2015年1月12日に行われた「リアル六本木未来会議」は、プロジェクトデザイナー・古田秘馬さんのインタビューから生まれたワークショップ。これまで六本木の街を変えるアイデアをうかがってきた「クリエイターインタビュー」が50回を迎えた記念に、実際に読者の方々をまじえて「会議」をやってみようという企画です。農業実験レストラン「六本木農園」や「丸の内朝大学」など、都市と地域、世代をつなぐ仕組みづくりを行う古田さんのもと、プロジェクトデザインを体験した参加者のみなさん。そして生まれた、6つのプロジェクトとは?
「僕は六本木で生まれて六本木で育ちました。かつては今日の会場からも見える港区立檜町公園で、サッカーや野球をして遊んでいましたね(笑)。でも今は地元の人がほとんどいなくなって、外から来た人たちだけで成り立っている。みなさんも、街を外の目線から見たときに感じることはいろいろあるでしょう。今日はそういった思いを吐き出しながら、小さなアイデアが企画として形になるまでを体験してもらいたいと思っています」
「まずは、ふだんやっている仕事の話を。僕らは、自分たちでお金を集めたり、企業とタイアップしたりしながら、いろんなところを巻き込んで、こんなサービスをつくりましょうと提案します。でも、何もつくらないし何も壊しません。今そこにあるものを、角度を変えて見ることで新しい価値を生むんです。たとえば海外旅行でも、新しいものに出会えるという価値にお金を出しますよね? 価値にお金を出すということ、誰にとって価値があるのかを伝えるのが大切です」
「この中に通勤ラッシュが好きっていう人はいますか? いないですよね。でも、車内の全員が好きなタレントだったらどうでしょう? 要するに、問題は通勤ラッシュではなく、まわりの環境にあるんです。そこで、朝の時間にステキな出会いをつくれる環境があったらいいよね、というところから始まったのが『丸の内朝大学』。建物をつくったわけではなく、朝は空いている街なかの会議室などで活動しています。通勤時間のように、みなさんがネガティブに感じているものこそ、変えてあげるとチャンスになる。僕らがやっているプロジェクトデザインって、まさにそういうことのなんです」
「これまでの地方の街のブランディングは、補助金を使って観光名所や特産品をつくるというものでした。でも、これからは地域の取り組みや人々そのものがブランドになる時代。大事なのは継続性です。補助金がなくなったら終わりではなく、お客さんがお金を払ってでも来たいと思うものをつくって、リピーターや地域に関わる人を増やしていく。最近はテレビドラマの視聴率が下がっていますが、これはみんながFacebookで友だちのプロジェクトを応援するとか、自分に関わりのあることに時間を割いているから。どちらが未来の可能性を感じられますか? ということです」
「プロジェクトをデザインするポイントを6つにまとめました。まずシンプル(S)であること。どんなプロジェクトか30秒で説明できる。僕のやっている六本木農園なら、『六本木のどまん中に農家のライブハウスをつくるんです。生産者と消費者がつながる場所です』とかね。次にミスマッチ(M)、六本木で農園だからいいんです。これが新潟農園だったらたくさんあるでしょう。そしてアクション(A)、参加できること。どんなにすばらしい活動でも、一定の人しか参加できなければ広がりません。SNSが発達している今はフォトジェニック(P)、写真を撮りたくなることも重要ですよね。最後にシェア(S)したくなって、さらにビジョン(V)があること。Facebookでかわいい猫の動画があると思わずシェアしちゃうけど、大義名分がないとそこで終わってしまうということです」
「このワークシートにあるように、みなさんにはコンセプトとアイデアという言葉をしっかり使い分けてほしいんです。コンセプトは『なぜそれをやるのか』、アイデアは『どうやるのか』。このどちらかしかないプロジェクトって意外と多い。世界遺産、B級グルメ、ゆるキャラ、大河ドラマ、マラソン大会、ご当地アイドル、これを僕らは『地方の6大アイデア』と呼んでいるんですが、自治体がやっているのはだいたいこれ。最近はB級グルメコンサルタントなんて人もいますが、そもそもB級グルメって考えるものじゃなくて、もともとそこで愛されていた料理のはず。なぜやるのかを忘れると、話がズレてしまうんです」
「それから、ネーミングも大事なポイント。プロジェクトタイトルのほかに、サブタイトルも必ず考えてください。たとえば六本木農園なら、『農業実験レストラン』がサブタイトル、つまりコンセプトの部分です。そして『六本木農園』というタイトルがアイデア。2つのネーミングで役割を分担して、なぜそれをやるのかがわかるようにするのがポイントです。今日は、みなさんが考えるアイデアをきっかけに、どうやったら人々がつながるかを考えてもらいたい。そのときに、どんな思いが込められたプロジェクトなのか、それが伝わったうえで来てもらうことが重要なんです」
