87 新海誠(アニメーション映画監督)後編

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新海誠さんが監督を務めた長編アニメーション映画『君の名は。』は、2016年に公開され、社会現象になるほどの大ヒットを記録。六本木を含む東京の街が頻繁に登場する新海作品は、圧倒的な映像美が特徴といえますが、舞台になる街をどのようにして選び、アニメーションに落とし込んでいくのでしょう。物語と街の関わりについてお聞きしました。

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update_2017.12.6 / photo_mariko tagashira / text_ikuko hyodo

12時間描き続けて、40秒分の話が進む絵コンテ作業。

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"映像の設計図"とも言われる絵コンテは、新海監督自ら描いている。細かな指示が書かれた絵コンテ・作画は『新海誠展』の見どころのひとつ。『秒速5センチメートル』、『君の名は。』は絵コンテ集も発売されている。
「ほしのこえ」監督・新海誠による原画
© Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

今は新作のことで頭がいっぱいで、正直、ほかのことを気にしている余裕がないんです。半年くらいかけて脚本を完成させて、絵コンテを描いている最中で、制作の段階としてはまだまだ入り口なのですが。

どんな仕事もそうだと思うんですけど、今やっている仕事だけにいかに時間を使うかが大事なんです。アニメーションの絵は基本的に全部手で描くので、脚本があがっておおよその尺が出ると、全部で何枚描かなければいけないかが最初にわかるわけです。そうすると、絵コンテ制作の一日のノルマも計算できてしまう。一日一日とにかくやっていくことが大事で、今は起きたら寝る直前まで毎日絵コンテを描き続けています。

絵コンテはアニメの設計図みたいなもので、実写の絵コンテよりはかなり詳細なものを描きます。これでアニメの映像の形がほぼ決まるのですが、僕の場合、絵コンテを完成させるまで8か月から10か月くらいかかります。自分でも思うんですよ、時間がかかりすぎじゃないかって(笑)。だけど、たとえば一日12時間ひたすら描いたとするじゃないですか。今日はたくさん描いたから話が進んだかなと思って、描き上げたぶんの時間を測ると、40秒程度なんです。それくらいのペースだと、160日間続けてようやく映画1本分の尺になる。毎日40秒分を、とにかく必死に作ることの繰り返しです。

とはいえ、インプットが完全になくなってしまうのもよくないので、マンガを読んだり、映画を見に行ったりはときどきします。この時期のインプットはネジを巻き直すような行為で、この辺でそろそろネジを巻かなきゃダメだっていう時期が、何日かに一回あるんです。

ハリウッドの実写映画化には負けたくない。

『君の名は。』ハリウッド実写映画化

米パラマウント・ピクチャーズと『スター・ウォーズ』シリーズを手がけるJ・J・エイブラムスの制作会社バッド・ロボットが実写映画化権を獲得。エイブラムスとバッド・ロボットのリンジー・ウェバーがプロデュースを担当。脚本は『メッセージ』で第89回アカデミー賞脚本賞にノミネートされたエリック・ハイセラー。

15年くらいアニメーションを作り続けてきて、『君の名は。』が一気にメジャーな作品になったのですが、そのことを目標にしてきたわけではないんです。とはいえ、僕のことや、僕の作品を知らない人にも見てほしいという気持ちは、シンプルにありました。アニメなんか別に好きでもないし、新海なんて知らないというような人が見ても、おもしろいと思ってもらえるような作品にしたくて、今ならそれができるのではないかという思いで作りました。

だから次の作品は、『君の名は。』で僕たちがもらえたことをベースにしたいと思っています。これまでは、どうすれば知ってもらえるんだろうっていうところから始めなければいけなかったわけですが、今回はより多くの人が、僕たちチームの存在を認知したうえで、見に来てくれると思うんです。だから、楽しんでもらえることはもちろん根底にありつつ、『君の名は。』よりもう少し難しいこととか、「これって本当にそうなの?」っていう議論になりそうな複雑なことも、映画に入れてみたい。『君の名は。』で玄関口を一気に広げてもらえたので、今度は広いところから入って、映画を見終わった頃には、いつの間にかずいぶん階段を登って、高いところから出ているような作品にできる気がします。

『君の名は。』が、ハリウッドで実写映画化されると聞いたときはびっくりしましたが、みんなも僕以上にびっくりしていたのがおもしろかったですね。才能と力のあるハリウッドの人たちに、自分の作ったものを自由に扱ってもらえるのはすごく楽しみだし、どうなるんだろうってわくわくするのと同時に、負けたくないという気持ちもあります。とはいえ、すでにできあがっている『君の名は。』で戦ってもしょうがないし、そもそも作品制作は競争ではないんですけど、僕たちの作ったもののほうがきっとおもしろいはずだという思いも常にありますね。

『君の名は。』は、ハリウッドで実写化しても簡単に勝算が思い浮かぶような作品ではないと思うんです。それなのになぜこの作品を選んだのか。選んだからにはそれなりの理由があるのだろうし、一体それは何なのかが、今は気になりますね。