「いつか、その街の待ち合わせ場所となるような、シンボリックな作品をつくってみたい」とは、magmaの杉山純さん、宮澤謙一さんが、クリエイターインタビューで語ったアイデア。そして、3年以上の時を経て、「六本木アートナイト2022」の展示作品《ROCK’N》として実現。しかも、それはコロナ禍を経た世界だからこそ、生まれた作品となりました。 前編では、《Rock’n》が生まれた経緯を杉山さんにインタビュー。アイデアで語られた “待ち合わせ場所”としてのアートについてお話を伺いました。後編では《ROCK’N》を待ち合わせ場所に、「六本木アートナイト2022」の見どころをガイド形式で紹介します。
僕らが六本木アートナイトに展示するオブジェ作品《ROCK'N》は、六本木未来会議のクリエイターインタビューをもとに、「誰もがわかる待ち合わせ場所になるような、シンボリックなものをつくりたい」というアイデアからスタートしました。
すでにあるシンボリックな街の中のアートで思いつくのは、浅草の我妻橋から見えるアサヒビール本社屋上の金のオブジェ《フラムドール》。会社の目印としての役割は持ちながらも、みんなから妙なあだ名をつけられて愛されていて、おもしろい存在だなと思います。
また、個人的には岡本太郎さんのパブリックアートも好きですね。渋谷の《こどもの樹》とか、駅構内の《明日の神話》とか。それから、やっぱり《太陽の塔》はすごくいいなと思います。緑と空しかないところに、バーンとそびえ立っていて。自分の中にある生命観みたいなところは、岡本太郎さんから刷り込まれているのかもしれません。
今回は六本木アートナイトに展示する作品ということで、まず六本木の「6」にかかるようなものを想像して、そこからデザインを考えていきたいと思っていました。
六本木は日本でももっとも欲望が渦巻く街の1つ。人も、場所もすごくエネルギーを感じる街だと感じます。例えば、六本木ヒルズのような象徴的な高層ビルで、パワーの代表のような場所がある。人間は、より天に近くみたいな感じで、高いところに行こうとするじゃないですか。そういうものに、すごく欲望を感じるな、と。もちろん、住む人たちにも欲望はあると思うんですけど、人に関してはそれよりエネルギーを感じるんですよね。
そんなことを考えながら、浮かび上がってきたのが"六感"というテーマです。過去のmagmaの作品も、いわゆる抽象的なものを表現するというより、何かモチーフがあって、それを模倣し、自分たちでどう変えていくかというつくり方を多くしてきました。記号をコラージュしていくようなことをやってきているんですよね。そういった意味で、エネルギーを感じるモチーフは、magmaと相性がいいのではないかと思います。中でも身体のパーツは、僕たちのすごく好きなモチーフ。自分たちがつくりやすい方向に持っていく上でも、"六感"というテーマはすごく合っているのかなと感じました。
クリエイターインタビューの時、うちの宮澤謙一が「せっかくなら、一見バカげていて、とにかく巨大なものがいい。目にするたびに、勇気をもらえるような佇まいで」「世界で一番大きなコラージュ作品」と話していましたが、あらためて今回制作するとなったとき、「とにかく、大きいものをつくってみたい」という思いは変わりませんでした。
過去のmagmaの作品を振り返ると、最大の作品サイズは5mほど。香川県丸亀市の商業施設にクリスマスツリーをつくる企画で、パチンコ屋の看板のネオンを使ってつくった《丸亀町グリーン クリスマス 2017》がもっとも大きな作品です。今回は、それ以上の大きさ。体積的な部分も含め、過去で一番巨大なものになっています。
コロナ禍で武蔵野美術大学の授業を受け持ったことがありました。虚像、実像をテーマにした授業だったんですが、包丁を表現するのに実際の包丁を持ってきた学生がいまして。勿論マスクして授業をするので感情があまり読み取れないわけです。「強めの意見を言ったら最悪刺されるかもな(笑)」と思って、自分の持っている感覚を総動員してその学生と向かい合った、そんな出来事がきっかけかもしれません。
この作品は"待ち合わせ場所"という役割も含んでいるので、言語化しやすいものというのは意識しました。きっと、人って伝えるのに大変な場所を、わざわざ待ち合わせに選ばないと思うんですね。それだったら、ちょっと歩いてでも「デニーズの前で」と言った方が楽じゃないですか(笑)。だから、何かに見えるとか、言葉で表現しやすい形にしたいとは思っていました。
それこそ、以前のインタビューでは、「〇〇〇の前で」と言いやすいように、3文字くらいで呼べる名前がいいなと話していたのですが、みなさんの中に定着して「《ROCK'N》の前で」と言ってもらえるようになるといいなと思います。六本木アートナイトのシンボリックな待ち合わせとして機能するのはもちろん、六本木で飲みに行く前とか、これから楽しく遊ぶ人たちが集まる待ち合わせ場所になれば、うれしいですね。
ふと思い出したのですが......、僕と宮澤とファッションデザイナーの神田恵介さんの3人で、年に何回か定期的に会うことがあるんです。そのとき、神田さんはみんなが知っている場所というより、自分のおすすめの場所を待ち合わせ場所にしてくれるんですよ。名前を聞いただけではすんなり行けない場所なので、ちょっと調べる必要はあるのですが(笑)。でも、「ここを見てほしかったんだよ」という感じで場所を選んでくれるのは、すごく粋だなと思いますね。この《ROCK'N》も、待ち合わせにしたくなるような、人に愛される場所になればいいなと思います。