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渋谷慶一郎(音楽家)

音楽レーベルを設立し、国内外の先鋭的な電子音楽作品をリリースするほか、映画音楽をはじめ、アーティストとのコラボレーション、ライブのプロデュース、音響インスタレーションまで。2013年には、初音ミク主演で世界初の人間不在のボーカロイド・オペラ「THE END」を手がけたことでも知られる、音楽家の渋谷慶一郎さん。現在は、パリと東京を拠点に活動する渋谷さんですが、聞けば六本木との縁も深いそう。まずは、青春時代の思い出からうかがいました。

update_2015.2.4 / photo_tsukao / text_kentaro inoue

人にCDや楽譜を借りてるやつは作曲家になれない?

六本木WAVE

六本木WAVE
1983年開店のレコードショップ。音楽をはじめさまざまな文化・流行の発信基地として愛された。六本木地区再開発に伴い、1999年に惜しまれつつ閉店。跡地は現在、六本木ヒルズ メトロハットとなっている。

 僕は生まれ育ったのが渋谷で、高校は広尾だったんです。六本木はめちゃくちゃ近くて、この街が変化していく様子もつぶさに見てきました。それこそ六本木WAVEにはよく通っていて、CDを買い漁ったりしていましたね。ちょうど大学に入った頃で、バイトをたくさんしていて妙にお金を持っていたんですよね。ピアノ弾きのバイトもたくさんしたし、おかしかったのは松濤の大豪邸の家の子どもに作曲を教えに行ってて、でもその子は小室哲哉さんの大ファンで、そっくり真似た曲をつくるわけ(笑)。で、出されたケーキを食べながら曲のコードを直してあげる。なんで僕が頼まれていたのかよくわからないんですけど、それで毎回、学生にしては結構なバイト代をもらっていました。

 よく覚えている言葉があって、作曲の先生か大学の先輩か忘れたけど、「人にCDや楽譜を借りてるやつは作曲家になれない」って言われたんです。先輩の言うことなんて聞かなかったから先輩のはずないな(笑)、先生ですね、たぶん。で、妙にそれは腑に落ちて、当時勉強していた現代音楽の楽譜とかCDはどんどん買って、繰り返し聴いたり見たりしていました。振り返ってみると、たしかにあのとき人にCD借りていた人は、作曲家になっていないかも。自分で買うと元を取るように何回も聴いたり見たりするから、吸収がよいというか身に染みつく感じはあるかもしれないです。

 WAVEでは、アーティストっぽい若者を見かけては声をかけるおじさんに捕まって1階の喫茶店で2~3時間も話に付き合わされたり、マニアックな棚を見ていたらたまたま目が合った女の子と仲良くなって音楽の話で盛り上がったり。そんな変わった出会いもたくさんありました。

消費の最先端、人の消費動向が見えやすい街。

 六本木って、渋谷と少し似ているところがあって、「消費の最先端」だと思うんです。たとえば、WAVEの跡地は六本木ヒルズに変わりましたよね。渋谷だとHMVの跡はフォーエバー21になり、ブックファーストはH&Mになった。CDとか本とか、オンラインで済むものが、オンラインでは済まない洋服に変わっていったわけです。で、今や服を買うのもすでにオンラインが主流になりつつあるから、また変わるでしょう。そういう意味で、人の消費の動向が見えやすい街だと感じます。

スーパー・デラックス
2002年、六本木通り沿いにオープンしたイベントスペース。クライン ダイサム アーキテクツが主催する「ペチャクチャナイト」はじめ、毎夜さまざまなイベントを開催している。

 最近でも、森美術館をはじめ美術館にはよく行くし、ときどき東京ミッドタウンの3Fにある「ケアーズ」っていうアンティークウオッチの店ものぞいてますね。あとは、なんといってもスーパー・デラックスかな。ATAKっていう自分のレーベルをつくって12年になるんですが、一番最初のツアーファイナルがあそこだったから思い出深い。仲のいい海外のアーティストがライブをすることが多くて、今でもちょこちょこゲストで出たりしています。

イベント当日に記録的大雪。やっぱり、六本木には"なんかある"。

filmachine

filmachine
渋谷氏と科学研究者の池上高志氏が共同制作した巨大な3次元立体音響作品。2006年、山口情報芸術センター(YCAM)で発表後、ドイツやフランスを巡回。24個のスピーカーと点滅するLED、高さの異なるフロアから構成される。
Photo: © Michael Sauer - filmachine in Berlin, February 2008

ROPPONGI THINK ZONE
2001年、六本木ヒルズ開発のプレ・プロジェクトとして、六本木通り沿いにオープンしたアートスペース(現在は閉館)。映像や音響を交えた最先端のイベントが数多く行われた。

 2014年には、MEDIA AMBITION TOKYOで「filmachine」という立体音響の作品の展示をして、それと関連して、六本木ヒルズの52階で「Digitally Show」というエレクトロニック・ミュージックのイベントもプロデュースさせてもらいました。filmachineは、2006年に山口のYCAM(山口情報芸術センター)で制作したもので、かれこれ8年かかってようやく東京での展示が実現したんです。マルチチャンネルの大量のスピーカーとLED、床から空間まで設計してあるような巨大なインスタレーションで、それが美術館ではなく、六本木ヒルズのアートフェスだったというのは、個人的にも象徴的な出来事でした。

 というのも僕、2001年に吉岡徳仁さんがインテリアを手がけた「ROPPONGI THINK ZONE」というスペースのオープニングだったと思うんですけど、「OPEN MIND」というイベントに出演したことがあったんです。当時はまだレーベルをはじめたばかりで右も左もわからない時期で、ちょうど音響派とかエレクトロニカが日本で浸透しはじめて、ラップトップでライブやるのも新鮮だった。これからどうなっていくんだろう、みたいなドキドキ感がありました。

 Digitally Showも、そういう未知の体験感があるイベントにしたいと思ってプロデュースしました。エレクトロミュージックのイベントなんだけど、いわゆるダンスミュージックだけでもないし、フロアで棒立ちになるような実験音楽でもない。すごく感触は新しいんだけど身体性があって楽しめるのがいいと思って。僕もいれば、真鍋大度くんもいれば、中原昌也さん(Hair Stylistics)もいる、デジタルからアナログ、ミニマルからノイズまで振り切った、思い切った組み合わせにしました。「何のイベント」と一言で言えないので、わかりにくいかな? とも思ったんですけど。

 そうしたら当日、東京は記録的な大雪で電車、地下鉄などすべての交通がストップ(笑)。にもかかわわらず、会場は超満員御礼でこんなのありえない! と、二度びっくりして。やっぱりこの場所には"何かある"っていうか、六本木は新しいこととの親和性がいい土地なんだなって、あらためて思いましたね。