65 水口哲也(メディアデザイナー)

水口哲也(メディアデザイナー)

世界的なメディアアートの祭典、アルスエレクトロニカで栄誉賞を受賞したゲーム「Rez」をはじめ、ビデオゲーム、音楽、映像の世界でグローバルな創作活動を続けているメディアデザイナーの水口哲也さん。さまざまなメディアで新しい体験を生み出してきた水口さんに、未来の六本木、そして未来の体験を設計する方法をうかがいました。

update_2016.2.17 / photo_tsukao / text_kentaro inoue

都市は誰のために設計されるべきか。

 まず六本木って、いったい誰のものなんだろうっていうところから話をはじめたいんです。それは、住んでいる人のためのものでもあるし、仕事にくる人や夜遊びにやってくる人、東京以外から来る人......。都市って誰のもので、誰のために設計されるべきなのかというと、結局はそこに集うすべての人のためのものであって、そういう六本木を考える、ということになるんだと思います。今、日本を訪れる外国人が年間約2000万人いて、「世界の都市総合力ランキング」で東京は4位(2015年現在)。たとえば、本当に1位になりたいのなら、どうすればいいんだろう? と考えたときに、やっぱり外国からやってくる人たちを無視することはできませんよね。

 日本人や住人だけでなく、外国の人からも愛されて、また訪れたくなるような東京や六本木をどう設計していくか。自分はゲームをはじめ「体験」をデザインする人間なので、そこに集う人たちをどうエンターテインするかがテーマになります。外国人と日本人が、体験を通じてどう幸せになるかを考えてみたいんです。

 たとえば、四国88箇所を巡るお遍路さんって、世界最古のゲーミフィケーションだと思うんです。修行という本来つらいものを楽しい体験に変えてしまったわけですね。廻れば廻るほどお札の色が変わっていくとか、ステータスが上がっていくとか。仕組みをデザインして体験に変えることで、楽しくポジティブな化学反応や循環をつくる。これはまさに発明に近い。ほぼ全員がスマートフォンを持っていて、ネットワークも整っている現在は、そろそろゲームの要素を社会にも適用していくいいタイミングなのかなとも感じています。

重要なのは、自分だけの体験にアクセスさせてあげること。

 日本に来た外国人と話をしていて思うのは、彼らが行くのはガイドブックやSNSに載っているような当たり前のところが中心で、まだまだ情報も少ないということ。僕は散策するのが好きで、土日になると週末限定のマルシェやデパ地下で日本中のいい食材を買い込んだり、食べ歩いたり。実は東京の真ん中って緑にあふれているし、本当に最高ですよね。でも、僕がふだん散策しているようなところで、外国人の姿をあまり多くは見かけません。

 今はまだ、典型的な観光地で写真を撮って、買い物をして帰るだけという外国人も多いでしょうが、もっと成熟してくると、みんな自分だけの体験を求めはじめます。そうなったときには、彼らの知らない体験に、どうやってアクセスさせてあげるかが重要になるでしょう。

 六本木周辺にも、散歩するだけでも楽しいところはたくさんありますよね。東京ミッドタウンの裏から赤坂に抜ける道もいいし、麻布十番の商店街も楽しい。裏路地を歩いてみると、こんなところに神社があるとか、坂の名前から東京の古いストーリーに出会うとか、いろんな発見もあるし。そういう古いものと最先端のものが混在していて、その両方が体験できることを、この街の魅力にしてもいいと思うんです。たとえば、外国人が歩きたくなるようなコースを考えてもいいじゃないですか? 30分だったらここ、60分だったらここというように。日本好きの外国人と一緒に、観光客向けの地図や標識をつくったり、AR(拡張現実)でアプリ化するのもいいですね。

フレームのない世界を実現した「Rez Infinite」。

MEDIA AMBITION TOKYO 2016
毎年10万人以上を動員する、最先端のアート、映像、音楽、パフォーマンスが集まるテクノロジーアートの祭典。4回目となる「MAT2016」はエリアを拡大、六本木ヒルズを中心に都内各所で、2016年2月26日(金)〜3月21日(月・祝)に開催される。
http://www.mediaambitiontokyo.jp/

 仕事のパートナーがこの周辺に多いので、週に3日くらいは、六本木に来ていますね。でも、六本木の繁華街とは......ちょっと距離を置きたい、かな。こういうカオスさが楽しいと思っていた時期もあるんですけど、最近はちょっと離れたところから、客観的に眺めているのが楽しいですね(笑)。

 この街との関わりでいえば、「MEDIA AMBITION TOKYO 2016」に「Rez Infinite」というVRゲーム作品を出展します。自分が紡ぐ効果音がどんどん音楽化していって、ビジュアルと連動し、振動となり、共感覚的な体験に変わっていく。VR仕様なので、映像も、音も、すべて3Dで体験できるんです。

「Rez Infinite」の原型になった「Rez」を制作したのは2001年。当時はまだ2Dで、4:3の画面の中にすべての体験を無理やりはめこむ必要がありました。それが今やフルHDで、上下左右、あらゆる方向にフレーム(枠)のない3Dの世界が拡がっています。遠隔の「リアル(現実世界)」も体験できるし、僕のような創作物による「アンリアル(非現実)」の世界も創作できる。いずれにしても、僕らは「そこにいる」体験を、これからたくさん経験していくことになるでしょう。