地下鉄を走るタクシー、墓地につくるベッドルーム。街にあるものを使って、驚きのある大胆なアートに。
コロンブス像やマーライオンといった象徴的なモニュメント、街灯や煙突などのパブリックな空間や物をホテルやリビングといったプライベート空間に変えてしまう。そんな大胆、かつ予想外のインスタレーションで、世界中の人々を驚かせてきた西野達さん。常識をくつがえす数々の"ビッグプロジェクト"にたずさわってきた西野さんに、六本木で実現してみたいこと、そしてビッグプロジェクトが街や人々に与える意味について、語っていただきました。
21_21 DESIGN SIGHTでの企画展「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」の準備と開催で六本木にしばらくいるんだけど、この辺りも発展したなって思いますね。特に六本木の交差点から乃木坂方面は、東京ミッドタウンや国立新美術館ができて、道もきれいになってすごくいい雰囲気。
企画展「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」
六本木駅方面から国立新美術館に向かう斜めの通りなんて、ブルーボトルコーヒーだとか、おしゃれなカフェが並んでいて。昔はあの辺りって普通の地味な路地だったんだよ(笑)。街を歩いていると都市計画がうまくいっているのが見える。ミッドタウンの通り沿いのベンチひとつとっても、デザインがすごく美しいし、こだわってつくられているのがわかるね。
反面、六本木交差点の印象は変わらないかな。それこそ、俺が武蔵野美術大学に通っていたころに見ていた景色とそんなに差がない。ごちゃごちゃしていて、歌舞伎町みたいな雰囲気で。サラリーマンが朝まで飲んでゲロ吐いて、みたいな(笑)。
そういえば、西麻布に有名なバーがあったからそこへ遊びに来たり、学生時代の彼女が狸穴坂で働いていたから六本木にも足を伸ばしてぶらぶら歩いたりしたな。いまもそうだけど、当時から六本木は日本でいちばん尖がっている最先端の街というイメージ。歩いてる人も含め、文化的な匂いもプンプンするよね。
俺にとって日本でいちばん住みたい場所が、まさにこの辺りなんだ。ミッドタウンに歩いて来られる場所がいい。ミッドタウンの庭(ミッドタウン・ガーデン)に人工の川が流れていて、むりやり植樹された木が並んでいて(笑)、この人工的な自然がいいんだ。
ミッドタウン・ガーデン
というのも、実は自然が好きじゃないんだけど、唯一好きな自然というのが完全に人間に飼いならされた自然なんだ(笑)。もちろん美しさは認めるし必要なものだとは思うけれど、俺にとって自然は退屈だね。盆栽や借景、日本庭園を見てもわかるけど、日本人はもともと大自然なんて好きでないんだ。
大自然よりは"人がつくったもの"がいいなと思うわけ。アーティストやデザイナーが、何カ月も何年も掛けて作品についてああでもないこうでもないと試行錯誤しながら一生懸命考えるわけじゃない? たとえそれが失敗作であったとしても、人が考える行為自体が美しいと思ってるんだ。
安藤忠雄さんの建築の中でも21_21 DESIGN SIGHTは個人的にすごく好きな作品なんだけど、その美しい建物の中にいま展示している俺の作品『カプセルホテル21』は、今回の展覧会ディレクター青野尚子さん、21_21 DESIGN SIGHTプログラム・マネージャー齋藤朝子さんとの立ち話から生まれたアイデアなんだ。「どんなことができますかね」という感じで建物を見ながら意見を出し合っていたとき、建物を特徴付けている1メートル幅ぐらいの窓の集積が俺に迫ってきたんだ。ちょうどシングルベッドが1台入るくらいの幅だから、"ここでカプセルホテルができたらおもしろいんじゃないか"と話したわけ。そしたら彼女たちもすぐに乗ってきて、わずか3分くらいで作品の方向性が決まった。その「いいね、やりたいね!」という勢いのまま最後まで突っ走った感じだね。
『カプセルホテル21』
制作過程では紆余曲折あって、本当に諦めようかなと思ったときが2回くらいありました(笑)。ひとつネックになったのが、どう予算内に収めるか。そこで考えたのが、このシンプルでストイックな安藤忠雄建築と真逆のことをやって、アート的に成立させられないかということ。
