素材の味を生かしたジェラート屋さんに、路地裏の小さないなり寿司専門店......。六本木未来会議「アイデア実現プロジェクト 02」から誕生した「6×6 ROPPONGI DESIGN & ART MAP」には、6組のクリエイターが選んだ "おいしい"お店やデザインがたくさん。そこで、六本木未来会議読者のみなさんとともに、このマップを持って街をお散歩することに。ウェブをご覧の方も、ぜひマップをダウンロードしてお楽しみください。
マップのダウンロードはこちらから(ページの最下部にあります)
http://6mirai.tokyo-midtown.com/project/no2_2/
ツアーの案内役は、マップの制作メンバーでもあるお二人。紙の加工・印刷を専門的に手がける「かみの工作所」のデザインディレクター・三星安澄さんと、建築やインテリア、デザイン分野の雑誌編集などで活躍する加藤純さんです。
「おすすめのスポットを6ヵ所お願いしたところ、自ら"『勝手に今昔物語』グラフィックデザイナー篇"とタイトルまで決めて、物語風にまとめてくださったんです(笑)」(加藤)
スタート地点は、佐藤可士和さんがロゴデザインやブランディングを手がけたことでも知られている「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」。こちらは、グラフィックデザイナーの服部一成さんによるセレクト。マップ裏面を見ていただくとわかるとおり、服部さんのスペースだけが、他のクリエイターとは異なるレイアウトになっています。
「キユーピー マヨネーズの広告や『流行通信』のアートディレクションを手がけている服部さんは、僕にとって憧れの存在。緊張しつつも、制作途中のマップのデザインラフを見せたところ、案の定『違うんじゃないか?』と言われてしまって(笑)。とても愛のあるアドバイスをいただき、それを参考にしたところ、うまくいきました」(三星)
デザインに対して、とにかくストイックだという服部さんとのエピソードを聞きながら、一行は次の目的地へと向かいます。
「お散歩スポット」を担当してくれたインダストリアルデザイナー、柴田文江さんがおすすめする「ジェラテリアピッコ」は、北アルプス直送の生乳でつくるジェラートのお店。
柴田さんおすすめの「絞り立て牛乳」のほか、「そのまんまイチゴ」「ピスタチオ」など、季節や天気に合わせて提供される日替りメニューは9種類。ダブル、トリプルと、複数の味を選ぶこともできます。参加者のみなさんはあれこれ迷いながら好きな味のジェラートを購入、2階のテラス席に移動して、まずは自己紹介をすることに。
この日の顔ぶれは、ウェブデザイナーの男性やセレクトショップのバイヤーをしている女性、車の設計者から医療関係者まで、職種も年代もさまざま。「味が濃くておいしい! 六本木はよく来るんですけど、ここは知らなかったです!」「僕は3種類頼んじゃいました。"トリプル男子"です(笑)」など、ジェラートを話のきっかけに、ガイドのお二人を交えて盛り上がりました。
初対面のはずなのに、いつものツアー以上に参加者同士の距離が近くなるのが早い。これも、おいしいもののパワーでしょうか。
ちなみに今回のルートは、6組のクリエイターが選んだスポットを横断的に巡るオリジナルコース。六本木ヒルズへと向かう道中には、けやき坂に点在するストリートファニチャーについての解説も。
「この椅子は、吉岡徳仁さんがイサムノグチさんへのオマージュとしてつくった作品です。椅子全体がガラスの塊でできています」(三星)
「作品名は『雨に消える椅子』。これは、このあと歩く六本木通り沿いの『三保谷硝子店』さんでつくられたものですね」(加藤)
「テレビ朝日の本社ビルは、プリツカー賞(別名「建築界のノーベル賞」)も受賞している大御所、槇文彦さんによる設計」「六本木ヒルズは場所ごとに建築家が異なっていて、商業エリアを担当したのはジョン・ジャーディさん」などなど......。デザインやアートの見どころが多い六本木では、移動中も話題は尽きません。さあ、次の"おいしい"スポットは?
