92 西野壮平(写真家)後編

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世界中を歩き、旅することを通して自身が得た、体験、経験をさまざまな視点から写真で記録。さらにひと都市で撮り続けた写真を重ね合わせて、1枚の地図へと変貌させる作品『Diorama Map』はすでに20都市を数えるといいます。世界の都市を見つめ、生身で街や人、生活を体感してきた西野壮平さんが歩いて見つけた六本木のおもしろさ、この街で実現したいアートについて語ってくれました。

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update_2018.5.23/ photo_hirokuni nakagawa / text_akiko miyaura

旅人と住人の境界線はどこに?

 制作で海外に滞在する場合、2、3日街をひたすら歩いたあとは地元の人たちと交流を重ねながら、いろんな場所へ足を運びます。「こういう場所があるよ」と聞いては、「今日はここへ行こう」「明日はあのエリアに行こう」とざっくり決めて、そこから派生していくような感じですね。『Diorama Map』は正確な地図とは違いますが、作品のアウトプットとして地図という形を目指している。そのためには、あらゆる場所に足を運ぶことが必要なんです。

 現地で1か月〜1か月半ほどアパートを借りて、現地の人の生活になじむような滞在をするという話をしましたが、やっぱりどこまでいっても"本当の住人"にはなれない。ただ、"自分がどこにいるのか"を把握する期間というのがあって、それが僕の中で設定している旅の期間なんです。2か月を超えると、街の人の目線になってしまう。そうすると、撮るものに対して、もう少し個人的な感覚が強くなる気がするんですよね。"旅人"として居られる期間は、Max1か月半。それが、自分の中の感覚としてあるんです。以前、仕事とは違う目的で、海外に1か月半以上滞在したことがあるんですけど、毎日のように歩いていると"知りすぎちゃう"んです。あくまで作品づくりであって、地元の人になることが目的ではないので、エンドを決めるようにはしていますね。

 旅から戻ると、静岡のアトリエでの作業が始まるのですが、そのときはまだ旅が続いているような感覚なんです。トータルで4、5か月の時間をかけるので、途中止まると、記憶がつながっていかない。だから、帰ってからの作業は連続してやりますね。大体フィルムで200~250本撮るので、現像するだけでも結構大変なんです(笑)。現像したら暗室でコンタクトシートに焼き、1枚1枚カットしていくんですね。それをキャンバスに貼り合わせていって、最後にもう一度複写するというのが作品をつくる流れ。

 今の時代を思えば、デジタル上でコラージュして手間のかかる作業を丸ごと省くこともできる。でも、それだと記憶がつながっていかないんです。すべてが集約された何万枚の写真の記憶をさかのぼるには、身体的な接触が大事だと思っていて。ペラペラしたフィルムの質感だったり、現像するために濡らしたり、乾かしたりしながら手で触ること自体が重要。身体的なアプローチが、記憶を舞い戻してくれる、巻き戻してくれるという感覚があるんです。そうやってできあがった1枚の『Diorama Map』は自分自身の足跡であり、その時代、その瞬間の、街や人の記憶でもあると思っています。

地形を活かしたパブリックな写真展示を六本木でも。

『Images Vevey』

スイス西部の街ヴヴェイで2年に一度行われるフォトフェスティバル。駅や教会、学校、カフェやデパートなど、さまざまなパブリックスペースを使ってアート写真が展示される。

『Diorama Map "Bern"』 Diorama Map

『Images Vevey』に出展した西野さんの作品。耐水性、耐久性を持った素材「ターポリン」に『Diorama Map』をプリントした10m×10mの作品。会議室のテーブルほどの高さのボードをつくり、その上に作品を貼って展示した。

『Diorama Map "New York"』NewYork

「アメリカ同時多発テロ事件」から5年後の2006年、再びニューヨークを訪れ、そのときの街の姿を記録した作品。

 写真に触れるという話で言うと、スイス西部のヴヴェイという小さな街で、『Images』という写真のフェスティバルがあって、僕も作品を出展したことがあるんです。そのときの作品『Diorama Map "Bern"』はターポリンという素材に写真をプリントして、駅の近くの広場に置いて、その上を街行く人が歩けるような展示方法にしました。スイスのベルンという街の『Diorama Map』だったのですが、現地の人たちにはなじみのある街なので、地図上を歩きながら子どもたちが「あ、この辺はここだ!」「友だちの家がある」と楽しんでくれたんですよ。パブリックな場で体感できる展示というのは、おもしろい体験でした。

 ほかの写真家も、本当にいろいろな展示方法をしていましたね。丸いドーム型の警察署を覆うように全面に写真をプリントしたり、レマン湖という湖の上に写真を浮かべたり、ホテルの壁面一面に滝の写真をプリントして貼ったり......。建物の中での展示は1割程度で、あとの9割は外。つまり、パブリックスペースに展示されているんですね。きっとそういうパブリックな写真展示みたいなスタイルって、六本木にもすごく合っていると思うんです。

 たとえば、六本木にいっぱいある坂を利用して、坂自体に写真をプリントしたり、坂の先に立つ高い建物にプリントして遠くからも作品が見られるようにしたり。あと、道や芝生に六本木の街のイメージとは真逆の写真をプリントして、地上にいる人からは何かよくわからないけど、六本木ヒルズの展望台だとか高い場所から見ると鮮明になるというのもおもしろいなって思います。世界からいろんな作家を招聘して、いろんな作品を街中のパブリックな場に置けたらいいですよね。