83 西野達(アーティスト)前編

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コロンブス像やマーライオンといった象徴的なモニュメント、街灯や煙突などのパブリックな空間や物をホテルやリビングといったプライベート空間に変えてしまう。そんな大胆、かつ予想外のインスタレーションで、世界中の人々を驚かせてきた西野達さん。常識をくつがえす数々の"ビッグプロジェクト"にたずさわってきた西野さんに、六本木で実現してみたいこと、そしてビッグプロジェクトが街や人々に与える意味について、語っていただきました。

後編はこちら

update_2017.7.26 / photo_yuta nishida / text_akiko miyaura

歩いているだけで、都市計画の成功を感じられる街。

企画展「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」int_83_sub01.jpgのサムネイル画像

既存の表現方法の垣根を超えた大胆な発想を実現する、世界中のクリエイターたちが集結。緻密な計算のもと、さまざま困難に立ち向かいながらプロジェクトを実現する彼らの姿、完成した広大な作品の数々は、企画展のタイトル通り、「そこまでやるか」と驚きにも似た感情を見た人に呼び起させる。
会期:2017年6月23日-10月1日
会場:21_21 DESIGN SIGHT
http://www.2121designsight.jp/program/grand_projects/

 21_21 DESIGN SIGHTでの企画展「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」の準備と開催で六本木にしばらくいるんだけど、この辺りも発展したなって思いますね。特に六本木の交差点から乃木坂方面は、東京ミッドタウンや国立新美術館ができて、道もきれいになってすごくいい雰囲気。

六本木駅方面から国立新美術館に向かう斜めの通りなんて、ブルーボトルコーヒーだとか、おしゃれなカフェが並んでいて。昔はあの辺りって普通の地味な路地だったんだよ(笑)。街を歩いていると都市計画がうまくいっているのが見える。ミッドタウンの通り沿いのベンチひとつとっても、デザインがすごく美しいし、こだわってつくられているのがわかるね。

反面、六本木交差点の印象は変わらないかな。それこそ、俺が武蔵野美術大学に通っていたころに見ていた景色とそんなに差がない。ごちゃごちゃしていて、歌舞伎町みたいな雰囲気で。サラリーマンが朝まで飲んでゲロ吐いて、みたいな(笑)。

そういえば、西麻布に有名なバーがあったからそこへ遊びに来たり、学生時代の彼女が狸穴坂で働いていたから六本木にも足を伸ばしてぶらぶら歩いたりしたな。いまもそうだけど、当時から六本木は日本でいちばん尖がっている最先端の街というイメージ。歩いてる人も含め、文化的な匂いもプンプンするよね。

人が一生懸命考える行為は美しい。だから人工の自然が好き。

ミッドタウン・ガーデン int_83_sub02.jpg

防衛庁跡地にあった140本の木々が継承した"自然のアートギャラリー"。東京ミッドタウンのコンセプト"On the Green"を具現化するにあたり、サンフランシスコのAECOMが手掛けたデザインには、「日本庭園」の概念が取り入れられている。

 俺にとって日本でいちばん住みたい場所が、まさにこの辺りなんだ。ミッドタウンに歩いて来られる場所がいい。ミッドタウンの庭(ミッドタウン・ガーデン)に人工の川が流れていて、むりやり植樹された木が並んでいて(笑)、この人工的な自然がいいんだ。

というのも、実は自然が好きじゃないんだけど、唯一好きな自然というのが完全に人間に飼いならされた自然なんだ(笑)。もちろん美しさは認めるし必要なものだとは思うけれど、俺にとって自然は退屈だね。盆栽や借景、日本庭園を見てもわかるけど、日本人はもともと大自然なんて好きでないんだ。

大自然よりは"人がつくったもの"がいいなと思うわけ。アーティストやデザイナーが、何カ月も何年も掛けて作品についてああでもないこうでもないと試行錯誤しながら一生懸命考えるわけじゃない? たとえそれが失敗作であったとしても、人が考える行為自体が美しいと思ってるんだ。

立ち話から生まれた型破りのカプセルホテル

『カプセルホテル21』int_83_sub03.jpg

21_21 DESIGN SIGHT企画展「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」(2017年6月23‐10月1日開催)に出展中の西野さんの作品は、2017年3月31日に開設されたばかりのギャラリー3の造形を活かしたカプセルホテルに。安藤忠雄建築を"実現不可能性99%"な空間に仕立てあげた。閉館後には、作品のシャワールームやベッドを体験するイベントも開催。

 安藤忠雄さんの建築の中でも21_21 DESIGN SIGHTは個人的にすごく好きな作品なんだけど、その美しい建物の中にいま展示している俺の作品『カプセルホテル21』は、今回の展覧会ディレクター青野尚子さん、21_21 DESIGN SIGHTプログラム・マネージャー齋藤朝子さんとの立ち話から生まれたアイデアなんだ。「どんなことができますかね」という感じで建物を見ながら意見を出し合っていたとき、建物を特徴付けている1メートル幅ぐらいの窓の集積が俺に迫ってきたんだ。ちょうどシングルベッドが1台入るくらいの幅だから、"ここでカプセルホテルができたらおもしろいんじゃないか"と話したわけ。そしたら彼女たちもすぐに乗ってきて、わずか3分くらいで作品の方向性が決まった。その「いいね、やりたいね!」という勢いのまま最後まで突っ走った感じだね。

"おかしな状況"をつくってアートとして成立させる

発泡スチロール・発泡ポリウレタン・単管int_83_sub04.jpg

カプセルホテルの枠組み、階段の手すりなどは「単管」、ベッドスペースの壁は「発泡スチロール」と「発泡ウレタン」を使用。絶妙な‟むき出し感"が生まれ、安藤忠雄建築の中で、いい意味で異様な空気を放つ。

 制作過程では紆余曲折あって、本当に諦めようかなと思ったときが2回くらいありました(笑)。ひとつネックになったのが、どう予算内に収めるか。そこで考えたのが、このシンプルでストイックな安藤忠雄建築と真逆のことをやって、アート的に成立させられないかということ。

だから、どこかにあるようなカプセルホテルを再現するというようなアイデアはすぐにボツになった。予算の都合で、以前から作品に使っていた発泡スチロールと発泡ウレタンでカプセルホテルの表面を作ることにした。それらの素材は建築では裏方の素材で壁の内側にあるものなんだけど、それらを表に引っ張り出すことで完璧な安藤建築とコントラストを作ろうとしたんだ。

同じように以前から俺がよく作品に使っている単管は、本来は建物が完成した時点で解体される運命のものなんだけど、その建物が完成した時点で解体されるべきもので建物を作る矛盾で緊張感を作り出す。そのようにして安藤建築との不協和音が拡大すればするほど建物そのものを俺の作品に取り込むことになり、作品のスケール感も拡大していくというわけ。

矛盾ということで言えば、そもそも「安藤忠雄建築の中のカプセルホテル」という言葉が矛盾してる。「窓のあるカプセルホテル」「緑の公園の中に立つカプセルホテル」っていうのも矛盾してるよね。今までの俺のプロジェクトのように、ここでも「ありえない状況」が生まれているんだ。