金持ちの所得税の一部を使って美術セミナーを開く(エリイ) 湾岸の空いている敷地をアーティストのスペースにする(卯城)
3月23日と24日に行われた「六本木アートナイト2013」。各所でイベントが目白押しのなか、六本木未来会議ではアート集団「Chim↑Pom」のエリイさんと卯城竜太さんへの公開インタビューを行いました。会場となった〈東京ミッドタウン アトリウム〉のステージには、「Chim↑Pom」の作品である高さ8mの巨大な矢印が! 対談は、かつて年間300日六本木で遊んでいたという六本木好きのエリイさんのアイディアからはじまります。
エリイ六本木って、きれいなビルやマンションがいっぱい建っているじゃないですか。そういうところに住んでいる金持ちの人たちの所得税の一部を美術に使うという法律にして、セミナーを開く。
卯城えっ、セミナー?
エリイそう。金持ちの人向け美術講座みたいな感じで。そうすると美術に興味がなかった人も慣れ親しんできて、作品を買うようになったりして、買ったものを見せ合うパーティーが繰り広げられていくような気がしますね。で、だんだん、「おれ、何とかの作品買ったんだけど」みたいな感じで自慢がはじまり、どんどん高いものが買われることにより美術業界が潤う。あと、空いているマンションの部屋をアーティストに開放するべきだと思う。
卯城六本木に空いているマンションって、あるのかな?
エリイ絶対あるよ、空いているデッドスペースが。それをうちらの作業場にしたり、アトリエにしたり。
卯城さっき金持ちの所得税の一部ってやんわり言ったけど、数日前は家を没収しても良い的なレベルで言っていたよね(笑)。
エリイまあ、そうね。とにかく全部開放すればいいんだよ。
卯城何かで読んだ美術館の成り立ちなんだけど、革命が起きました、それで貴族たちの宮殿が一般公開されました、そこにいっぱい美術作品があって、そんな感じで美術館になりました、って。そんな話しを思い出した。
僕は、六本木って、森美術館とサントリー美術館と新国立美術館があって、すでに美術の街という感じがするけど、ニューヨークと比べてみるとわかりやすいと思った。六本木ってより、もうちょい広げた港区ぐらいの規模のほうが考えやすくない?港区には湾岸もあるじゃないですか。お台場とか。ブルックリンとかチェルシーとかってあんな感じに近いよね。繁華街との距離感が。でもああいうエリアの倉庫をアーティストたちが安く借りて好きに使えてるのが、ニューヨークっていうかアートが盛んな世界中の都市の謎で、結局東京は倉庫も家賃高いし空いてなさそうだし。
エリイアーティストやってると、めっちゃお金持ちでもないじゃない。そうすると制作のスペースがないんだよね。それをサポートしたり、場所を提供したりする制度がもっとしっかりあるほうがいいんじゃないかなと思います。それによって、アーティストって育っていくと思うから。
卯城だからもし港区の湾岸あたりで敷地や建物を余らせてたら、アーティストのスペースにするって一案だと思う。まあ行政が主導しても意味ないと思うけど。でもデカい所で制作したら作品もデカくなるし、近場の六本木に美術館が3つもあるわけだから鑑賞ついでに海外とかからのスタジオヴィジットとかも増えるだろうし、俄然アートの街になりますよ。
ただ、六本木の美術館は何かちょっと遠いよね、一般人との距離が。MoMAとか路面だから盛り上がってるし、展覧会のオープニングパーティとか、ブラックライトがピカピカしてDJがいい感じでちゃらいんですよね。ああいう感じはむしろ六本木っぽいはずなのに、何故か日本の美術館はその逆をいく(笑)。
さらに言うと、港区の隣は千代田区ですよね。引き続き比べると、ニューヨークは新しいから歴史がないんだけど、東京には旧市街があるからさらに文化的なはず。港区と渋谷区で新しいアートを、千代田と台東らへんで古い文化を、って隣接感が実は絶妙なバランスなんだけど、なんか東京って広すぎるしとっちらかってるよね。その問題は千代田区にあると思うんですよ。皇居って、昔は江戸城だったでしょう。江戸城を中心に円が広がるように東京が作られたって聞いたことがあるんだけど、もはやその城がない。中心がない。そりゃとっちらかるわって思いますよ。
だからやっぱり欲しいですよ、江戸城が。オリンピックよりそこマジで真剣に考えるべきじゃない?だって、外国人が来て、東京タワーとか別にそんなに行きたくないじゃん。
エリイ私は年越し、東京タワーにしたけど。
卯城エリイちゃんは地元魂で東京タワーを愛し過ぎてるよね(笑)。とにかく日本はやっぱり歴史があるんだから、現代アートの街としての港区が出来るなら、その隣に江戸城、そして台東区に行ったらすぐ雷門が、ってコンボが本来の東京らしい文化マップなんじゃないかな。
江戸城
エリイさっきの「所得税の一部でセミナー」の話の重要なところは、美術って理解を深めていけば深めていくほど好きになると思うんですよ。だから、ちゃんと入り口をつくってあげることが大事だと思うし、入り口をつくった後、さらにその先に進んでいきたくなるような「取っかかり」をちゃんと教えてあげることがすごい肝心だと思う。「ああ、おもしろいんだな」みたいな興味深さを「種」として植えつけることができれば育つ。だから私は、強制的にでも美術に触れるセミナーみたいなものがあってもいいと思うんだよね。
卯城なるほどね。そういう人たちが本物を観る目があるかないかって大事な話だよね。つまんないことに大金そそいで消費してるだけじゃ文化なんて育つはずないしね。でもその反面ていうか、アーティスト側ももっとガチになるべきじゃない?さっき言ったスペースにしたって、「はい、ここ、どうぞ」みたいに何でも準備され過ぎちゃうと盛り上がらない気がする。ガチでアーティストたちが攻めていくような街づくりって、誰かに「ここまでこうしていいですよ」と言われるものじゃない。普通に住みつきはじめて、おもしろいことを勝手に、お金使わなくてもどんどんできる環境と態度からしか始まらないと思う。エリイちゃんは湾岸は嫌い?