約1時間の古田さんによる「プロジェクトデザイン概論」のあとは、参加者が一人ひとり自己紹介を行いました。広告制作や商品開発の担当者、美術館職員、フリーライター、コミュニティデザインを学んでいる大学生など、参加者28名のバックグラウンドはさまざま。
「私は毎日パソコンで事務作業をしています。アイデア出しやプレゼン能力を少しでも身につけたいと思って『丸の内朝大学』に通うようになって、そこで六本木をテーマにした授業を受け、気がついたらここにたどり着きました。六本木は外国人が多い夜の街というイメージがあったんですが、朝大学を通してそうではないことがわかり、今は六本木にたいへん興味を持っています」(参加者)
その後、チームに分かれてランチミーティングを行うことに。この日は六本木にちなんだ6つのお弁当が用意されました(お弁当の詳細はこちら)。
「みなさんが選んだお弁当は、実はそのままチーム分けになっています。食の好みが同じ人は同じ価値観を持っているだろうということで、選んだお弁当ごとにテーブルに着いてくださいね」と古田さん。
「フィールドワークに行く前に、この街にはどんな課題があるのかを話し合ってください。しかも、自分のこととして解決できそうな課題を考えていくのが重要なポイント。たとえばさっき、六本木はマッチョな外国人がいて怖いという話がありましたけど、じゃあガリガリの弱そうな人たちだったらいいのかとか、彼らよりも自分がマッチョになればいいんじゃないのか、とかね」
ランチミーティング後は、フィールドワークへ。こちらのチームは、あえて人通りの少ない通りをリサーチ。東京ミッドタウンから六本木ヒルズへ向かう裏通りを歩いて、目についたのは、この時間にはまだ閉まっている「クラブ」。ここを活用することで、六本木の"夜の街"というイメージを解消することを思いついたようです。
一方、こちらのチームは、六本木ヒルズや東京ミッドタウンなど商業施設をチェック。ベビーカーを押すパパやママはたくさんいるけれど、孫を連れたおじいさんやおばあさんの姿はあまり見ないことから、六本木はシニア世代をターゲットにしていないのではないか? と仮説を立てました。
フィールドワークを終えると、発表に向けてプロジェクトをまとめていくことに。この間も、古田さんはそれぞれのテーブルを回りながらアドバイスをしていきます。
「たとえば『ピースキッチン』というプロジェクトが始まったのは去年の3月ぐらい。仲間と食事しているときに思いついて、翌日、僕がつくった企画書を企業の人に見せたら、予算を出してもらえることに。5月にはイタリアのスローフード協会に行き、7月にはメンバーが移住してオフィスをつくりました。今日も、東京ミッドタウンから1億円ぐらい出してもらえる企画が出てくるかもしれませんよ(笑)」
「とはいえ、企画にオリジナリティがありすぎてもうまくいきません。だから、他の業界とか違う分野にあるものを取り込むことも重要。たとえば大学ってもともとあるものだけど、朝だけの大学ってどうかな? と少し変えてみる。それから、類似サービスを調べること。アイデアが浮かぶと、ついオリジナルなものだと思ってしまいがちですが、自分が考えつくことは他の人も考えています。なぜ類似サービスがないのか、あるいは既存のサービスでできていないことはなんだろうかと考えてみてください」
ここからは、いよいよプロジェクトの発表がスタート。「金がかかったチームほどいい結果を出してくれる、ということで(笑)」と、選んだお弁当の値段が高いチームから発表していくことに。時間は5分間、それぞれのチームの発表と古田さんからのコメントをどうぞ。
学生と社会人の間で六本木のイメージにギャップがあることに気づいて生まれたのが「六本木アフター5インターン」。サブタイトルのOTTとはOn the Town Trainingの略で、OJT的に街の楽しみ方を伝えるという意味だそう。六本木を知らない人を「後輩」、詳しい人を「先輩」として、両者をネットでマッチングするプロジェクトです。
「インターンって、普通は仕事で使う言葉。それをアフター5にやるところに、アイデアのジャンプがありますね。たとえば、若手社員と学生というグループにすれば企業にもサポートしてもらいやすいし、最近よくある『バル巡り』みたいな企画と結びつけて、飲食店に賛同してもらって『アフター5インターン飲み会』にしてもいい。もっと具体的になったら、ウチの店でやってもいいかなって思いました」
続いて、前のページで六本木にはシニア世代が少ないことに目をつけたチームの発表。シニア世代と孫世代の交流が少なく、それぞれの時代の遊び方を知らないのではないかということから、「敬老の日は高齢者が子どもに、こどもの日には孫が先生となって遊びを教える。そういう場を提供することが、都心部の商業施設の使命になっていくんじゃないかと思いました」。プロジェクトは、名付けて「六本木未来道場」。
