10月17日から11月3日まで、今年も東京ミッドタウンで開催された「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014」。芝生広場に仕掛けの施されたたくさんの椅子が並ぶ「スワリの森 DESIGN×SCIENCE」や、クリエイターによる青空教室「森の学校 by 六本木未来会議」など、「デザインのスイッチ」をテーマに多彩なイベントが開催されました。アートフェスティバル「道後オンセナート2014」などを手がけるプランナー・松田朋春さんをガイドに巡ったツアーの様子をどうぞ。
「Tokyo Midtown Award」は、今年で7回目となる東京ミッドタウン主催のコンペ。プラザ地下1階の通路沿いに、デザイン部門とアート部門を合わせて、受賞作14作品が展示されています。
「アワードのコンセプトは『JAPAN VALUE』で、今年のデザインコンペのテーマは『和える』。いいテーマですよね。ラインナップを見ていると、セールスポイントがすごくシャープでわかりやすい。他の要素が削ぎ落とされていてインパクトもありますし、審査員は選びやすかったではないでしょうか」
「こちらはデザイン部門のグランプリを獲得した、hitoeというユニットの作品『和網』。食材に和柄の焼き目をつけられる焼き網です。これは商品化されたらかなり売れそうですね。私は今年のグッドデザイン賞の審査をしていますが、審査員って、一貫した基準で評価するためにどういうスタンスで見ればいいか、最初にすごく考えるんですよ。最初と最後で気持ちが変わっちゃう、なんてことはよくあるので」
「僕はこの作品が好きですね。柴田文江賞を受賞した、前田紗希さんの『婚鑑-KONKAN-』。片方に新しい姓、もう片方に旧姓を入れられる印鑑です。審査員ごとに賞を設けているので、それぞれの審査員のキャラクターも出ていますね。柴田さんは女性デザイナーですから、名字が変わることもある女性ならではの発想をピックアップしたのかもしれません。いいデザインですし、これがあればもし離婚しても大丈夫ですね(笑)」
「これまでにも応募作品のいくつかが商品化されていて、『富士山グラス』は製法が特殊なこともあって、生産が追いついていない状況だそう。また今年は『歌舞伎フェイスパック』を有名人がブログにアップしたこともあって、ブレイクしているようですね。こういうコンペって、賞をあげたあとが大事だとよくいわれますが、商品化をし続けているのはたいしたものだと思います」
「こちらはアート部門の優秀賞『The other』。いかにも"六本木狙い"という感じもしますが、かっこいいですね。アート部門は、東京ミッドタウン内に展示するというのが前提。もちろん美術館やギャラリーなどのほうが鑑賞には適していますが、どうしても足を運ぶ人は限られます。一方、こういった商業空間で展示するのは難しさもありますが、通りすがりの人にも見てもらえるというメリットがある。僕もそっちのほうが楽しいので、プランナーとして企画するときはなるべくそうしています」
「小林万里子さんによる『明日へ変わる』というテキスタイル作品です。こういった手仕事系の作品が、最近は増えてきていますね。僕は表参道のスパイラルが主催している『SICF(スパイラル・インディペンデント・クリエーターズ・フェスティバル)』に立ち上げから関わっていて、応募作品の傾向が毎年変わるのが楽しいんです。最近はクラフト寄りになってきているように感じます。これは、3Dプリンターなどのテクノロジーが普及しつつあることの、反動なのかもしれません」
「Tokyo Midtown Award」の受賞作品を鑑賞したあとは、全面ガラスから光が差し込むアトリウムへ。こちらで開催されていたのは「Salone in Roppongi」。そこには、吉岡徳仁さんのデザインしたスツールがフロア一面に並べられていました。
「『ミラノサローネ』に行ったことのある人はいますか? 僕は一度だけ訪れたことがありますが、デザインもディスプレイもダイナミックで、とっても楽しいですよ。今年のミラノサローネで、ヴィンテージ的な価値があるプラスチック製品をつくる『カルテル』というメーカーが行ったインスタレーションを日本に持ってきたのが、この「Salone in Roppongi」。スツールのデザインをしたのは吉岡徳仁さんです」
