58 須藤玲子(テキスタイルデザイナー)

須藤玲子(テキスタイルデザイナー)

マンダリンオリエンタル東京のテキスタイルデザインなどで知られ、ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめ、世界中の22の美術館に作品が永久保存されている、世界的なテキスタイルデザイナー・須藤玲子さん。六本木歴なんと40年、まさにこの街を知り尽くした須藤さんに、編集部がお願いしたテーマは、「六本木をテキスタイルの街に変えるには?」。さて、その答えとは? 須藤さんおすすめの六本木のスポットにも注目です。

update_2015.9.2 / photo_hiroshi kiyonaga / text_kentaro inoue

ずっと間近で見てきた、六本木の"豹変"ぶり。

 私が六本木に来るようになったのは、まだ学生だった70年代のことですから、実はすごく関わりが長いんです。もちろん、その後のこの街の"豹変"ぶりはずっと間近で見てきたし、いろんなお店がなくなってしまったのは少しさみしくもあって、「あそこにあれ、あったのに」なんて、ため息をつくこともあります。

ロアビル

ロアビル
外苑東通りを、六本木交差点から東京タワー方面に向かったところにある複合商業施設。1970年代に完成して以来、六本木のランドマーク的な存在としてもおなじみ。現在でも、飲食店などが数多く軒を連ねる。

 たとえば、ロアビルには手づくりの洋服を扱うお店や、輸入雑貨を扱うすてきなセレクトショップがあって、田舎から母が来るとよく連れていったりしていました。今のイメージからすると信じられないかもしれないけれど、すばらしいファッションビルだったんですよ。80年代になると、WAVEができて、そこで紹介されているワールドミュージックは最高だったし、地下1階のシネ・ヴィヴァンで小難しい映画を観て、「私ってもしかして文化的?」なんて気分に浸ったり。

 テキスタイル関係でいえば、1972年にオープンしたタオル屋さん「ホットマン」。ここは東京の青梅でつくられているタオルを扱うお店。それを六本木という街が受け入れて、もちろん今でもそこにあるというのは、本当にすてきなこと。最近でこそ、今治タオルがものすごく脚光を浴びていますが、当時、まだ日本にそういう本格的なタオルをつくっているところはありませんでした。だから、ホットマンはもちろん、ソニープラザに行ってアメリカ製のタオルを買ったり、原宿のパレフランセにできた日本最初のマリメッコのお店にわざわざ行ったりしていたんです。

いまだに通っているのは、昔からあるお店ばかり。

布

NUNO
1984年の設立には須藤氏も参加、同年六本木アクシスビルに本店をオープン。日本各地の伝統的な染織産地と新しい素材や技術をつなぎ、独創的な布づくりを行っている。世界各国の美術館での展示や、永久保存されている作品も多数。https://www.nuno.com/

 1984年に「NUNO」という会社を設立したのも六本木だし、その前に7年ほどいた会社もやっぱり六本木で、この街はいつしか私にとって働く場所にもなりました。今では六本木ヒルズや東京ミッドタウンが六本木の顔になりましたが、いまだに通っているのは、昔からあるお店ばかり。

 たとえば、焼き鳥の「南蛮亭」とか、トーフステーキで有名な居酒屋「一億」とか。一億なんて、掘っ立て小屋みたいで、80年代と何も変わっていないんですよ。普通、お店ってリニューアルしてどんどんかっこよくなるものですが、それがない(笑)。ただ、すごくきれいに手入れがされている。みなさんも、あのあたりに行ってみると面白いですよ。

 イベントごとがあれば「おつな寿司」だし、お菓子は「青野」の鶯もち。それから、六本木はライブハウスの街でもあったんですよね。「六本木ピットイン」「ケントス 六本木店」「バードランド」に「STB139 スイートベイジル」。ライブに行ったあとには必ず寄って、ハンバーガーをかじった「ザ・ハンバーガー・イン」も大好きでした。劇場あり、映画館あり、ライブハウスあり。もちろんなくなってしまったところも多いけれど、まだまだ80年代から続くお店が残っているのが、すごく六本木らしいなって思います。

きれいな場所でつくられるテキスタイルは、やっぱり美しい。

 私は「断らない須藤玲子」と言われているくらい(笑)、展覧会や講演で、世界中のあちこちに行っています。その中でもやっぱり一番好きな街といえば京都、かな。理由は、そこで暮らす人たちの生活が、ものすごく整頓されているから。行くたびにいつも、京都人の中には何か貫かれているものがあるんだろうなと感じているし、日本人はそういう姿勢をもっと学ぶべきだとも思っています。

 前に原研哉さんが言っていて面白いと思ったのが、「自転車のカゴにゴミがひとつ入っていると、そこにどんどんゴミが溜まっていく」という話。でも、京都にはそういうことがない気がします。もちろんそれは街の景観だけじゃなくて、機屋さんにもいえること。機屋さんって雑然としていることが多いんですが、京都の機屋さんはすごくきれい。京丹後とか京都の中心部から距離が離れたところでもそうなんです。

 これはヨーロッパの片田舎でも感じることですが、質素だけど美しい。忙しくても豊かで、生活を楽しんでいる。やっぱりつくる場所がきれいだと、そこで生まれるテキスタイルもやっぱり本当に美しいんですね。だからといって、私の家がきれいか、うちの会社が整理整頓されているかというと、それはまた別の話なんですけれど(笑)。