「課題を解決に導く道筋がすごくわかりやすいですね。シニアが活躍する場がないことが課題なんじゃないかということだと思いますが、六本木と道場っていう響きも意外性があっていい。敬老の日とかこどもの日とか、ターゲットが明確だと企業も乗りやすい、実行しやすいモデルですね」
「私たちはお肉が大好きな、黒毛和牛すき焼き重弁当チームです(笑)」という自己紹介からスタートしたこちらのチームが考えたのは、六本木を知らない学生を、六本木で働く新入社員がガイドするツアー。学生にとっては歳の近い社会人から就職の話を聞ける、社員にとっては優秀な学生をヘッドハンティングできるというこのプロジェクトに対して、古田さんのコメントは......。
「これ、実は学生よりもツアーをする新入社員のためになるんじゃないでしょうか。部活に入ってきた後輩に教えることではじめて先輩としての自覚が出てくるみたいな、六本木人としての自覚を生むカリキュラムになっている。いろいろな働き方の現場を見に行けるっていうのも面白そうだし。入社1年目の人だけを集めて、六本木を活用する方法を考えていくプロジェクトもいいかもしれませんね」
こちらのチームから出た意見は、「六本木は飲みが面白くない(んじゃないか)」というもの。ところが、フィールドワークの結果、ワインを目玉にしているお店が多いことに気づいたそう。「コンセプトは、『日本一ワイン好きが集まる街』。ワインはボトルをシェアするのが一般的だし、語ったり味わったりアートと相通ずる部分があるので、六本木と相性がいい」。六本木で醸造したワインのラベルをアーティストが描いたり、ぶどうの産地を見に行くツアーを開催したりと、多彩な展開を提案しました。
「イタリアのピエモンテにはワイン銀行があって、そこにはお金じゃなくてワインを預けるんです。ワインも寝かせれば価値が上がるじゃないですか。六本木にも、ものすごくレアなワインを持っている人たちがいるから、みんなで共通のワインコレクションをつくるなんていうのも面白いかもしれない。みんなでシェアできるというのがワインのいいところだから、そこをもっとネタにしていくといいですね」
「高級なイメージで行きづらいけれど本当は六本木に憧れている、そんな小心者をターゲットに考えました」という、こちらのチーム。そのプロジェクトは、パジャマで外出することで六本木に住んでいる気分を味わってもらい、パジャマメーカーの協賛でコンテストや割引サービスなどを行うというもの。フィールドワーク中、六本木ヒルズのレジデンスにパジャマ姿で入っていく外国人を見て思いついたそうです。
「ここには面白いヒントがありますね。コミュニティを円滑にするためには、みんなに『居場所』と『出番』をつくることが重要なんです。ハロウィンもそうですが、六本木は"なりきる"ことができる街。そういうルールをつくってあげると、参加しやすいんです。わかりやすいのがお祭りで、昔から祭りはコミュニティや世代を一緒に集められる装置でした。パジャマもその装置のひとつだと思うので、徹底的にやるのはありですね」
最後は、昼間は閉まっている「クラブ」に着目したチーム。「クラブに代表される夜のイメージを解消することを課題ととらえ、昼の時間帯にクラブでクラブ活動をすることを考えました。......ダジャレなんですけど(笑)」。親子で踊るダンス部にアートを学ぶ美術部、学校の部活動のようなイメージでプロジェクトを展開していく案を披露しました。
「他のチームとは違って、人ではなく場所にアプローチした面白いアイデアだと思います。都心の真ん中に日中に使える場所がこれだけあるとわかれば、それを使いたい人が出てくる。これまでに出たプロジェクトとも絡められるんじゃないかな。こういうアイデアを試すとき、僕らは最初の一店舗を見つけて実験して、そこから広げていくんですよね。このプロジェクトも進め方によっては具体的にできそうです」
全6チームの発表終了後は、古田さんからの講評が。丸一日に及んだワークショップは、こんな言葉で締めくくられました。
「みなさん、次の一歩としては、企画書をつくったり、つぶやいてみたりしてください。いろいろなところで、こういうのどう思う? とひたすら言うんです。六本木農園の畑も、前は森ビルの駐車場だったのに、『ここを畑にする』って言い続けていたら、それを当時の森ビルの社長が聞いて、会うことになって。今日、すばらしかったのは、どのプロジェクトもお金をかけなくても実現できるものだったこと。アイデアひとつで『何かが変わる』っていう予感があれば、自然とお金は集まってきます。今後、六本木未来会議はいろいろな形で展開していくと思いますが、みなさんどんどん参加して、ぜひやりたいことを実現してください」