「ミラノサローネで驚いたのは、ホテルの宿泊料金がいつもの3倍だったこと(笑)。ミラノという街全体が、さまざまな展示会を明確にビジネスとしてやっていて、ミラノサローネはその代表格。松山で手がけた『道後オンセナート』というアートイベンでは、やはりミラノのことを思い出しました。街のイベントが、どれだけ経済的にも波及していくかということですね。『道後オンセナート』では、谷川俊太郎さんや草間弥生さんが、ホテルや旅館の内装を手がけた作品もあります。12月までやっているので、よかったらぜひ泊まってみてください」
アトリウムから出てすぐのコートヤードでは、谷尻誠さん、トラフ建築設計事務所、中山英之さん、長坂常さん、藤村龍至さん、藤原徹平さん、吉村靖孝さんといった7組の建築家が、「パーツ化」をキーワードにこれからの住宅を提案する「MAKE HOUSE」が開催中。ブースを運営する、株式会社エヌ・シー・エヌの今吉さんに説明いただきました。
「私たちは材木を扱っている会社で、レゴブロックのように誰でも扱える規格化された材料と工法を展開しています。木材は金具で接続して、現場で加工することなく組み立てられるし、しかも強度が強くて安全なんです。今回、若手建築家のみなさんには、建築をもっと身近に考えられるようなコンセプトを提案していただきました。『つくる』の主語が『建築家』ではなく『みんな』になるということですね。中に模型が並んでいますので、ぜひご覧ください」(今吉さん)
「『パーツ化』というコンセプトがいいですよね。木造建築って、これまでは素材と建築様式がセットととらえられてきたけれど、ここでは素材と様式が完全に分離しています。誰にでも考えられるし、わかりやすい。ここに出展している谷尻誠さんとはよくお仕事をしています。先ほどの道後オンセナートでは、部屋の壁、床、天井、カーテンまで、すべてをハケでペタペタと塗って、絵画のような部屋をつくりだしていました。進行中はどうなっちゃうのかと不安でしたが、でき上がりは最高。あんなに面白いことができるとは思いませんでした」
DESIGN TOUCHでは毎年、こちらの芝生広場を使ってメインイベントを行っています。昨年は、藤村龍至さんが手がけた『ミッドパーク・ダンジョン』という巨大迷路を展示。これまで建築家が担当することが多かったこのスペースですが、今年は少し趣向を変えています。
「今回は、Eテレの『大科学実験』の実験監修をしているガリレオ工房と、クリエイティブディレクターの古谷遥さんによる『スワリの森 DESIGN×SCIENCE』。いろいろな仕掛けが施された"デザインのスイッチ"を押してくれるような椅子、というテーマだそうです」
「たとえばこれは、座ると音が鳴る椅子。他にも球体の地球に合わせて湾曲させた日本列島型の椅子や、離れた場所に設置された2脚の間で声のやりとりができる椅子など、さまざまです。科学とデザインという切り口が面白いですね。このように『○○とデザイン』というテーマを設けると、具体的な形になって誰にでもわかりやすくなる。スワリの森は、まるでサイエンスパークのようになっていますよね」
「グッドデザイン賞の審査をしていて気づくのは、ブルートゥース接続で照明と一体化したオーディオや、ガラスパネルを使ってフラットになった冷蔵庫など、家電にモノとしての存在感がどんどんなくなっていること。その一方で、家具、特にパーソナルな家具である椅子は、さまざまな意匠で存在を主張しています。ここに集められた椅子は、個性的だし、仕掛けが満載。こういうデザインイベントに子どもたちがたくさんいるっていうのが、またいいですよね」
最後に訪れたのは、「森の学校 by六本木未来会議」。これまでにもお伝えしているように、椿昇さんと長嶋りかこさんのインタビューから生まれたこのプロジェクトは、森の中でクリエイターが授業を行うというもの。さらに、50人のクリエイターが推薦した本が並ぶ図書室も併設されています。ツアーの終わりは、ここに設置されている黒板を使った、松田さんの"特別授業"となりました。
「僕も教育には関心があります。というのも、私たちは一般的に『いいもの』を感じる力が弱いと思うんです。いくら日本のものづくりの品質が高いと言っても、それを感じ取る力がなければ意味がない。品質の高いものに触れさせたり、精度の高さを感じさせたりすることが、日本の製造業の、未来の顧客をつくり出すことにつながる。僕はそれを『品質教育』と呼んでいます。そして、感受性が鋭いっていうことは、感じたことを表現する言葉をたくさん持っているということ。最終的には語彙の問題なんだと、最近は思うようになってきました」
