93 鬼頭健吾(現代アーティスト)前編

鬼頭健吾_メイン画像

インスタレーションをはじめ絵画や立体など、多様な作品を国内外で発表している現代アーティスト・鬼頭健吾さん。5月26日から27日にかけて行われた六本木アートナイト 2018では、作品を通じて儚くも幻想的な夢を私たちに見せてくれました。そのほかに、過去にも2度六本木で行われた展覧会に参加経験を持つ鬼頭さんが、アーティストの立場から、この街とアートの現在地、そして可能性について話してくれました。

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update_2018.5.30 / photo_tada(Yukai) / text_nanae mizushima

少人数での対話で、より一層アートに深く潜る。

「六本木クロッシング2007:未来への脈動」 六本木クロッシング

現在進行形の美術の動向に注目するシリーズ展として 2004年に森美術館でスタートした「六本木クロッシング」。第2回目となった「六本木クロッシング2007:未来への脈動」では、「交差(クロッシング)」の意味に注目し、天野一夫(美術評論家)、荒木夏実(森美術館キュレーター)、佐藤直樹(ASYLアートディレクター)、椹木野衣(美術評論家)の4名のキュレーターによる活発な議論を通して、アーティスト36組を厳選し、日本のアートの可能性を探った。
会期:2007年10月13日(土)〜2008 年1月14日(月・祝)
場所:森美術館
鬼頭健吾《ロイヤル(多面体)》2007年
展示風景:「六本木クロッシング2007:未来への脈動」森美術館、2007年
Courtesy: Gallery Koyanagi and Kenji Taki Gallery
撮影:木奥恵三

 デジタルが、工芸が、アートと結びつく時代です。今後アートはますます拡張していくでしょうし、それはそれでおもしろいと思います。ヨーロッパで、"美術"を表す"Art"という言葉が本来指しているのは、"美"ではなく"術"のほうですが、日本は"Art"に"美"を求めている風習がありますね。ですが、学校で"術"は教えてもらえても、"美"を教えてもらえることはない。今後、より美術に深く潜るきっかけのひとつとして、たとえばアーティストやキュレーターと鑑賞者との、プライベートなワークショップ、あるいは講義を六本木でやるのはどうでしょうか。アートとは? という導入から、アートを売る人、買う人のこと、そして実際に高額のアート作品を買うところまで、アーティストやキュレーターと1対1や1対2の関係性でじっくり対話する機会があればいいと思います。定員を募るトークイベントやワークショップ自体はすごく増えてきていますが、そういう開けた空間によって逆に参加の機会を狭めている可能性もある気がするので、少人数であればまた違った角度で深いアート体験ができると思うんです。

あの日、六本木は誰もいなくなった。

「アーティスト・ファイル2011─現代の作家たち」 アーティスト・ファイル2011

現代に生きる作家たちの新しい表現を紹介することをひとつの使命としている国立新美術館。そんな国立新美術館の学芸スタッフが、国内外で今最も注目すべき活動を展開する作家たちを選抜して展示するシリーズ展が、「アーティスト・ファイル-現代の作家たち」。その第4回目となった本展では、絵画、写真、陶芸、映像、インスタレーションと多岐にわたりながら、日本人作家と海外作家あわせて8組のアーティストが参加した。
会期:2011年3月19日(土)~6月6日(月)
※東日本大震災の影響により、会期及び閉館日を変更。当初の会期は3月16日(水)から。
場所:国立新美術館
鬼頭健吾《Inconsistent Surface》2011年
国立新美術館、展示風景:「アーティスト・ファイル 2011―現代の作家たち」
撮影:上野則宏

 六本木はコンパクトな街だと思います。「森美術館」、「国立新美術館」、「サントリー美術館」、「21_21 DESIGN SIGHT」をはじめ、「Taka Ishii Gallery」、「Tomio Koyama Gallery」といった、東京を代表する美術館やギャラリーなどの文化施設と、東京ミッドタウンや六本木ヒルズなどの商業施設が点在していて、そのひとつひとつを散歩しながら巡ることができる、そのスケール感は魅力的です。

 僕が初めて六本木に足を運んだのは、2003年に森美術館がオープンして、展示を観に行ったのが最初だったと思います。その後は森美術館での展覧会「六本木クロッシング2007:未来への脈動」と国立新美術館での展覧会「アーティスト・ファイル2011─現代の作家たち」に作家として参加することで、六本木に縁ができました。

 「アーティスト・ファイル2011─現代の作家たち」の作品搬入日のことは、今でも鮮明に覚えています。搬入のための買い出しに行って、地下鉄のホームで、地震に見舞われたんです。そう、東日本大震災が起きた2011年3月11日のことでした。立っていられないくらいに揺れて、周囲もパニックになっていましたが、それでも僕は作品を搬入しなくてはならず美術館に滞在していたのですが、次第に街から人が減っていき、気づいたときには誰もいなくなっていました。

 誰もいない六本木。そんな光景、想像したこともありません。まさに日常のなかの非日常。まるで幻覚、夢を見ているようでしたが、それがあの日、現実の世界だったんです。展覧会のオープニングは当然延期となり、僕は当時住んでいたベルリンに戻りました。そして今でも六本木と言えば、あの時体験した誰もいない風景を思い出すのです。