83 西野達(アーティスト)後編

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コロンブス像やマーライオンといった象徴的なモニュメント、街灯や煙突などのパブリックな空間や物をホテルやリビングといったプライベート空間に変えてしまう。そんな大胆、かつ予想外のインスタレーションで、世界中の人々を驚かせてきた西野達さん。常識をくつがえす数々の"ビッグプロジェクト"にたずさわってきた西野さんに、六本木で実現してみたいこと、そしてビッグプロジェクトが街や人々に与える意味について、語っていただきました。

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update_2017.8.2 / photo_yuta nishida / text_akiko miyaura

ビッグプロジェクトには"人が来るアイデア"が必要

『フローティング・ピアーズ、イタリア・イセオ湖、2014‐16』 int_83_sub06.jpg

21_21 DESIGN SIGHT企画展「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」(2017年6月23‐10月1日開催)に出展中のクリストとジャンヌ=クロードの作品。イタリアのイセオ湖で行ったインスタレーションでは、3Kmにもおよぶ布の桟橋を作り出し、周辺の歩道も同じ布で覆ってしまった。10万平方メートルもの布を使い、色鮮やかな世界を作り出した本作は、訪れる人を高揚させた。
(Photo:Wolfgang Volz)

 俺が考える"ビッグプロジェクト"とは当たり前だけど、規模が大きくて予算が潤沢にある展示。先に話したように、あまりアートに興味のない人に作品を見せたくて屋外へ出たので、ただ単純に規模が大きいということは俺にとっては結構重要なことなんだ。

たとえば、いま、「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」に出展しているクリストとジャンヌ=クロードがやった、湖を巨大な布で覆う『フローティング・ピアーズ、イタリア・イセオ湖、2014-16』もそう。あれだけの規模だから、アートに興味がない人が「行ってみようかな」という気持ちになる。大きな展示をすることで、より多くの人々がアートに興味を持ち始めることは誰も否定できない。

俺が屋外に作品をつくり始めたきっかけもそこ。もともとは美術館やギャラリーでも展示していたけど、観客がめちゃくちゃ少ないわけ。ドイツのケルンで展覧会をしたとき、あまりに人が来なくて「何のためにやっているんだろう?」って思えてきた。学生時代からアートの存在理由について考えを巡らしてはいたんだけれども、これがきっかけで進む方向が定まったね。すべての人が簡単にアートを享受できるような環境が必要だということ。自分の人生の進む方向を決めるためには、自分の持つ想像力を使ってしかできない。あるいは、人類の想像力を最大限使うことでしか、我々は人類の進む道を決められない。つまり、我々個人でも人類にとっても生きていく上で想像力は必要不可欠ということなんだ。アートが人類の想像力を拡張するという役目を担っていることを誰も疑わないと思うけど、だからこそアートはすべての人に対して開かれているべきなんだ。 なので、アイデアを考えるとき、普段あまりアートに興味を持っていない人にも響く仕掛けを忍ばせておくようにしているんだ。

厳しい規制によって、いいアイデアが埋もれることを避けるべき。

いま、世界中で大規模なビエンナーレや展示会なんかが行われているよね。最近は日本もかなり増えてきて瀬戸内のような例外もありそうだけど、まだアートシーンの中だけの話にとどまっているのじゃないかな。「規模が小さくなってもいいから、とにかく続けてくれ」と俺はいつも言ってる。最初は地元の人も「おかしな人が来て、おかしなものを展示していく」っていう目で見るんだけれども(笑)、でも継続していくと、そういうアートに興味のない人たちが自然とアーティストや作品に触れ、すぐに「現代アートっておもしろい!」って感じるようになるはずなんだよ。

俺のプロジェクトも今まで市民やマスコミの反対運動があったのは1度や2度じゃない。しかし反対していた人々がプロジェクトのオープニングを境にして作品を支持する方に変わるんだ、例外なく。ここが面白いところ。