だから、どこかにあるようなカプセルホテルを再現するというようなアイデアはすぐにボツになった。予算の都合で、以前から作品に使っていた発泡スチロールと発泡ウレタンでカプセルホテルの表面を作ることにした。それらの素材は建築では裏方の素材で壁の内側にあるものなんだけど、それらを表に引っ張り出すことで完璧な安藤建築とコントラストを作ろうとしたんだ。
発泡スチロール・発泡ポリウレタン・単管
同じように以前から俺がよく作品に使っている単管は、本来は建物が完成した時点で解体される運命のものなんだけど、その建物が完成した時点で解体されるべきもので建物を作る矛盾で緊張感を作り出す。そのようにして安藤建築との不協和音が拡大すればするほど建物そのものを俺の作品に取り込むことになり、作品のスケール感も拡大していくというわけ。
矛盾ということで言えば、そもそも「安藤忠雄建築の中のカプセルホテル」という言葉が矛盾してる。「窓のあるカプセルホテル」「緑の公園の中に立つカプセルホテル」っていうのも矛盾してるよね。今までの俺のプロジェクトのように、ここでも「ありえない状況」が生まれているんだ。
俺はもともとアート関係者じゃない人々を観客として想定して作家活動を始めたから、今回の21_21での展覧会は展示施設とはいえ面白かったよ。21_21は本来はデザインの施設なのでデザイン関係の観客が多いだろうし、安藤忠雄建築ということで建築関係の観客も想定される。と同時にミッドタウン内にあるということで普通の買い物客や観光客が入ってくることも多いだろう。それらを含めて「カプセルホテル」のアイデアはうまく作用したのじゃないかな。ミッドタウンへの海外からの観光客はほとんどこのベッドで昼寝してるんじゃない(笑)?
買い物客や観光客をこの建物に引きずり込みたいという思いは最初からあったよ。今回初めて作品展示のために使うことになったギャラリー3は、21_21のもう一方の建物と違って1階に展示室がある。そのプラス面を最大限に利用したいとも考えてた。「カプセルホテル21」は、あまりアートに興味を持っていない人も「何これ!?」って建物に誘い込まれるように計画されてる。外から見え隠れしているオリジナルのシャンデリアや写真作品もその一つ。何よりも、ギャラリーの大きな窓ガラス越しに、人が寝ているのが見えたら気になるでしょ(笑)?
今回は建物の中でのプロジェクトだけど、もし六本木の屋外で何かビッグプロジェクトをやるなら、どんなことができるかな......。俺の場合、どこかの街や展示会から呼んでもらうと、まずその街に5日くらい滞在して歩き回る。街並みやその雰囲気、現地の食事や住民を知っていくうちに、だんだんとアイデアが出てくるんだ。
いまのところ、六本木を作品展示場所として見たことがないんだけど......。本当に思いつきで話すと、地下鉄を使ったプロジェクトはどうかな?六本木の街にも地下鉄が走っているよね。前から温めているんだけど、地下鉄の線路にタクシーを走らせるアイデア。 車のタイヤを電車の車輪につけ替えて、地下鉄のダイヤの合間にタクシーを走らせるっていう。
駅のホームで電車を待っている人は、「え? なんでタクシー!?」って絶対に驚くだろうなー(笑)。 実際に手を上げてタクシーを停められたらなお面白いけど、まあ「実現不可能性100%」だろうな。そうやって、アートに興味のない人の日常生活に入り込みたいね。
俺が世界各地でやってきたホテルプロジェクトを六本木でやるなら、何ができるんだろう......。そもそも、日本って海外に比べてモニュメントが少ないんだよね。きっと、みんなも渋谷のハチ公と上野の西郷どんくらいしか、思いつかないんじゃないかな。
そうだ、モニュメントじゃなくても、お墓ならいいかもしれない。これも前から考えていたアイデアなんだけど、有名人の墓を取り込んでベッドルームを建てる。日本にあこがれを持っていたファン・ゴッホのAuvers sur Oise の墓からこの着想を得たんだけど、ファン・ゴッホの墓石に並べてベットを置き宿泊できるホテルを建てるプロジェクト。ファン・ゴッホと一晩共に過ごせるわけ。
もし日本でやるなら和室にして、畳から出ている縦長の墓石の前に布団を敷くイメージかな。六本木に墓地があって有名人の墓があるならやりたいね。
ホテルプロジェクト
西野 達 ホテル裸島 リゾート・オブ・メモリー