今回の六本木デザイン&アートツアーで巡ったのは、六本木にある3つのショップ。イデーを経て独立し、現在はフリーランスのバイヤーとして活動している山田遊さんをガイドに、「テネリータ」「c:hord(コード)」「IMA CONCEPT STORE」の3店舗を訪れ、商品セレクトはもちろん、ブランディングや内装、ディスプレイまで、山田さんがプロ目線で語りました。その様子を、写真とコメントでお届けします。
最初に訪れたのは、東京ミッドタウン3階にあるライフスタイルショップ「テネリータ」。こちらは、山田さんが直近でバイイングを手がけたショップです。
「僕はいわば雇われバイヤーとして活動していて、出店の相談を受けると、まずお店のコンセプトを考え、デザイナーを選んで全体のディレクションをします。こちらのテネリータさんは、その逆のパターンで関わったお店。10周年を機にリニューアルしたんですが、アートディレクターを務める水野学さんから声をかけていただき、商品セレクトに携わっています」
「私たちテネリータは、2003年に立ち上げたブランドで、オーガニックコットンのタオルを中心に販売しています。今回のリブランディングでは、お客様の生活が豊かになるような雑貨を含めたブランドにしていくということで、山田さん、水野さんにご協力いただきました」(テネリータ 岡野さん)
「今の岡野さんの言葉どおり、テネリータの主力商品はタオルです。そこで、生活の中でタオルが使われている場面を想像してみると、その場所は限られてくるんですね。お風呂場や脱衣所、洗濯機、キッチン、トイレ、いわゆる水まわりといわれるところ。だからタオルだけを押すよりも、そういった"モイスチャー"が感じられる商品を選びましょうと提案しました」
「インテリアショップでは、水まわりの商品は奥のほうに置いてあったりしますが、タオルを主軸にしたお店なら、逆にそういう商品を前に出してみようということです。たとえばアイロン台やタオルハンガー、水野さんが主宰されている「THE(ザ)」というブランドのグラスも、水周りに関係しているという意味でOK(笑)。生活の中で関連性がある雑貨を選んで、タオルと組み合わせつつ展開しています」
「僕らは商品セレクトだけではなく、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)、つまり商品陳列についても提案しています。このお店は、向かって右側から人が流れてきます。その視線の正面にあるのが、VP(ビジュアルプレゼンテーション)といわれる場所。ここに一番見せたい主力商品を、生活感が感じられるようにディスプレイしています。お店に入ると左手に新作商品が並んでいて、さらに奥の生活雑貨につながっていくように」
「奥まで足を運んでもらうことが、お店への理解や購買につながるので、こうして一周してもらえるような動線を設計したり。単純にバイヤーといっても、商品を選んで終わりというわけではなくて、その見せ方や、どう手にとらせるかといったことまで考えて、ひとつのお店をつくっているんです」
「ちなみに、テネリータのスタッフのみなさんは、タオルを畳むのがめっちゃうまいんですよ(笑)。もちもちした触感が感じられるし、ロゴもちゃんと見えている。細かいことですけど、こういった商品を見せる環境や接客などを含めて、総合的にお店は成り立っています。オープンしたらそれでフィニッシュではなく、むしろそこからがスタート。日々、改善を加えていくという感じでしょうか」
「最近は今治タオルが有名になりましたが、どこがいいのかと聞かれると、実はよくわからないという方も多いでしょう。テネリータのタオルも今治産で、オーガニックのかなり高い国際基準を満たした商品をつくっているのですが、非常に質が高いというところまではなかなか伝わらない。今後は、わざわざ『今治』と言わなくても『テネリータのタオルはいい』と認識されるようになってほしいと思っています」
「僕もこのタオルを使っていますが、水の吸収がすごくいいんです。実際に自分が使ってみていいと思えないと、仕事としてやろうとは思いません。そのよさを伝えるために、整体じゃないですけど、少しだけ背中を押したり、骨盤の歪みを治してお店を健康にしてあげるという感じですね」
