77 清水久和(プロダクトデザイナー)後編

清水久和(プロダクトデザイナー)

キヤノンのデジタルカメラ「IXY Digital」のチーフデザイナーを務め、国内外で数々の賞を受賞しているプロダクトデザイナーの清水久和さん。瀬戸内芸術祭で展示された「オリーブのリーゼント」「愛のボラード」でも話題を集め、2017年2月3日から東京ミッドタウン・デザインハブで行われる「地域×デザイン2017」でも、その取り組みが展示されます。そんな清水さんが語る、未来のプロダクトデザインとは?

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update_2017.2.8 / photo_tsukao / text_kentaro inoue

日本のデザインは、文化として成熟していない。

 日本のデザインって、「いいデザインってこういうもの」というのが決まっていて、そこで終わってしまっているのかな、という気がしています。たとえば音楽だったら、クラシックがあって、ジャズがあって、ロックがあって、いろんなジャンルそれぞれが成熟して文化になっていますよね。でも、デザインは、まだそこに達していない。

「愛のバッドデザイン」にしても、もっと違う視点がありますよ、こういうのもグッドデザインですよ、っていうことを伝える活動のひとつ。もっとデザインの裾野を広げたいし、いろんなデザインが登場していい。いろんなデザインがないと文化は成熟しないし、たくさんの人を巻き込めないですから。

1万ユーロの鏡を普通の人が買う街、パリのすごさ。

鏡の髪型
歴史上のさまざまな人物の「髪型」で、鏡を装飾した作品。2008年の「日本史」展、2010年の「鏡の髪型 清水久和」展で発表。写真左が「長谷川平蔵」、右が「井伊直弼」。

 そういう意味で、すばらしいなと感じる街はパリ。街なかのギャラリーを見ても、さすがはフランスというか、扱うジャンルの幅がとにかく広い。何でもあり、何でも評価されるのは、デザインやアートに対する感受性が相当成熟しているからでしょう。

 2008年に、「日本史展」という個展をしたとき、パリにあるダウンタウンギャラリーの人が見にきてくれて、私の「鏡の髪型」という作品シリーズを買い上げてくれたんです。本当に売れるのかなと思っていたら、「長谷川平蔵」というモデルはパリの会計事務所が買ってくれたし、私が泊まっていたホテルの前のレストランに、たまたま「井伊直弼」が飾ってあるのを見たこともありました。1万ユーロもするあの鏡を普通の人が買う、やっぱりフランスってすごい! と感じました。

買う側の意識が上がれば、デザインはよくなる。

 デザインの未来を想像すると、私は、すごく充実していくと思っているんです。シンプルだったり、装飾的だったり、未来志向だったり、懐古趣味だったり、いろんな種類のデザインが出てきて、それをいいというファンが集って、デザインという世界が掘り下げられてどんどん広がっていく。遠い未来かもしれないけど、そうなると思うし、そうなってほしいな、と。

 今、テレビショッピングなんかを観ていると、掃除機とか炊飯器とか、とてつもなくひどいデザインのプロダクトがたくさん売っていますが(笑)、ああいうものもきっと全部よくなるでしょう。だって裾野が広がって、買う人の意識が上がれば、当然デザインのレベルも上がるはずですから。

 といっても、ただスマートでかっこいいデザインばかりになってほしいというわけではありません。だって、家の中全部がデザイン家電みたいになったら、なんだか味気ないですよね。なにより、スタイリッシュすぎて無機質な部屋で子どもを育てるなんて、絶対ダメ。子どもって、雑多な中で感性を育んでいくものだから。