六本木未来会議が2015年から開催している六本木未来大学。様々な領域のクリエイターを講師に招き、彼らの思考から「クリエイティブディレクション」のヒントを学ぶ場をつくってきたこの大学で、今年から「アフタークラス」と呼ばれる新しい授業が始まります。
六本木未来大学で行われる講義に対して、アフタークラスはワークショップを通して、学んだことについてさらに考え、対話し、実践していくための場。講師でありファシリテーターを務めるのは、株式会社&Co.代表、そして毎年秋に開催されている働き方の祭典「TOKYO WORK DESIGN WEEK」(TWDW)オーガナイザーの横石崇さん。アフタークラスについて伺ったインタビュー前半に続き、後半では、横石さんが考える「これからの学び方」について伺いました。
そもそも横石さんが「学びの場」をつくる活動を始めたのは、2011年に起きた震災がきっかけだったといいます。
「2011年の震災が起きたあと、それまで働いていたクリエイティブエージェンシーを辞めました。日本に停滞感が渦巻いて、クリエイティブであることの価値が自分の中で見えなくなった時期です。暗中模索だったときに、この機会に海外を見てみようと思いバックパックで世界一周の旅に出ることにしました。100日間と決めて20都市ほどを回ったのですが、そのときに現地で出会う人々に『日本の若者がかわいそうだ』ということを言われたんです。たしかに日本は高齢化社会が進んでいるし、世界に知られているブランドもいわゆるレガシーで古い大企業ばかり。そんな国の若者には未来がないと。
でも、そのときぼくの周り見渡したら、ソーシャルデザインマガジンの『greenz.jp』や、生きるように働く人の仕事探しを応援する求人サイト「日本仕事百貨」といったおもしろいことをやっている同世代がたくさんいた。そういう人たちがいることをもっと世の中に知ってもらうべきだし、彼らみたいな人が、きっと元気な日本をつくっていくはずだと思ったんです。『日本の停滞感を若い人たちの力で変えられるんじゃないか』という想いが、『旅する勉強会』をコンセプトにしたラーニングキャラバンや、おもしろい仕事をしている人たちの働き方を知るためのTWDWのような学びの場をつくるきっかけとなっています」
はじめは友だち5人ほどの規模で始まったラーニングキャラバンも、回を重ねるごとに反響も大きくなり、渋谷ヒカリエの会場を借りられることになって、働き方を考える祭典TWDWの開催につながります。今年6年目を迎えるTWDWには、いまでは累計1万人が参加。100人以上のボランティアコミュニティも生まれています。
なんとボランティアメンバーの内、TWDWにかかわったあとに8割の人が転職や起業をしているそう。その理由を尋ねたところ、「学ぶことでコミュニティができるし、そのコミュニティにいることでさらに学べる、というループが生まれているからじゃないか」と横石さんは言います。「そういう人たちと一緒に学んでいくことができるというのは、TWDWの言い出しっぺとしては喜びのひとつです」
TOKYO WORK DESIGN WEEK
そんな横石さんは、これから「学ぶ」がどう変わっていくべきだと考えているのでしょうか? ひとつは「働く」や「食べる」と一緒に考えることがヒントになるといいます。
「いま、ぼくは『働く』『学ぶ』『食べる』という領域で仕事をしています。その3つに絞ったのは、24時間のなかでこの3つの時間が人と人をつなぐための価値を最も高めていくと思ったのと、なによりもぼく自身がいちばんわくわくする時間だからです。『働く』『学ぶ』『食べる』はそれぞれバラバラなものではなく、切っても切り離せない関係。『学ぶ』は『働く』ことに活きるし、一緒に『食べる』ことで、ともに『働く』『学ぶ』仲間とのコミュニケーションも円滑になる。この3つを一緒に考えることで、『学ぶ』もアップデートできると思っています」
さらに今後、人工知能やロボティクスといったテクノロジーが発達することで、人が働く時間は減り、学ぶ時間はより貴重に、そしてより多様になると横石さんは考えています。
「人工知能やロボットが普及することで、働く時間は短くなるし、細切れになる可能性が高い。その余った時間を人々は何にあてるのか?と考えたときに、学ぶというのがいちばん価値ある時間であり、かついちばんのエンターテイメントになる可能性があると思います。またインターネットでのコミュニケーションが圧倒的に増えたことで、人と直接会い、話すことの価値も見直されている。そういう意味でも、学ぶことを通してコミュニティに参加する意義は高まるはずです」
このように学びの機会が増えると、その多様性も増していく。実際にアメリカでは、学校に通うことなく一人ひとりに合った学習が行えるホームスクリーニングが普及してきているそう。「これまでの一極集中型ではなく分散型の学びが増えてくることで、学びの多様性と柔軟性も増してくる。学校だけに頼らない、新しい学びの方法を考えていかなければいけないのです」
TOKYO WORK DESIGN WEEK
最後に、これからの学びを考えるうえでどんな価値観を大事にしなければいけないのかを伺いました。横石さんが挙げてくれたキーワードは、「優しさ」と「枠を外す」の2つです。
「雑誌『WIRED』日本版の『音楽の学校』の特集で、英国の音楽学校BRIT SCHOOLの記事にこういうことが書いてありました。アデルやエイミー・ワインハウスを輩出したその名門校は、歌がうまい、楽器がうまいということで決して生徒を評価しないと。彼らが大事にしている基準は『KINDNESS(優しさ)』なんですね。それはなぜか? これからのアーティストには、エンジニアやデザイナー、フォトグラファーや経営者ともコラボレーションすることが求められるからです。
はじめに、クリエイティブディレクターに教わったことがぼくの仕事の土台になっているという話をしましたが、彼らのすごさはその『優しさ』にあると思うんです。クリエイティブディレクターがいちばんコラボレーションの価値をわかっているし、さまざまな種類の人とともに働く経験をしている。クリエイティブディレクションを学ぶ六本木未来大学の価値は、そこにあるのではないかと思っています」
もうひとつ、横石さんがクリエイティブディレクターから学んだのは「枠を外して考えること」だといいます。
「ぼくが見てきたクリエイティブディレクターたちは、ただきれいな作品をつくるだけでなく、ビジネスモデルや広告という仕組みそのものを覆すようなアイデアを実践してきた人たちです。彼らから学んだ最も大きなことは、『すべてはクリエイティブファーストであり、そのためには枠を外して考えなければいけない』という姿勢かもしれません。
海外の小学校の授業では『□+□=7』という問題が出るのに対し、日本では『3+4=□』という問題が出るように、日本人は何かと枠のなかで考えがちなのかもしれません。でも、これから始まるアフタークラスには決まった型はありません。参加するみなさんと一緒に、『枠を外して考えられる場』をつくっていけたらと思っています」
マシュマロ・チャレンジ