エリイ嫌いだし遠い。お台場とか湾岸とかあの辺、すごい嫌い。イケてないじゃん。
卯城でも、六本木は土地も家賃も高いじゃん。
エリイまあ、そうなんだけど、それは全員にとってそうじゃん、アーティストだろうが、なかろうが。それに、余ってるよ、ビルもマンションの部屋も。
卯城じゃあ、やっぱりそれを開放してもらおう(笑)。
六本木アートナイト2013
Gold Experience
エリイ一番好きな街、多分2年前までだったら確実に六本木でしたね。六本木で10年間ぐらい、年間300日は遊んでいたので、お店も端から端まで入ったし、六本木の交差点でティッシュ配りもしてたし、六本木ヒルズの中にある「グランドハイアット東京」で清掃のバイトもしてました。今でも六本木は好きなんだけど、渋谷も好きですね。六本木と渋谷、あと、新宿。この3つは他と比べ物にならないぐらい好き。あとは全部嫌い。行きたくない。
卯城よくそれでアートの仕事ができるよと思うよね。地元から出たくなくて、ちょっと地方に行く用事とかあると憂鬱になって眠れない、みたいな。外国の仕事もこんなに多いのに。
僕も渋谷はやっぱり好きですね。制作するのも渋谷だし、ミーティングするのも渋谷だから仕事場という感じがする。
エリイ美術館でも夜中までお酒飲めたりするところがあるといいですよね。
卯城あと、今興味がある「街」ということでいうと、福島の20キロ圏内、立ち入り禁止区域はもう20キロじゃなくて10キロくらいになっているんだけど、あの中の街がどうなっているのか、どうなっていくのか。非常に関心を持っています。
エリイ日本があって、大きく見ても、近くから小さく見ても、福島というのはスポットとして浮かび上がってくるところなので、興味はすごい深いですね。
卯城ゴーストタウンって、世界中いろんなところにあるじゃないですか。田舎のゴーストタウンは全部捨てられたまま置いてあって誰も戻ろうとはしないけど、福島は帰ろうとしているじゃないですか。普通のゴーストタウンとはまったく違うわけで、その違いが気になります。
エリイ私、パレスチナ問題とかもすごい気になっていたので、この間行ってきたんですよ。パレスチナ自治区に。
卯城あんなに渋谷出るの嫌い、とか言っておいて、いきなり1週間ぐらい前に「ちょっと来週ぐらいからエルサレム行くから」って言われてビビッたけど。
エリイあの「嘆きの壁」って何なんだろうと思って、ちょっと見ておこうかなと思ったのと、あと、キリストが生まれたところと磔刑されたところはどんな感じなのかなと。で、行ってみて、キリスト的な観点から言うと、全て近場で済ませている。ベツレヘムという生まれたところからゴルゴダの丘という死んだところまで1時間半なんですよ。最後の晩餐があったところもゴルゴダの丘から徒歩10分くらい。全部近いんです。それって、すごいわかるわかる、みたいな。
卯城渋谷出たくないんだよ、みたいな。
エリイ渋谷より全然狭い。代々木公園ぐらいの中。宣教をしてるから、もちろん外には行っているんだけど、特に最後の3日間ぐらいは、徒歩15分圏内。
卯城地元を大事にしてたんだ(笑)。
エリイしてた。復活の丘とかもすぐそこの丘だから。
ニューヨーク近代美術館
卯城好きな街の話ですよね。僕はタイのカオサンロードが好きですね。バックパッカーの安宿がガーッとあって、あのチャラさがたまらなくて昔はよく行ってました。暖かいの大好きだし。日本の社会って、なんとなくギスギスしてるじゃないですか。でも、カオサンロードとかって適当で、みんなそれで楽しくやれてる感じのところがいいんですよね。
エリイ私は東京がギスギスしているなんて1ミリも感じたことないんだけど。みんなすげえやさしくて、すげえいい人じゃん。一生懸命働いて、目標を達成しようと頑張ってるじゃん。変な建前とかもないし。
卯城頑張ってるフリが多いんじゃない?