ただ、屋外に大きな展示をするには問題があって。俺が日本で展示を行うようになったのは、ここ10年ほどだけど、日本は公共の場に物を設置することが圧倒的に厳しい国。日本でやる前は断トツでイギリスが厳しいと思っていたけど、日本はイギリスの比じゃない(笑)。10倍は厳しいんじゃないかな。俺がドイツに出ずにずっと日本に留まっていて今発表しているような作品のアイデアが浮かんだとしても、日本ではいろいろな規制に引っかかって実現できなかったと思う。偶然ドイツだったんだけど、今思うと大正解だったな。

日本のアーティストにも、デザイナー、建築家、それから若い学生にも、おもしろいことを考えている人は、たくさんいるはず。でも、行政的な規制で諦めていることもあるに違いない。つまり、実現したら面白いアイデアがどんどん埋もれちゃってるわけ。本当にもったいない。新しいもの・ことが生まれる場所には人は集まるし経済的にも有意義なはずなんだけど、日本は完全に世界の潮流と逆に向かっているんだよね。

アートにお金をかけることで、街は活性化する。

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フランス西部の都市・ナントは美しい町並みと共に、現代アートや芸術が堪能できる場所。多くの芸術祭やアートイベントが行われ、世界から人が集まる。西野氏もビエンナーレ形式の『Estuaire 2009』に参加。2015年には同市のアートイベント『Voyage a Nantes』への出展(写真は作品のひとつ)、及びHAB Galerieでの個展を開催した。

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西野氏がニューヨークで手掛けた大掛かりなインスタレーション『Discovering Columbus』。コロンブス像を取り囲むようにリビングルームを作るという大胆な発想で人々を驚かせるとともに、新たな気づきを与えた。連日入場規制が行われるほどの人気を博し、10万人もの観客が訪れた。

 ネガティブなことばかり言って申し訳ないけど、もうひとつ伝えたいのが日本はアートにかけるお金が少なすぎるってこと。いつもフランスで住みたい街の上位に入る、ナントっていう人気の都市があるんだけど、そこは市の予算の15%をアートにつぎ込んでいるわけ。これは世界でももっとも高い数字。だから、あちこちからアーティストや観光客がたくさんが集まってくる。ナント市が始めた「ラ・フォル・ジュルネ」というクラッシック音楽祭は、今では世界各地で、日本でも東京、金沢、新潟を始め数箇所で開催されていて、そのことでナント市は世界的に影響力のある都市になっているんだ。別の例で言えば、街を舞台にした巨大人形劇で世界的に有名なラ・マシンやロワイヤル・ド・リュクスもナント市が支援して、その拠点を市内に提供しているよ。

それに対して、東京都のアートの予算は1%も大幅に切っているんじゃないかな。たしかに15%はめちゃくちゃ高い数字だからそこまで出せとは言わないけど、せめて予算が1%あれば、東京や六本木もかなりアートで活性化すると思うけどね。

 悲しいことに行政だけじゃなくて、日本の企業や資産家もアートにお金を出さないよね。5年くらい前かな、オランダの美術館が日本の文化を紹介する展覧会を企画したんだ。美術館側はオランダに支社を持つ日本の企業が協賛してくれると思って声をかけたのに1社も乗ってこない。キュレーターが「信じられない!」って怒ってたよ(笑)。もっともな意見だよね。海外の美術館がわざわざ他の国に関する企画をやろうとしているのに、その国とか企業がお金を出さないなんて考えられないことだから。

俺が数年前にアメリカでやったプロジェクト『Discovering Columbus』も、支援してくれたのはアメリカの企業や資産家だった。全部で2億3千万円くらいかかったんだけど、ニューヨーク市長がこのプロジェクトの許可を出し、さらに彼の会社が制作費の1/3を出してくれた。ポケットマネーで5千万円くらいを出してくれる個人も含め、そういう人たちがアメリカには多数いるんだ。国や自治体はもちろん、日本の企業や資産家の人たちも若手アーティストの作品を買う、アートプロジェクトを支援するということが、もっと日常的になればいいなって思うよね。