トラフ建築設計事務所の鈴野浩一さん、禿真哉さんが「建築」スポットとしておすすめする「SuperDeluxe」は、イギリス人建築家ユニット「クライン・ダイサム・アーキテクツ」が運営するイベントスペース。TIME紙の「アバンギャルドに時間を過ごすための場所」アジア第1位に選ばれたこともあるそうで、音楽系をはじめ、さまざまなイベントが開催されています。
「以前は『Deluxe』という名前で麻布十番にあって、僕らが学生の頃なんかだと、有名な建築家やデザイナーの方に会える場所というイメージ。地下には広いスペースがあって、この入り口と同じような特徴的なグラフィックパターンが使われていますね」(三星)
「みなさん、『ペチャクチャナイト』ってご存じですか? 入れ替わり立ち替わり、いろいろなジャンルのクリエイターが登場して、1枚のスライドにつき20秒間プレゼンをするイベント。トラフの二人もよく参加していますね」(加藤)
「六本木に隣接する西麻布エリアは、クラブ文化発祥の地。都内最大級のクラブ『エーライフ』の跡地にオープンした『BRAND TOKYO』は、ダンスフロア、ラウンジ、バーの3フロアが揃う王道のナイトスポット。最近は規制も厳しいですが、こういうお店も残り続けてほしいなと思います」(加藤)
ここは、Chim↑Pomのエリイさんが選んだ「ナイトスポット」のひとつ。ガイドのお二人によると、制作スタッフがみな夜の六本木事情にうとかったこともあり、エリイさんを「夜の番長(笑)」に指名したのだとか。
「クラブのほかにも、よくトイレを借りにいくという麻布警察署や、ドレス屋さん『Dear me!』などを挙げてくれて、とても面白いセレクトになりました」(三星)
残念ながらこの日はお休みだった「三保屋硝子店」は、100年以上続く老舗ガラス店。倉俣史朗さんの作品「硝子の椅子」や、現代美術家・杉本博司さんによる、アートの島・直島「護王神社」のガラスの階段を制作するなど、デザイン・アート界では、とても有名なお店です。
「ここを選んだトラフの2人が、ナイキ限定ショップを『1LOVE』デザインしたときに施工を依頼したのもこちら。円筒状のガラスの壁面にたくさんのスニーカーを陳列したのですが、壁面と棚板の継ぎ目がわからない、まるでスニーカーが浮いているように見えるディスプレイでした。以前、店主の三保谷さんにインタビューをしたことがありますが、高い技術力を誇り、難しい注文にも対応してくれるんです」(加藤)
店頭のポスターは、21_21 DESIGN SIGHTで行われている展覧会のもの。三保谷さんは21_21のディレクターの一人、三宅一生さんとも親交が深く、その縁でいつも貼ってあるのだそうです。
「こちらのおいなりさんは、本当においしいです。マップの制作が佳境に差しかかっていたときに、編集部の方が差し入れてくれて。煮詰まっていた場の雰囲気が、ぱっと華やぎましたね」(三星)
六本木通りから一本入った路地の、さらに奥にあるのが、放送作家の小山薫堂さんがおすすめする、いなり寿司専門店「呼きつね」。一行を出迎えてくれた店主の徳永明広さんが、こんな説明をしてくれました。
「ウチのおいなりさんに使っているのは、熊本の南関揚げという揚げ。お麩のようにふわふわで、きっとみなさん初めての食感だと思います。僕はもともと芝居をやっていたので、女優さんが楽屋で口紅をつけたままつまめるように、ひと口サイズにしているんです」
小山さんが熊本出身ということで、お花見のときに、スタッフがこちらのいなり寿司を買ってきて以来、大ファンになったのだそうです。
この日は特別に、4つ入りのおみやげを用意していただきました。包みを開けると「かわいい!」「おいしそう!」と、あちこちから歓声があがり、しばし撮影タイムに突入。
「めんたいこやクルミ、これからの季節は数の子のおいなりさんもあります。でも実は、揚げの味が一番わかるゴマがおすすめ。噛めば噛むほど大豆の味が染み出てきます」
徳永さんの説明に、おいなりさんをほおばりながらうなずく参加者のみなさん。「揚げがきめ細やかでふわふわ、普通のおいなりさんと全然違う!」と、おいしい余韻を残しつつ、店をあとにしました。