エリイいやいや、みんなすげえ本気だよ。
卯城本当にみんな頑張ってたらさ、日本が落ち込んでるみたいな感じって謎だけど。
エリイ中に数人、足を引っ張る人がいるんだよ。
卯城なるほど(笑)。日本以外の国ってバイト中でもギャグで返してくれたりするじゃないですか。アメリカの空港で稲岡君(Chim↑Pomのメンバーのひとり)が、荷物あけたら「こんなところであけるんじゃない」って職員に怒られたんだけど、中に入っているアディダスのシューズ見て、「おお、ナイスシューズ!」って(笑)。ノリが良くて笑っちゃう。日本のコンビニの店員がああいうことをやってくれる感じはあまりないよね。
エリイなくていいよ。私は黙っててほしい。「きょうも暖かいですね」みたいな感じとか、ほんとやめてほしい。黙って仕事してくれみたいな。そういうのがないところも東京のいいところだと思ってる。
エリイあと、六本木にもうちょっと24時間のお店を増やすべきだと思う。最近減った気がする。新宿は結構イケイケだけど、六本木は私が10代の頃のほうが開いてた。
卯城昨日作品の搬入で六本木に来たんだけど、メンバーに段取りを任せてたから、夜の1時に来て始発を待ち続けるって罠にはまってさ。実際に作業するのは4時ぐらいで、3時間ぐらい全然やることがないという事態に陥って、とりあえず街に出ていったわけ。初めてちゃんと六本木を徘徊したんだけど、すげえ元気だったよ。
エリイ金曜日の夜だからね。
卯城日本を元気にしよう、みたいなことがあるじゃない。でも、十分元気だな、って感じがした。
エリイ感じはするんだよ。でもあれ、半分外人だから。私いつも思うんだけど、全員国に帰ってほしいんだよね。
卯城えっ。今、つまり六本木の半分を敵に回したよね!?(笑)。
エリイ私は六本木で、みんな祖国に帰れと思いながら飲んでる。
卯城いや、日本も国際化しなきゃいけないし、六本木、ちょうどいい気がしたけど。でも、1人で飲めるところを探すのは難しい、ということも昨日わかった。ちょっと飲みに行こうと思ったんですけど、どういうところで飲めばいいのか、変なところに入って怖い思いをするのも嫌だしね。
卯城今回の六本木アートナイトに出した矢印は、BABOTさんとの共作です。イベントのプロデューサーさんは気球みたいな、何かが上に上がっていくイメージでこいつを誘ってくれました。もともとはソウルの美術館で展覧会をしたときに、23メートルの矢印をつくったんですよ。地下1階から天井も突き抜けるほど大きくて、外から見たら、美術館の3分の1ぐらいが矢印みたいな。今回は8メートルくらいです。
エリイこれが終わると、今後の予定は、岡本太郎記念館だね。
卯城そうそう。今年の7月28日まで、青山にある岡本太郎記念館で『PAVILION』展をやります。絶対おもしろい展覧会になるので、ぜひ来てください。2011年に渋谷駅の岡本太郎さんの壁画にとりつけた作品が旧作で、あとは全部新作で展開してます。
エリイ渋谷駅の作品のとき、落書きしただの何だの、みんなにイラっとしたこと言われたからね。まあ、別にいいんだけど。ちょっとむかついたんだよね。
卯城むかついたとか言っているけど、ほんとうはエリイちゃんそんなでもなくて、ディスられても、こたえてない。何でって聞いたら、Chim↑Pomをディスる人は七代先まで不幸になるって信じてるんだよね(笑)。
「PAVILION」展
取材を終えて......
トークショーの一週間ほど前に打ち合わせをした時点では「なんで六本木がデザインとアートの街になんなきゃだめなの?」と話していたエリイさん。どんなトークショーになるのか正直どきどきしていたのですが、とてもわかりやすく、納得させられる内容をChim↑Pom のお二人が話してくれました。「PAVILION」展もぜひみなさま足を運んでください。(edit_rhino)
LOVE展:アートにみる愛のかたち―シャガールから草間彌生、初音ミクまで