「葛西薫さんがディレクションされた『とらや』の暖簾も、僕はすごく好きですね」。次のショップへと移動する途中も、山田さんによる解説が続きます。東京ミッドタウンで山田さんが関わっているというお店にも、少しだけ立ち寄りました。
「こちらは『中川政七商店街』という、奈良で約300年も続く老舗によるお店です。実は奈良は日本一の靴下の産地ということで、こちらでは靴下のブランドを立ち上げています。僕は会社全体に携わってお仕事をさせていただいているのですが、お店の内装はインテリアデザイナーの関祐介さんが担当。売り場の表示にデジタルサイネージを使うなど現代的な工夫を盛り込みつつも、商店街の雰囲気と魅力がよく出ていますね」
「中川政七商店やテネリータが行っているブランドのリニューアル、つまり『リブランディング』って、それまで培ってきたものを良くも悪くも引きずってしまうものです。いいものを残しつつ、うまくいっていない部分を直すのは、けっこう難しい。ショップの内装や商品だけではなく、スタッフのマインドやモチベーションにも関わります。スタッフが売りたいと思えていれば、当然うまくいくんですよね」
東京ミッドタウンからミッドタウン・ガーデンを抜けた先にあるのが、アンティークショップ「c:hord」。山田さんもこのお店で店舗什器を仕入れることがあるそう。
「こちらのお店が、『c:hord』。仕事では関わっていませんが、個人的に大好きな、センスのいいショップです。六本木では、大きな商業施設に隠れて、こういうお店はなかなか目立たない。東京ミッドタウンの裏手に、こんなすてきな小さいお店があるっていうのがいいですね」
「2006年にここ赤坂にアンティークショップとしてお店を立ち上げました。現在ではほかに葉山にもお店があり、家具や雑貨の販売、什器の制作などを手がけています。最近はアンティークだけではなく、ヨーロッパの現行品も仕入れています。アパレルや飲食店の什器として購入される方も多いですね」(c:hord 高階さん)
「ヨーロッパを中心に仕入れをしていると思うんですけど、エレガントで無骨すぎず、色気が感じられるところが魅力ですね。アンティークショップは、オーナーの目利きの質がすごく問われます。このお店は、オーナーが日々『面白い』と感じていることが商品セレクトに表れている。ここのお店に通い出してから、そういう目線での商品選びを意識するようになりました」
「昔はプロ専用という感じで、僕も最初に訪れたときは『入っていいのかな』と思いましたが、今は一般の方も入りやすくなりました(笑)。こうして店内を見ても、もともとファッションブランドのディスプレイも手がけていただけに、コーディネートが非常にうまい。これもオーナーのセンスだと思います」
「僕自身はアンティークの仕入れが苦手なので、アートディレクターやインテリアデザイナーと一緒に仕事をするのと同じように、コードのオーナーさんともまた何かやりたいなと思っています。ここを紹介したのは、六本木も脇道に入ってみると、魅力的なお店があることを知ってほしかったから。実はどんな街にもこういう一軒ってあるものです。さあ、次のお店へは、少し歩きますよ」
「とかくバイヤーって、センスがあるからできると思われがちですけど、僕は、センスは経験によって磨かれると思っているんです。僕がバイヤーになったばかりの頃は、いいとか悪いとか判断するのが怖くて。じゃあ、そこからどうするかというと、ものを見るしかない。いろんなところに行って、いろんなものを見て。そうするといつしかわかる。それがセンスだと僕は思っています。水野学さんが『センスは知識からはじまる』という本を出されていましたが、同感ですね」
六本木の街を歩くこと15分、いよいよ3軒目のショップへ。イデーに勤めていた頃のエピソードや、国立新美術館の「スーベニアフロムトーキョー」での仕事のことなど、その途中にも山田さんはさまざまなお話をしてくれました。
一行が最後に訪れたのは、「IMA CONCEPT STORE」という、写真に特化した複合スペース。今年の3月にAXISビルの3階にオープンしたばかりのお店です。
「ようやく着きましたね(笑)。ここは『IMA』というアートフォト誌を立体化したショップで、カフェとブックストア、ギャラリーの3つが併設されています。さっそく入りましょう」
