62 今村創平(建築家)

今村創平(建築家)

千葉工業大学はじめ国内外の多くの大学で教鞭を執るかたわら、建築設計や執筆を手がける今村創平さん。2016年1月から、六本木ヒルズ展望台のスカイギャラリーで開催される「フォスター+パートナーズ展:都市と建築のイノベーション」にも関わっています。「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2015」で行われた「森の学校 by 六本木未来会議」でも「環境」をテーマに授業を行った今村さんが見た、六本木とは? 森の学校のスピンオフともいえるインタビューをどうぞ。

update_2015.12.16 / photo_tsukao / text_kentaro inoue

ABC、ディスコ、ギャラリー間、80年代の六本木って?

 大学2年生くらいのとき、今でも21_21 DESIGN SIGHTの裏にある坂倉建築研究所でアルバイトをしていたんです。当時の六本木といえば、アクシスや、今年30周年を迎えた「ギャラリー間」もできたばかり、伊東豊雄さんがつくって1年で取り壊されてしまったバー「ノマド」なんかもあって、まさに新しいものが出現する街という感じでした。

青山ブックセンター六本木店
1980年、六本木通りにオープン。写真集やデザイン・建築などのビジュアル書を数多く揃えるほか、六本木という街の今を感じられる独自のブックフェアも開催する。かつては朝5時までの営業で、クリエイターを中心にファン多数。今回のメイン写真の撮影も同店内で。
http://www.aoyamabc.jp/

 中でも、当時は朝までやっていた「青山ブックセンター(ABC)」には、よく行っていましたね。当時、ABCの横にA1のコピーができる店があって、大きな図面をコピーしに行っては、出来上がりを待っている間に立ち読みをして。今でもそうですが、建築からアート、人文まで置いてあるし、オシャレで尖っている本屋でした。それから六本木の思い出といえば、ディスコ。ディスコというとバブル時代の派手なものをイメージするかもしれませんが、入場料2,000〜3,000円でずっと過ごせるから、むしろ飲みに行くより安い。80年代は、ちょうど今の学生が2次会でカラオケに行くくらいのノリだったんです。

 そのあと、この街とはあまり縁はありませんでしたが、六本木ヒルズができたくらいから、また来る機会も増えて。さらに国立新美術館ができて、東京ミッドタウンができて、だんだん街として「面的」になってきた気がしています。

学生時代に登場した"ヒーロー"、ノーマン・フォスター。

フォスター+パートナーズ展:都市と建築のイノベーション(主催:森美術館)
アップルの新社屋をはじめ、世界45ヵ国で300ものプロジェクトを遂行する、国際的な建築組織「フォスター+(アンド)パートナーズ」。代表する約50のプロジェクトを模型や映像、図面などで紹介する日本で初めての展覧会。2016年1月1日〜2月4日まで、六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー内スカイギャラリーで開催。
フォスター + パートナーズ
《ドイツ連邦議会新議事堂、ライヒスターク》
1992-1999年 ベルリン 撮影:Rudi Meisel

 そんな、僕が建築を志した学生時代に登場した"ヒーロー"が、ノーマン・フォスターでした。その後、ロンドンに留学したときには、わざわざイギリスの各地に作品を見に行ったくらい。当時はまだロンドンに作品がひとつもなかった彼が世界的な建築家になって、その建築展に関われるというのは、すごくうれしいことです。

 フォスターは建築家として活動をはじめた初期の頃、「宇宙船地球号」を提唱した思想家のバックミンスター・フラーとコラボレーションをしていました。巨大な設計事務所は世界にたくさんありますが、そうした経験から得たフィロソフィが今でもすべての作品に通底しているのが面白いところ。しかも、今の「環境の時代」にフィットしている。今回の展覧会では、フォスター+パートナーズ設立前の時期に建てられた作品の模型を新しく2つつくりましょう、ということで制作協力しています。

とんがった文化と自然や食が融合した、新しい都市の形。

 好きな街を聞かれると、いつも僕は「東京」と答えます。渋谷があって、銀座があって、秋葉原があってと、なによりいろんなキャラクターの街があるのが東京の面白さ。ロンドンを見てもニューヨーク見ても、現代の都市は変わり続けなければ生き残っていけません。どこにもあるような街じゃなくて「六本木らしさ」はすごく大事だし、六本木ならではの変化をすることで、いい方向に向かっていくと思います。

「環境」という観点から見ると......けっしていいとはいえないでしょう。そもそも環境にとっての圧倒的な「悪」は、電気を使うこと、だから六本木のような夜の街は完全にアウト(笑)。もうひとつの「悪」は商業。商業はどれだけ人の消費意欲をかきたてられるかが勝負ですから、地味だと商売になりません。かつては開発というとビルを建てるだけとか人が住むだけでしたが、今は世界中どこでも、商業とセットじゃない街は考えられませんから。

 つまり、エネルギーと商業という、矛盾するものとの折り合いをうまくつけていかないといけない。どちらかというとエネルギーを使わない方向に向かって、自然に回帰したり、食に回帰したりというのは、現代の都市の大きな傾向です。たとえば、このあいだ僕も出させてもらった「森の学校」のように、みんながくつろげる場所と商業が混ざるとか。田舎は別として、六本木のような都会的なところには、そういう場所はなかなかない。とんがった都市文化がありながらも、自然と近くて、食も充実していて、居心地がいい。もしそれが実現できたら、新しい都市の形が見えてくるかもしれません。