この頃には、もうすっかり打ち解けたツアー一行。そこかしこで自然に会話が生まれ、まさに楽しい"お散歩"ムードに。再び六本木通りを引き返し、おすすめスポットが集中する六本木交差点へと向かいます。
「交差点の上に見える『六本木のロゴ』は、サントリーのウーロン茶や、和菓子の『とらや』のアートディレクションなどで知られる、葛西薫さんのデザイン。並木道をイメージしているそうです」(三星)
トラフがセレクトしたこのロゴは、2009年に高速道路の高架がリニューアルした際に付けられました。高架下に光る照明は、東京タワーのライトアップも手がける照明デザイナー、石井幹子さんによるもの。
続いて、柴田文江さんが「地元の方々には愛着の深いブロンズ像」と語る、こちら。彫刻家・本郷新さんの作品で、戦後間もなくの1954年、六本木が復興した記念に設置されたのだそうです。
「柴田さんのオフィスは六本木。住まいも近くだとか。そのせいか、僕らの依頼に対する反応は誰よりも早かったですね。ちなみにここには、彼女がデザインした『smiley × smiley』という花壇もあります」(三星)
「ブックディレクターの幅允孝さんがおすすめしてくれた『俳優座』も、この近く。六本木の歴史を紹介した『六本木物語』という本に登場する中で、今も往時の雰囲気を残す貴重な劇場です」(加藤)
外苑東通りを乃木坂方面へと歩き、最後に訪れたのは、建築とデザイン専門のギャラリー「TOTO ギャラリー・間」。学生時代からここで数多くの建築展を見てきたというトラフの二人いわく「会場全体が作品になるような展示を楽しめる」、六本木を代表するギャラリーのひとつです。
開催されていたのは、原研哉さんがディレクションを手がけた「ARCHITECTURE FOR DOGS」という展覧会。原さんのほか、トラフ建築設計事務所や隈研吾さん、妹島和世さんなどクリエイター13組がデザインした「犬のための建築」が、自由にダウンロードできる設計図とともに公開されていました。
こちらは、トラフの作品。糸井重里さんと愛犬ブイヨンとのエピソードをヒントにデザインした、飼い主のシャツの匂いに包まれて眠れる「ワンモック」。
「みなさんとおしゃべりしながら回るのが楽しくて、僕もただ参加者のひとりになってしまいました(笑)。お話ししていると、『マップのここがいい』『また来年もつくってください』という声も聞こえてきて、僕たちが目指していたことは間違っていなかったんだな、と勇気づけられました」(三星)
締めくくりは、ギャラリー・間のテラスで、ガイドのお二人とともに、本日のツアーを振り返りました。食べ歩きに路地裏散歩などなど、テーマを絞ったいつもの「六本木デザイン&アートツアー」とは、ひと味違う今回のツアー。参加者のみなさんは、どんな感想をもったのでしょうか?
「これまで行ったことがないお店や、気づいていなかった作品にたくさん出会えました。きっと、隠れたスポットって、探せばもっとあるんじゃないか。今までは表通りしか歩いていなかったので、これからは裏道も通って、自分だけのお気に入りのスポットを探してみたいです」
「六本木は外国人観光客も多いですが、せっかく日本に来たのに上辺だけを見て帰ってしまったら、もったいないですよね。そんなときに、街の達人がおすすめしてくれるこういうマップがあったら、すごくいいなと思いました」
「イベントや展覧会など、東京ミッドタウンや六本木ヒルズを訪れることはよくあるんですが、お目当ての場所以外は見ずに帰ってしまうことが多くて。今日こうして街を歩いたことで、点在していたスポット同士が結ばれて、その間にまだ知らなかった"六本木の街"が広がっていることを教えてもらいました。マップのデザインもすてきだし、機会があればぜひまた参加したいですね」
「みなさんと一緒に回ることで、一人ひとりの方の六本木にまつわる想いやストーリーを聞くことができました。それがとても楽しかったですし、また六本木の魅力を再発見することもできました。実はこのマップには、まだ更新の余地があると思っているんです。紹介されていない場所ももちろんありますし、セレクトするクリエイターによっても変わるでしょう。今日は、六本木という街と、マップというツールの奥深さを感じた一日でした。みなさんもぜひ、自分ならではの六本木の街の楽しみ方を見つけてください。今日はありがとうございました」(加藤)