「私たちは、『写真のある暮らし』をテーマに、トークイベントやワークショップを開催したり、インテリアや雑貨の販売も行っています。展覧会に合わせたグッズも毎回制作していて、現在は石川直樹さんの写真展にちなんで、石川さんがつくりたいとおっしゃっていたヤクと、イエティのグッズをつくりました」(IMA CONCEPT STORE 戸倉さん)
「実は、こちらのオープン前に、グッズについて相談を受けたことがあるんです。ミュージアムショップであればポストカードやクリアファイルが定番だけど、それだと写真作品を買うまでには至らない。そこで悩んでしまって。その点、このヤクとイエティ、いいですよね(笑)。どれだけの人が写真を購入して家の中に置いてくれるんだろうと考えると......とても難しい道を選んで、しかもちゃんと実現している。六本木界隈の新しいショップの中では抜群にチャレンジングですね」
「また、店内は写真のある時間の過ごし方が豊かに表現されている。写真や作品集を買いにいくというより、そこにいる時間を楽しむというか。内装は彫刻家の名和晃平さん率いるSANDWICHと、JTQの谷川じゅんじさんによるもの。アートの展示をちゃんとわかっている人が内装を手がけているのも理に適っています。壁が大きく動いて空間をコンバージョンできる仕組みとか、いいですよね、大胆不敵で。カフェのコーヒーもおいしいし(笑)」
「僕はふだん、自分のこだわりを出しすぎないようにしています。クライアントの要望を徹底的にヒアリングして、浮かび上がってきたコンセプトを形にしていくのが僕の仕事。もちろん、売り上げなど現実の数字との戦いもあります。そういう意味では、ここのように細部までこだわったお店は、すごくうらやましい。では、ここで時間となりましたので、最後に質問などがあればどうぞ」
――バイヤーさんは、どこでどうやって商品を見つけてくるんでしょうか。海外に行くこともあると聞きましたが、国内なら見本市のような場所で買いつけるんですか?(参加者)
「ちょうど今週、日本最大の『東京インターナショナル・ギフト・ショー』という展示会がビッグサイトで行われていました。でも、そこはみんなが行くから、同じ情報しか手に入らないんです。最近は、日本国内なら産地に直接行っちゃいますね。現場のほうがいろいろな話が聞けますし、まだ世に出てないものや、予想外のものを見つけたりできますから」
――写真集って単価が高いので、Amazonなどネットで安いところを探して買おうとする人も多いと思うんです。そういった流れに負けないような店づくりとは?(参加者)
「先日、代官山の蔦屋書店の方が『ネットで代替できないサービスが信条』と言っていたんです。もちろん、ネットはどうしようもなく便利です。でも、本を立ち読みする時間が楽しいとか、コーヒーを飲みながら本が読めるとか、場所がすてきでつい長居しちゃったとか、そういうネット上には売っていないものが、ひとつの価値なんじゃないでしょうか。要は、Amazonとは争わないほうがいい、ということです(笑)」
――以前、輸入代理店に勤めていたとき、海外から輸入した商品のコピーがすでに日本で出回っていて、本物のほうがお店に置いてもらえなかったんです。そんな経験はありますか?(参加者)
「僕も知人から『真似されたんだけど、どうしたらいい?』と聞かれることがあって、文句の言い方とかを教えたりします。でも、そのスパイラルに巻き込まれちゃうと勝ち目がないんですよね......。真似することは簡単だけど、ゼロから生み出すのは難しくて、でも、やっぱり一番楽しい。そういうことを続けている人と僕は仕事をしたいと思っています」
「最後に、僕の感想を。今はどこの商業施設にも同じテナントが入った、多様性に乏しい時代になりました。でも、街をよく巡ってみると、小さなショップやギャラリーが点在しているんですね。最近は、街を回ってものを探すことをしなくなったなんて言われますが、みんながちょっと脇道に入ってみようっていう気持ちになれれば、お店も街も、きっともっと面白くなる。これからも僕は、全国に行ってみたいと思えるような店を増やしていきたいと考えています。今日はありがとうございました」