方をしてみると、社会的視点を持った作品のひとつです。雲の形をよく見てみると、フランス、イギリス、日本などの国や島の形をしていて、それぞれガラスの上にセラミック・インクで表現されています。そこに作家が込めた思いとは。

椿 『雲』はイギリスがEUを離脱するかどうかという時期に、エルリッヒが考え始めた作品なんです。雲は形が変わるもの。もっと言うと形がないからこそ、人が想像力を投影できるんですよね。 

長嶋 たしかに。小さい頃、雲の形を見て何に見えるかっていう遊びをしましたよね。

椿 そうそう。もっと言えば雲だけじゃなく、地形も動いているので。国も私たちが現在の地底学的な視点で、単に境界線を引いたにすぎないんですよね。そんなことを考えさせられる作品だと思います。

長嶋 エルリッヒの見えていなかった一面を知ることができてよかったです。彼の社会派の一面を、自分のなかでは明確にはわかっていなかったので。

椿 政治性を前面に出さず、体験して楽しんでいる間に、実は......と、考えてしまうような表現ですよね。作品の見方って人の数だけあるので、その人なりのリアルを掴みとればいいと思うんです。ただ、その作品の背景までは何かしらテキストを読まないと見えづらい場合もありますよね。背景を知ることで、作品の見方も変わることもあるんです。

INTERVIEW

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