「ここ、本物の教室みたいで、すてきなところじゃないですか。最後にこの場所をお借りして、みなさんからの質問に答えていきたいと思います。感想でも構いませんので、ぜひ」
――これまでの仕事で、一番楽しかったものを教えてください。
「僕は基本、楽しいことしかしないんですが......(笑)。『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』というソーシャル・エンタテイメントをご存じですか? 屋内外のさまざまな環境が再現された光がまったく入らない暗闇の中を歩くのですが、何も見えない中を進むので、全盲の人がアテンドしてくれるんです。その人たちと関わるうち、彼らの能力の高さに驚かされて、この人たちはもっと社会参加するべきだって思ったんです。そんなときに、依頼されたのが今治タオルのプロデュースの仕事でした。タオルは肌触りが肝の商品だから、彼らとコラボレーションするにはぴったり。できあがったタオルは売れ続けていて、彼らの運営資金にもなっています」
――デザインやアートの展示には、触れてはいけないと思っていました。でも、今日は体験型の展示やさわれる展示もあって、面白かったです。
「子どもたちは、さわりすぎて壊しそうな感じでしたよね(笑)。子どもって、さわれないものには興味がないんです。見るだけっていうのは不自然なことなんだなって、気づかされますね。でも、最近のデザインイベントで体験型のものが増えてきている中、『見る』だけでどこまで理解できるか、ということも大事だと思います。もちろん体験型の展示は楽しいですが、『見抜く力』が、もしかしたら衰えてしまうかもしれませんね」
――今、社会的にもデザインとアートの力が期待されているのだと思います。実際に、どれくらい求められているのでしょうか?
「デザインやアートって、要は『創意工夫』ということだと思います。それはどんな分野にも必要なこと。そういう意味では、デザインやアートの力が求められる領域はどんどん広がっているでしょう。その一方で『何かの役に立つ』ということだけにとらわれすぎてはいけないとも思います。とくにアートは、役に立つ、立たないという目線で見てもあまり意味がないところがありますよね」
「さて質問にあったように、よくいわれる『デザインとアートの違い』について、お話ししましょう。物事は、Q(問い)とA(答え)の組み合わせでできていて、適切に組み合わさることで、よりよくなっていく。私は、問いがアート、答えを出すのがデザインだと考えています。デザイナーもアーティストも、もちろん仕事上は問いも答えも出すでしょうが、重心がどちらにあるのかということです。デザイナーやアーティストと接するとき、このことを頭に入れておくと行き違いが少ないと思います」
「この図の階段の上の方向にあるのは『イノベーション』です。でも、階段を上ることだけが大切なわけじゃないし、下りるという方法だってある。では、みなさん、雑居ビルの階段をイメージしてみてください。雑居ビルの地下には、何がありますか? バー? いえ、たいていはスナックがあるんです(笑)。バーやパブには相応のデザインがあるけれど、スナックには明確なスタイルがないというか、『その他』みたいな業態なんです。「反デザイン」的な空間で、通う人はそこが好き(笑)ちなみに、東京ミッドタウンは当たり前ですがスナック的じゃないでしょう? でも、そういう方向も大事なんだと思います」
「今日のツアーで巡ったのは、DESIGN TOUCHの一部だけでしたが、どれもクオリティが高いなと感じました。今後に期待して、あえて課題を挙げるとしたら"街の使いこなし"でしょうか。これからもっと冒険してもらいたいですね。今日は脈絡なくいろいろな話をしてしまいましたが、天気のよさに免じてお許しください。お付き合いいただきありがとうございました」
information
『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014』
会場:東京ミッドタウン各所
会期:2014年10月17日(金)~11月3日(月・祝)
開館時間:10:00~22:00
休館日:会期中無休
入場料:基本無料
http://www.tokyo-midtown.com/jp/designtouch/2014/