45 宮島達男(現代美術家)

宮島達男(現代美術家)

六本木を代表するパブリックアートのひとつ「カウンター・ヴォイド(Counter Void)」を手がけたのは、世界的にも知られる現代美術家の宮島達男さん。東日本大震災以降、消されたままになっているこの作品が、いよいよ「光の蘇生」プロジェクトとして、再点灯に向けて動き出しました。そもそもなぜ光を消したのか、そして再点灯のプロジェクトへと至った経緯、さらに3.11後の新しいアートのあり方まで、たっぷり語っていただきました。

update_2014.8.6 / photo_ryoma suzuki / text_kentaro inoue

カウンター・ヴォイドを消した理由。

カウンター・ヴォイド

カウンター・ヴォイド
高さ5m全長50mのガラススクリーンに表示された1から9までのデジタル数字が、それぞれ異なるスピードでカウントダウンを続ける。2003年にテレビ朝日の壁面に設置、2011年3月13日、作家自らの手で消灯された。
写真提供:テレビ朝日

 現在カウンター・ヴォイドは、僕自身の意志で消したままの状態になっています。実はスイッチを入れさえすればすぐにつくんですが、あえてつけていない。そのきっかけは、3.11の東日本大震災でした。震災が起きてすぐ、自分がアーティストとして何をしなければいけないかを考えたとき、まずこの作品を消そう、と。もちろんエネルギーの問題もありましたが、大勢の人が亡くなったことに対する黙祷というか、鎮魂の意味を込めています。

 震災直後には、東京にも節電の流れがあって、消しているのが当然という雰囲気がありました。それが復興が進むにしたがって、だんだん街のいろんなところに電気がつきだして、広告も光りはじめた。でも、自分としてはある種の違和感を持ち続けていて、再びつける理由が見つからないまま3年がたってしまったんです。

巨大なアート作品は、街の空間をねじ曲げる。

テレビ朝日

テレビ朝日
六本木ヒルズ内に、2003年に完成した本社ビル。北側外周にはガラス張りの吹き抜けがあり、そのほかオフィスとスタジオが設けられている。敷地内には、「カウンター・ヴォイド」をはじめ、設計した槇文彦氏が選定した3つのパブリックアートが配置されている。

 この作品はもともと、テレビ朝日が六本木に新しい社屋を建てるとき、建築家の槇文彦さんの依頼でつくったパブリックアート。よく「時刻を表しているんですか?」なんて聞かれるんですけど、そういうわけではありません(笑)。私が作品に使うデジタルの数字は人間の「生と死」の象徴で、カウンター・ヴォイドもテーマは同じ。ただ六本木の場合、昼間は白く光らせている数字を、夜は黒くしています。

 学生時代、よくディスコに踊りにきたりしていたように、言い方は悪いですが、六本木は僕にとって"ちゃらけた街"。そこにシリアスな生と死の現実というか、人間のヒューマンスケッチというか、そういうものを取り戻したいという思いが込められています。白と黒、どちらも死を表現していることに変わりはないんですが、黒のほうがより強調される。夜の六本木の風景のすぐ隣に、死が口を開けている、そんなイメージです。

 巨大なアート作品が街に突然現れると、空間は変容していきます。空間がねじ曲げられる、そこにいる人たちが「圧」を感じるといってもいいでしょう。カウンター・ヴォイドに関していえば、狙いどおり、いや狙い以上でした。それは、街行く人がいろんなリアクションをしてくれたから。実際この作品ができてから、テレビをはじめ、いろいろなメディアがここで撮影をするようになりました。ある種、東京の風景の一部になったし、受け入れられているなあという実感があって、非常にうれしかったですね。

「あの作品をもう一度見たい」という声に押されて。

 最近、「あの作品をもう一度見たい」という声をよく聞くようになって、そろそろ再点灯のタイミングなのかなと思うようになったんです。3.11のあと、節電によって東京の街は暗くなりましたが、それもゆるやかに解除されて、今ではもうエネルギーの問題なんて、まったくなかったかのよう。ただ、東北ではまだ仮設住宅に住んでいる人も多いし、再生に向かって踏み出せない人だっている。ならば、あえて今、再点灯することによって、もう一度3.11の記憶をとどめることができるかな、と。

 一方で、「消えていたという事実」を浮かび上がらせる意味合いもあります。この間、六本木アートナイトでトークイベントをしたときに、お客さんから「カウンター・ヴォイドは、もともと光がついていたんですね」という話を聞いてショックを受けました。

 ついていたことすら知らない世代が増えているとすると、「僕が消した」という意味そのものが不在になる。消し続けているというメッセージは、消したことを認識している人にしか伝わりませんから。再点灯することで、「じゃあ、なんで消えていたの?」というフィードバックにつながるんじゃないか。そんな狙いもあって、「光の蘇生」プロジェクトをはじめることにしたんです。