六本木未来会議5周年特別インタビュー『昼も、夜も、六本木で会いましょう。』

project_5syunen_main1.jpg

「六本木未来会議」がスタートして 5年。地域のイベントとして定着した「六本木アートナイト」や、ギャラリーの新設など、この5年で、六本木を彩るデザインとアートのシーンも変化してきました。今回、5周年を記念してご登場いただくのは、グラフィックデザイナーの佐藤卓さんと、プロダクトデザイナーの柴田文江さん。佐藤さんは『21_21 DESIGN SIGHT』のスタートからディレクターとして関わり、今年4月から館長に就任。柴田さんは六本木にオフィスを構え10年になります。六本木に深く関わり続け、「六本木未来会議」にも参加経験のあるおふたりに、改めて、この5年、10年の街の変化と未来への取り組みについて、語っていただきました。

update_2017.8.30 / photo_mariko tagashira / text_tami okano

六本木の昼の顔も印象づけた、「デザインあ展」。

topic1.jpg

デザインあ展
2013年開催。NHK Eテレの教育番組「デザインあ」を展覧会へと発展。「デザインマインド」をテーマに音や映像も活かした「全身で体感できる展示」を展開し、大人も子ども楽しめる展覧会として大きな話題となった。 http://www.2121designsight.jp/program/design_ah/

柴田 私は10年前から六本木にオフィスを構えているのですが、それ以前の20年、30年前の六本木は街自体が「夜の街」というイメージで、普段の買い物もしたことがなかったし、夜は恐くてひとりでは出歩けませんでした。でも、今はもう、ぜんぜん「夜」って感じがしませんよね。

佐藤 しないですね。夜よりも昼。暗い夜の街から明るい昼の街の顔も見えてきた、っていうのが、六本木のこの10年の変化なんじゃないかと思います。『21_21 DESIGN SIGHT』も今年でオープンから10年なのですが、東京ミッドタウンの中での変化で言うと、樹木がいい感じで伸びてきたことですね。

柴田 鬱蒼とした森のようになってきましたよね。特に芝生広場周辺の緑は濃くて、ミッドタウン全体の気持ちよさを支えているもののひとつだと思います。

佐藤 最初の頃はまだ樹木の背も低くて葉の量も少なかったけれど、最近は散策路にも木漏れ日や日陰が自然と生まれて、くつろげる雰囲気になってきました。実感としては、この5年くらいで急に良くなってきたような気がします。

柴田 私ね、六本木が変わったな、と思った瞬間の出来事として、21_21の『デザインあ展』があるんですけど、あの展覧会は何年前でしたっけ。

佐藤 4年前ですね。2013年です。

柴田 事務所から近いこともあって、ミッドタウンでランチを食べることが多いのですが、その当時のできごととして強烈に覚えているのが、隣の席に、高校生くらいの娘と母親が座っていて、今から『デザインあ展』を見に行くっていう話をしているんです。で、プロダクトデザイナーがどういう仕事をする人か、みたいな会話をしていて、なんだか、すごいドキドキしたんですよね。ごく普通の親子のやりとりに「プロダクトデザイン」とか「デザイナー」という言葉が登場している。『あ展』には、小さな子どもを連れたママたちもたくさん来てましたよね。あの展覧会がお子さん連れのママたちに、21_21という存在を知らしめたし、それによって六本木という街が突然変わったという印象があります。

佐藤 ありがたいことに、ベビーカーの長い長い行列ができて。最終的には、22.5万の方が来てくださいました。

柴田 六本木にベビーカーなんて、本当に10年前だったら考えられないですからね。でも今では、子ども連れの方がいるのが、いつもの六本木。

佐藤 21_21の展覧会は毎回実験、デザインやアートに関心のなかった人にも興味をもってもらいたいと思ってやってきて、テーマも「土木」だったり「アスリート」だったり、毎回違います。そのたびに来てくださる方の層も違いますし。

柴田 私ね、その展覧会の幅の広さが、21_21だけじゃなくて、この街に来る人の幅も広げてきたと思うんです。

佐藤 21_21という場所での様々な実験が、街のためにもなってきたのであれば、それは僕たちがずっと願ってきたことでもあるし、こんな嬉しいことはないですね。

簡単ではなかったから、よかったのかもしれない。

topic2.jpg

東京ミッドタウン・デザインハブ
展覧会やセミナーなどの開催によって、多くの人をデザインの力でつなぎ、動かす場としてスタート。「日本デザイン振興会」「日本グラフィックデザイナー協会」「武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ」「インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター」の4つの機関が参加している。東京ミッドタウン・タワー5階。 http://designhub.jp/

佐藤 そもそも『21_21 DESIGN SIGHT』は、これまで世の中になかった施設だから、最初はどうなるかわかりませんでした。もちろん、モチベーションはありましたよ。日本にデザインミュージアムがないというところから始まって、デザインの拠点となる施設を作りたい、という思いは三宅一生さんをはじめ、我々ディレクターの中には確固としてありました。でも、人が来てくれなかったら、成り立ちませんから、絶対に成功するか否か、みたいな意味での自信は誰にもなかった。だって、誰もやったことがなかったんですから。  

柴田 それがこの5年、10年で定着しましたよね。ミッドタウン全体としても、最初から一生懸命「デザインとアート」と言っていたけれど、木々と一緒で、この5年くらい、震災後あたりから急に根付いてきた気がします。

佐藤 日本グラフィックデザイナー協会や日本デザイン振興会もミッドタウンの中に事務所があって、デザインネットワークの拠点となる施設「デザインハブ」があります。「デザインハブ」は最初、ビルの中のこんな奥地に、本当に人が来てくれるんだろうかと心配もしましたが、今や、その認知度もかなり高い。

柴田 それはやっぱり、展覧会やワークショップをはじめ、それぞれの施設の活動の積み重ねが大きいと思います。美術館でも何でも、オープン当初は注目を浴びたのに、その後廃れてしまうことって、よくありますよね。でも、ミッドタウン全体が個々の進化と共に、どんどん良くなってきている。そういう場所って、珍しいと思います。

佐藤 施設を作るのは簡単とは言わないけれど、でも、作ること以上に続けていくことが大変だし大事なんだと、つくづく思います。今改めて思うのは、21_21の場合、最初にものすごく注目されなかったのが、逆に良かったのかもしれない(笑)。知っている人なんて、ほとんどいませんでしたよ。この場所をどうするべきなのかを、本気で考えざるをえない状況で、それが大きなエネルギーになりました。『デザインあ展』だって、デザインのテレビ番組を展覧会にするなんて、NHKはやったことがなかったのですが、やや強引に説得して(笑)、実現したんです。最初に何もかも上手くいっていたら、そういう挑戦みたいなこともやらなかったかもしれない。簡単ではなかったから、良かったのかもしれません。